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第12話 面影を重ねて
しおりを挟む「お、着替えたね。他のサイズは大丈夫そ?」
簡易試着室を出た唯舞に、ミーアがすぐに声を掛けてきた。着慣れない真新しい軍服に、少しだけ緊張する。
「はい、大丈夫です」
「なら予備も含めて何着か渡すね。リアムー! あんた、イブちゃんの荷物が多いからちゃんと持ってあげてよー?」
「はいはい、分かってますよ。あっ、イブさん黒服似合ってますねー!」
待たせたはずなのにリアムは疲れた顔ひとつ見せず、軍服姿の唯舞に明るく笑いかける。その様子にミーアも満足げな顔で予備のシャツやジャケットを準備し始めた。
「ふふふ~男くさいアルプトラオムにようやく花が来たじゃない、良かったわねぇリアム」
唯舞が私服に着替えて受付まで戻ってくれば、実にご機嫌な様子でミーアがリアムに絡んでいる。
「アルプトラオムの花なんて今まではカイリくらいだったのに、や――っと普通の女の子よ!」
「まだ男の少佐を高嶺の花枠にいれてたんですか……」
「だってそこらの女子よりよっぽど女子力高いじゃん、あいつ。あ、イブちゃんはまだカイリ達には会ってないんだっけ? アルプトラオムの残りのメンバー」
「あ、はい。まだお会いしてないです」
唯舞がこの世界に来た翌日にリアム達と交代するように戦闘区に入ったという別動隊のことだ。
三人と聞いているから、そのうちの一人がカイリという人なのだろう。
「エドもあーちゃんも中々にキャラが濃いけど、あっちのカイリとオーウェンっていう男も滅茶苦茶キャラ濃いから。イブちゃん、覚悟しておいたほうが良いよ」
あっという間に紙袋を用意したミーアがそれをリアムに渡しながら悪戯っぽく笑い、カウンターの下から取り出した小ぶりの可愛らしい紙袋を唯舞に差し出してきた。
「はい、イブちゃんの荷物はこっちね。まだこの世界の商品とか分かんないでしょ? とりあえずいろんな試供品とか入れておいたから使ってみて」
「あ……ありがとうございます、ミーアさん。すごく助かります」
「ふふ、どういたしまして。せっかく綺麗な髪してるんだから、ちゃんとケアしなきゃね」
そう言うと、ミーアは唯舞の腰まである長い髪を眩しそうに見つめる。
「私なんて、見ての通り癖っ毛だから昔はイブちゃんみたいな綺麗なストレートに憧れたものよ~。早めに髪質に合うシャンプーが見つかるといいわね」
「はい、ありがとうございます。早速使ってみます」
紙袋を受け取り、また受付カウンターの端から外に出てリアムと合流すれば唯舞とリアムが並ぶ姿を見て、ミーアがまるで姉弟みたいね、と優しく笑う。
「姉弟……ですか?」
「うん。ほら何となく似てない? イブちゃんってお姉さんっぽいし」
薄紫色の唯舞と紫紺色のリアム。
どちらも濃淡の差はあれど同じ紫色の系統で、大人びた唯舞と人懐っこいリアムが並べば人によってはそう見えるのかもしれない。
何より、姉らしいといわれた唯舞には六歳年の離れた弟がいるのだ。
ふいに郷愁が胸の内をよぎりそうになった時、ごく自然にリアムが唯舞に手を差し出してくる。
「それじゃあ改めてイブさん。うちの部署は、ほんとにものすご――く大変で面倒ですが、明日からよろしくお願いします」
唯舞は、表情には出なくとも一拍だけ戸惑った。
日常的に握手を交わすことはなかったし、同世代とこんなふうに握手をする機会なんて日本にいたら経験することは少なかったに違いない。
「……こちらこそ、ご指導のほどよろしくお願いします」
差し出された手をそっと握り返せば、リアムが無邪気な顔で笑い、その裏表のない笑顔に心の中の郷愁もわずかに和らいだような気がした。
唯舞がこの世界に強制召喚されてまだ二日。
心の整理なんて出来てないし、一人になれば現実が押し寄せてきて不安になる。
けれど今こうやって親身に寄り添ってくれる人がいる環境は、ありがたく、心強いはずだ。
そう心のもやもやは静かに押し殺して、弟の面影をリアムに少しだけ重ねるよう、唯舞は小さく微笑んだ。
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