伝説のパーティ!~王子アルベールとその仲間達は如何にして伝説と謳われる様になったか~

雨雲之水

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それは夜を統べるもの

それは夢の世界

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「プロヴィデンスの男の魔術は彼の世界全てを巻き込んで発動したが、唯一その力が及ばなかった場所があった。」



 フルカスはゆっくりと言う。



「それはドリームランド。夢の世界にまで魔術を影響させると、それを見ている人間にも何らかの影響が出るかも知れないからのう。生身のまま夢の世界に行くには特殊な条件が必要じゃし、アスワド等は夢の世界から出てくることも無い。現実世界は守られたわけじゃ。」



「そりゃぁ、向こうの世界はそれで平和かも知れねぇけど・・・」



 神妙な顔でジョンが言う。そのプロヴィデンスの男の魔術で確かに向こうの世界は守られたのかも知れない。しかし、こちらの世界はいい迷惑だ。



「夢の世界では通常の力を持つアスワド等は、向こうの夢の世界の門をこの世界の夢の世界に繋げたと言う訳じゃな。何せ必死だったじゃろうからな、現実世界では既に存在が改変されておった。物語として他の性質を持たない彼らはそれはもう良い様に遊ばれておったからな。」



 フルカスは少し悔しそうな、しかし面白そうな顔をしている。



「物語の中に閉じ込められちゃったけど、夢の世界って所ではまだ大丈夫だったんだ。でもざまぁみろだよね、あいつら平気で人に何かするのに人にやられたら本気で切れそうだもんね。」



 ミリアムが笑顔で言う。基本的に自分達が絶対的に人間の上位者だとアスワド達は思っているだろう。お道化て物を言うのも人間相手にふざけていると言った所か。



「夢の世界を繋いでこちらの世界に来ると言うだけならいいが、目的が悪すぎる。どうやってやるのかは知らないがあいつらの目的はこの世界の恐慌なのだろう?」



 アルベールは憤慨している。事はこの国の事だけに収まらない。世界がどれだけ広いか分からないが、世界規模だ。



「正確にはこの世界を恐慌に陥れてあ奴等の王を顕現させる事じゃな。」



 王と言うからには、アスワド達はその王に仕えているのだろうか?しかし、顕現と言うと神や悪魔に使う言葉だ。



「顕現と言うと、その王とやらは夢の世界にはいないのか?もしいるのなら一緒に来ただろうし。」



 アルベールの問いかけにフルカスは答える。



「儂も名前は知らんが、混沌の王と言っておったよ。どうやって呼び出す気かは知らんが、まぁそれがあ奴等の目的と言う訳じゃな。そいで、儂等悪魔や化け物も夢の世界からこちらに送り込んできたと言う訳よ。その混沌を振りまくためにな。」



「大方儂を置いて行ったのもその辺りを説明させる為じゃろ。何せ向こうじゃ最早幻想じゃ、こちらで現実の存在と認識されねば怖いのじゃろうな。」



 アスワド達の目的は分かった。やはり考えている事は碌でも無かった。超常の存在を封じ込めるプロヴィデンスの男の魔術は凄まじいが、彼らはそれをすり抜けて新天地を目指してきたのだろう。

 自分たちの目論見を止める事が出来ない、プロヴィデンスの男がいないこの世界へと。



 マルティコラスとは偶発的に出会ったのだろうが、リッチに関してはあそこで会わずともいずれどこかで戦っていただろう。そしてあんな様な事を、アスワド達は各地で行うに違いない。



 ともすれば、それ以上の何かを。



 それは止めなければならなかった。この国に、いやこの世界に住む者として彼らに対抗しなくてはならない。アルベールは拳を強く握るが、しかし有効な対抗手段は何も思いつかない。



「フルカス殿、貴方はこれからどうするつもりだ?悪魔は人間を堕落させるという話だが、それは向こうの世界での話だろう?こちらの世界の人間に何か悪さをする訳では無いと言うのなら。」



 仲間にならないか。と、アルベールはフルカスを誘った。フルカスはおそらく連れて来てもらった手前借りを返す形で最低限アスワド達に従っていたのだろう。フルカスの言葉尻にはアスワド達に対する嫌悪感がありありと見て取れた。

 そしてそれも当然だろう。確かに幻想のまま消えゆくのを助けてもらった形にはなるのだろうが、その原因を作ったのは彼等だ。



「まぁ、この世界で神だの悪魔だの言っておっても仕方ないしのう。それにあ奴等の目指す世界は儂にとっては都合が悪いのも事実じゃ。あ奴等は人間を虫の様に見ておるが、悪魔にとってはある意味で商売相手じゃからな。こっちでは魂はお代に出来んがね。」



 フルカスはカップのお茶をすすると一息ついてから言った。



「よかろう、悪魔の英知を貴様らに授けてやろうぞ。魂は貰えんみたいじゃから、取り合えず住む場所とか金とかがお代でいいかの。ともすれば悪魔だなどと呼ばれぬようになるやもしれんし。」



 悪魔と言う呼び方は向こうの世界での事で、それは言うなれば悪徳の象徴としての呼び名だった。しかしこちらの世界では違う。こちらの世界で人間に与し名を上げれば、ともすればその存在が悪魔では無い何かに変わる可能性だってある。



 ジルベルタが人間からライカンスロープへとなったように。



 悪魔である彼が目指すのは、天使としての自分だった。



 悪魔である者の中には、大昔天使だった者もいる。その最たる者が堕天使ルシファーであるが、彼らが堕天した理由はその多くが人間に惚れたり彼らに寄り添って生きたりしたからだ。

 天使は強大な力を持つ、故に人間と交わればそれは人間にとって堕落となってしまう。神はその禁を破った天使たちを追放した。



 悪魔の皆が皆元天使では無い。生まれながらの悪魔だって勿論いる。しかし悪魔だからと蔑まされるのは我慢ならなかった。悪魔は素晴らしい知識や魔術を授ける、そのものの魂と引き換えに。だがそれがどうした?悪魔は前もって魂を要求する。それも後払いだ。下らない詐欺師とは違うし、引き換えに得る知識はその対価に見合うだけの物だ。

 もっとも、そう言ったある種真面目な悪魔を呼び出すには相応に魔術の知識が無くてはならず、それなしに悪魔を呼び出そうものならどんな酷い目に遭っても文句は言えない。悪魔はそういう所には厳しい。



 しかしここには天使も神も無い。敬虔な神の信徒であったなら絶望に身をよじっているのだろうがフルカスは悪魔だ。しかもそれなりに力のある。ここで人間に力や叡智を見せ、悪魔と言うものが素晴らしい存在であると知らしめることが出来たなら?



 悪魔と言うフルカスを覆う概念そのものが覆る事にならないだろうか。



 こちらの世界では人間に尊敬される深い叡智と強大な力を持った存在になれる。かも知れないとフルカスは思った。そして、そうなればどんなにいいかと。



 だからこそ、アルベールの誘いに乗らないと言う選択肢はなかった。アスワド達の事も嫌いだった。



「しかしなんじゃな、せっかく仲間になったのがじじいじゃ不安感も拭えんじゃろう。ここは一先ず。」



 フルカスが一瞬俯いてまた顔を上げると、そこには大層な美丈夫がいた。体つきもしっかりしている。



 一同目を向いて驚いている。それはそうだ、一瞬にして姿かたちが変わったのだ。若返るという形で。



「若返る事が出来るの?でも、ならなぜいつもはおじいさんなのかしら?」



 セリエが驚きながらも質問する。



「あぁいや、若返るとかじゃなくてな。悪魔には外見なぞ殆ど関係ないんじゃ。ただ人間の間に伝わっとる姿があるもんでな。儂の場合はそれがあのじいさんの姿と言うだけの話じゃよ。その気になれば何にでもその姿を変えられるぞい。」



 そう言って今度は美女の姿に姿を変える。成程悪徳の象徴と言うだけあって妖艶な姿だ。



「美人だけどさぁ、俺ちゃんさっきのじいさん見ちゃってるしなぁ・・・」



 ジョンが複雑な顔で言う。目の前にいるのは妖艶な美女だが、それはさっきのフルカスが変化した姿。フルカスにはどれが本当の姿と言う訳でも無いのだろうが、ジョン達にしてみれば先ほどの翁の姿が頭に残っている。



「別にあの姿が元の姿と言う訳でも無いんじゃからいいじゃろうに。よぼよぼの爺さんよりは受けると思ったのに。」



 フルカスは少し心外と言った所だ。



「そんな、声まで変わって・・・」



 ミリアムが少しよろけながら言う。とは言え、フルカスがライバル足り得る事は無いだろう。先ほどのジョンと同じくアルベールもフルカスの姿は見ているのだから。



「まぁともかく、これから宜しくな。悪魔だったら見れば分かるから、他の悪魔に出会ったら儂が勧誘しようじゃないか。悪魔は誑かすのが得意じゃしな。」



「あ、あぁ。宜しく頼むよフルカス殿うわぁっ!」



 握手ついでにフルカスはアルベールに抱き着いた。中身はどうだか分からないが今の外見は妖艶な美女。否定の言葉を口にされて少しフルカスもムっと来たのだろう。ささいなイタズラ、ちょっとした意趣返しだった。



 アルベールもフルカスの先ほどの姿は見てはいるものの、今の外見そして確かな感触には抗えなかったのか顔が赤くなっている。それを見てフルカスは漸く溜飲を下げた。



 と、そこへ



「いたぁっ!」



 下段に鋭いローキックを貰い、フルカスは振り向いた。視線の先にはミリアム。確かな殺気が迸っていた。フルカスは察する。



「あ、あぁ。そういう事か。それはすまんかった、もうせぬよ。」



 この後アルベール等は王宮へと赴きフィリップに事と次第を伝える。そしてフルカスは王宮預かりとなった。悪魔であるフルカスの知識と知恵は、為政者の近くにあるのが良いとほかならぬフルカス自身が提案したためだ。



 ミリアムは内心ホッと胸を撫でおろした。
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