悪夢はイブに溺れる~異界の女神として死ぬ私を、愛知らぬ中佐は許さない~

熾音

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第9話 面影を見つめて

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 カフェテリアはアルプトラオムの宿舎から歩いて5分程度の場所にある。
 
 毎食通うには若干遠いが、これもアルプトラオムの宿舎だけが他から離れた場所にぽつんとあるせいだ。
 カフェテリア自体は一般宿舎の真横にあり、軽食を含めた全ての食事がバイキング形式で提供されているとのことだった。
 
 宿舎を出る前にリアムから手渡されたバングルに、唯舞いぶはちらりと視線を落とす。
 識別IDが登録された身分証代わりのこのバングルさえあれば、カフェテラスを含む軍内部の施設が自由に利用できるらしい。
 急なことではあるが、エドヴァルトの半ば脅しに近い職権乱用で唯舞も明日からは非戦闘員枠のアルプトラオム補佐官なのだ。
 唯舞ひとりを宿舎に残しておくより、誰かがそばにいたほうが良いだろうというエドヴァルトからの提案だった。
 

 「でもまぁ、時間が合わなかったり、行くのが面倒で宿舎で食べることのほうが多いんですよ」
 「あぁ、確かに私も疲れている時は外で食べるより部屋のほうが楽かもしれません」
 「ですよねー……カフェテリア自体は24時間開いてるけど、バイキングの提供は朝昼晩の3回だけで、あとは全部軽食提供なんです。そうなるとどっか道中で買って帰ったほうが楽なんですよねぇ」

 
 軍本部にも専用食堂はあるが、これまたアルプトラオムの部署からは遠く、そうなると自然と利用頻度は少なくなる。そんな他愛のない会話を道すがらすれば、あっという間に目的地には到着していた。
 
 全面をガラス張りにした、木のぬくもりを感じさせるナチュラルモダンな外装はちょっとした美術館だ。そんなお洒落なカフェテリアにはテラス席までちらほら人が溢れている。


 「基本、昼間は非番の人が利用するけど、本部食堂よりこっちのほうが美味しいのでわざわざこっちにまで帰ってくる人もいるみたいです。あっイブさん、そこにバングルをかざしてください」
 
 
 リアムに言われた通り、手首にはめた、やや太めのシルバーバングルをモニター部分にかざせば点滅が赤から緑に変わって自動ドアがサッと開く。
 
 唯舞の働いていた会社でもフロアごとにこういった認証があったが、首掛けのカードタイプより、このバングルタイプのほうが圧倒的に使いやすい。
 しかも有難いことに、決済機能や通話機能まであるようで、軍部内外問わずにこのバングル1つあれば手荷物要らずとのことだった。
 
 形こそ普通のC型バングルだが、理力リイスが使われているので手首にはめるとぴったりと吸い付き、理力リイス解除するまでは外れることもない。
 

 (魔法ってすごいなぁ……)

 
 驚きと関心冷めやらぬまま、がやがやした雑多な音と共にひらけた大空間に、おおっ、と唯舞は感動をこぼす。
 広々としたオープンスペースには私服の隊員と、リアムの言う通り、ちらほら軍服隊員の姿もあった。
 
 
 「あ! 今日は当たり日ですよ、イブさん! ケーキバイキングだ」

 
 リアムが唯舞の分のトレーも取って手渡しながら嬉しそうに目を輝かせる。
 彼の目線の先には、確かに"本日ケーキバイキング"という看板があった。

 明らかに日本文字ではないのだが、何故か書かれてある文字は普通に読めるし、唯舞が日本語で書くとこの世界の文字に変換されるので、原理はよく分からないが今のところ生活には困っていない。
 
 トレーに皿を置いて唯舞はリアムと共に食事が並べられている一角に足を向けた。
 
 
 「ケーキバイキングって珍しいんですか?」
 「そうなんです! いつもデザートはゼリーくらいでケーキ類は滅多に出ないんですよ!」

 
 チーズケーキとガトーショコラがお薦めですよ、と、リアムは至極嬉しそうだ。
 並んだ料理はどれも美味しそうだったが、ひとまずお薦めされたケーキを2種類とも皿に乗せる。

 
 『姉ちゃん! ケーキバイキング連れてって! 男だけじゃ行きづらいんだって!』
 

 るんるんと何個もケーキを取るリアムの姿に、そう強請ねだってきた弟の姿が重なった。
 唯舞よりも甘い物が好きで、成長期の高校生男子らしく、とにかくよく食べたのだ。
 
 
 (……リアムさんも、一緒なんだな。……タケル、元気にしてるかな……)
 
 
 切なさが胸を掠め、自然と意識が日本の家族に向く。
 リアムの後ろ姿にほんの少し弟を重ねた唯舞は、切なげな笑みにそっと吐息をこぼした。

 
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