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第11話 黒の決意 [挿絵有]
しおりを挟む「ま、触らぬ神に祟りなしってやつよ。特にアルプトラオムなんて最前線部隊だからね。でも、基本はあーちゃんが誰でも容赦なく叩き潰すからイブちゃんは心配しなくても大丈夫」
さらっとミーアが知らない名前を口にする。
どなた? と問いかけるような視線をリアムに向ければ、困った顔で彼は教えてくれた。
「ミーアさんが言ってるのはアヤセ中佐の事です。ミーアさんにとっては中佐も僕も後輩なんですよ」
「そーそー! みーんなあたしの可愛い後輩ちゃん達よ~♪ 特にあーちゃんみたいなつんつんしてるタイプはいじり倒したくなるの」
ニッと悪そうに口角を上げたミーアに、リアムは中佐をからかうのも程々にして下さいよ~と少し疲れたようにため息交じりに笑った。
冷淡なあの薄氷色の瞳を思い出して唯舞は不思議に思う。
(そういえば、中佐は大佐からも"アヤちゃん"って呼ばれてたっけ?)
アヤセのことを"アヤちゃん"と呼ぶエドヴァルトを唯舞は何度も見ている。
だが、それを当のアヤセが訂正させたりやめさせたりする様子は今までになかった。
"アヤちゃん"にしろ"あーちゃん"にしろ、そんな可愛らしい呼び名が似合う人ではないと思うのだが、意外と年上のお兄さんやお姉さんに可愛がられるタイプなのかもしれない。
「あ、とりあえずイブちゃん! ちょっと今のうちに制服を試着してみよっか。初めてだし、サイズ変更があるのなら今のうちよ」
「あ、はい。お願いします」
おいでおいでとミーアに手招きされて、唯舞は受付台の端の一部ウエスタンドアになっている所から管理庫内に入った。
軍全体の制服を管理しているだけあって倉庫内は受付から見るよりもかなり広く、膨大な量の制服がずらりと並んでいる。
「試着室、ってのはないんだけどあっちの角のカーテンで囲ってる所なら着替えられるから。着替え方が分からなかったら声かけてね。リアム坊やは覗いちゃだめよー?」
「覗きません! もう!」
「あはは~」
ふたりの会話を聞きながら唯舞はミーアに軽く頭を下げて、手渡された制服を手に奥の仕切りに向かった。
畳一畳分くらいに仕切られたそこにはパイプ椅子とスタンドミラーが置かれて簡易の試着室になっている。
(軍服……とはいったけど、制服のブレザーっぽいかなぁ? リアムさん達の制服とは結構違うみたい)
色こそは同じ黒服だが、ミーアの言っていたように非戦闘員になる唯舞の制服は比較的シンプルなものだった。
上襟下襟ともに大きめで着丈の長い縦長のジャケットに襟付きのシャツ、体のラインが強調され過ぎない緩めのカジュアルタイトスカートは膝上丈で両側にスリットが入っている仕様だ。
一応、非戦闘員とはいえ黒服は実動部隊ということだから動きやすさを重視しているのかもしれない。
ただ、やはりジャケットの肩についている肩章だったり、袖口の金糸の装飾には軍服らしさが見えた。
一緒に用意されていた靴下と、クラシカルな編み上げ式のブーツに足を通せば着替えは完成だ。
※イメージです※
(ブレザーに似てると思ったけれど、着てみたらやっぱり違うなぁ……)
鏡に映る自分の姿をとりあえず一回転して見てみる。
服のサイズは問題ないように思えたが、少しだけブーツが大きいかもしれない。
「イブちゃーん? どぉ? 着替えられたー?」
「あ、はい! あの、ブーツだけワンサイズ下に出来ますか?」
「オッケー! ブーツね、ちょっと待っててねー!」
声を掛けたミーアの足音が離れていく。
さすがは軍用のブーツだけあってつま先は硬く、ソールも滑りにくくなっているがその分重さもあり、サイズが合っていないと履き続けるのは大変そうだ。
「はい! ワンサイズ下。靴は特にメーカーでサイズが変わるから厄介だよねー」
カーテン越しにスッとブーツが差し入れられ、礼を言って履き替えると再度鏡を見る。
馴染まない服に、履き慣れない靴。
服が変わるだけで、雰囲気も、自分さえも変わって見えた。
そんな今に、唯舞は覚悟を決め、カーテンを開けて試着室から足を踏み出す。
ここにいる限り、OLの水原唯舞ではいられないのだ。
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