リリィと夜の鍵 〜ただいまのある場所へ~

あのパン

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忘れられた記憶の図書館

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闇に包まれた路地を抜けると、ふたりの前に、古びた石の門が現れた。
門の上には錆びたプレートがあり、かろうじてこう読めた。

「記憶の図書館」

「ここが……扉の先?」

ユウキが言うと、ミレイはうなずいた。

「うん。ここで“忘れてしまったこと”をひとつ、思い出せたら……
 “帰る鍵”がもらえるんだって」

「思い出す……?」

そのとき、図書館の扉が音もなく開いた。

中に入ると、そこはまるで世界中の記憶を集めたような空間だった。
空に浮かぶ本棚、回転する階段、宙に浮かぶランプ……
そのすべてが、静かに、でも確かに息づいていた。

ぽつん、とランプの光に照らされた読書机に、
ミレイのぬいぐるみ「リリィ」がちょこんと座った。

そして――

「……よく来てくれました、ミレイ。ユウキさんも」

その声は、リリィからだった。

ユウキは驚き、ミレイはそっと目を閉じた。

「リリィ……しゃべったの?」

「私はこの図書館の“記録係”。ミレイの記憶を守るために、ここにいたんです」

リリィはふたりの方を見て、静かに語りはじめた。

「ミレイさん。あなたがここに来た理由――思い出してください。
 どうして“この街”に迷い込んだのか。
 そしてユウキさん。あなたが、どうして彼女の名前を覚えていたのかも」

ミレイは目を見開いた。
それは、誰にも言っていない“秘密の記憶”。

「……あの日、私は……」

その瞬間、空中に浮かぶ本の1冊が、光を放って開いた。

そこにはこう書かれていた――

「ミレイ、5歳のとき、弟が事故でいなくなった。
 あのとき、誰も助けてくれなかった。
 私だけ、置いていかれた……」

ミレイの目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。

「私、忘れてたんだ……
 あの時の痛みも、名前も、全部……」

ユウキはそっと彼女の肩に手を置いた。

「……でも、今は思い出せた。
 それが、“帰る鍵”なんだろ?」

リリィはうなずいた。

「はい。この記憶を受け入れたあなたは、もう帰れます」

そして、光の本が閉じると同時に、ふたりの前に扉が現れた。

それは――現実の世界への“帰り道”。

でも、その扉の横に、もうひとつの小さな扉があった。
それは、「リリィ自身の記憶」へとつながる扉。

ミレイはふと立ち止まり、こう呟いた。

「リリィ。あなたの記憶も……知っていい?」

扉が、静かに開いた――
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