リリィと夜の鍵 〜ただいまのある場所へ~

あのパン

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(スピンオフ)リリィと夜の鍵 〜ただいまのある場所へ~

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夜空の下、ひとりの女の子が草むらに座っていた。
その名は「りりこ」。
まだ7歳。
白いワンピースを着て、お気に入りのうさぎのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめていた。

りりこには、大好きなお母さんとお父さんがいた。
毎日一緒に夕飯を食べて、寝る前には「おやすみ」のキス。
世界は優しかった。



――ある日までは。

その日は、雨だった。

りりこは車に乗っていた。
後部座席から、お母さんとお父さんの笑い声が聞こえた。
その音が、りりこの最後の記憶になった。

次に目を覚ましたとき、りりこは「真っ白な世界」にいた。

「……ママ……パパ……?」

いくら呼んでも、誰も来ない。
代わりに現れたのは、白い帽子をかぶった、不思議な声の少女だった。

「あなたは“境界”にいます。まだ、誰の思い出にもなっていません」

「どういうこと……?」

「誰かの心に残るか、忘れ去られるか――それが“ここのルール”なんです」

りりこは震えながら、胸に抱いたぬいぐるみを見つめた。

「お願い……忘れられたくない……誰かのそばに、いたいよ……」

少女は静かにうなずいた。

「その願い、受け取りました。あなたはこれから――“リリィ”になるのです」

それからリリィは、ずっと“忘れられそうな子ども”のそばにいた。

寒い夜、ベッドで泣いていた子。
両親が離婚して、言葉を失った子。
教室の隅で、うつむいていた子。

どの子も、名前は違っていたけど、
みんな同じ光を抱いていた。

――「さみしいよ。ひとりにしないで」

リリィは声が出せなかった。
ぬいぐるみとして、抱かれることしかできなかった。

でも、ひとりだけ――「ミレイ」だけが、
初めて彼女を見てこう言ったのだ。

「リリィ、そばにいてくれてありがとう。わたし、あなたがいてくれてよかった」



そのとき、リリィは確かに“息をした”。

心の奥で、かつての「りりこ」が目を覚ました。
そして思ったのだ。

「この子のそばにいるためなら、わたしは何度でも、うさぎになるよ」



リリィは今も、ときどき夢を見る。

まだりりこだった頃、
ママとパパに手を引かれて歩いた帰り道。

夕焼けに染まった空の下、笑い合う声。
それは消えた記憶ではなく、
確かに「誰かを想った記憶」。

それが今、ミレイの胸の奥で灯っている。

――これは、忘れられた少女が「誰かの光」になるまでの、
とても小さくて、優しい物語。
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