悪夢はイブに溺れる~異界の女神として死ぬ私を、愛知らぬ中佐は許さない~

熾音

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第33話 謎の親戚関係

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 ヴァシリアス名物のストリートフードを偽彼氏アヤセの財布で堪能した唯舞いぶは非常に満足げだった。
 アヤセ自身はお酒と軽い物しか口にしていなかったが、元々夜はあまり食べないタイプらしい。
 夜も普通に食べてしまう自分いぶとは正反対だ。
 
 そろそろ帰る頃合いかなと伺いみれば、こっちだと言わんばかりにアヤセが送迎待合所に向かって歩き出す。
 帰りも観光タクシーかと思っていたのだが待合所に向かうにつれどうにも周囲が騒がしくなった。
 人混みからひょいと覗いて見ればそこには漆黒の艶やかな最高級理力車ハイヤーが観光タクシーらに混ざって鎮座していたのだ。

 
 (……まさか)


 恐る恐るアヤセを見上げれば、何食わぬ涼やかな顔でその車に近付く。
 やっぱり、と何度目かの諦めにも似た思いで唯舞は多くの好奇の目に晒されながらも後に続いた。
 ドアの前で待っていた燕尾服に身を包んだ40代半ばの男はアヤセを見つけると優雅に微笑む。

 
 「お待ちしておりました。アヤセ様」
 「あぁ、久しいなヒューイ」
 「はい、アヤセ様もご健勝そうで何よりです。以前はカイリ様やエドヴァルト様らとご一緒でしたが、本日は珍しくお可愛らしいお嬢様とお二人なのですね」
 「……あれも一応、アルプトラオムだ」
 「おや、カイリ様以外にアルプトラオムに花が出来るとは」
 「……だからなんでお前達はそのポジションに奴を置きたがるんだ。ある意味アルプトラオムで一番厄介な男だろう」


 アヤセの深いため息に笑みを深めたヒューイは唯舞に視線を向けて軽く頭を下げた。
 綺麗なその姿勢に唯舞のほうが緊張してしまう。


 「初めまして、お嬢様。ハーバリエン家管財人スチュワードのヒューイ・ブランツと申します」
 「は、初めまして。唯舞・水原です」
 「イブ様、ですね。さぁ、外はお寒いでしょう。どうぞ中へ」


 ドアを開けたヒューイに促されて一度アヤセに視線を送れば、先に乗れとばかりに顔で言われてしまった。
 周囲の好奇の目もあったので唯舞は失礼します、と先に車内に乗り込む。
 さすがは最高級理力車ハイヤー、座席のシートの質からゆとり具合まで何から何まで違う。
 アヤセが乗り込んでドアが閉まれば、外部のざわめきは一切聞こえなくなった。


 「――行きは観光にとタクシーに乗せたが、思ったよりその対価が大きかったからな。迎えを呼んだ」


 少々意地の悪い言い方に、じとりと唯舞はアヤセを見ればそれが面白かったのかアヤセが小さく喉を鳴らす。


 「そんな顔をするな。別に悪気はない」
 「悪気はないけど、完全に面白がってましたよね中佐」
 「気のせいだろう」


 なるほど。そうくるか。
 唯舞の冷たい目線にもアヤセはふっと小さく口角を上げるだけだ。
 ポーンと軽い音と共にヒューイの出発を告げるアナウンスが聞こえて車は走り出す。
 空は完全に夜に染まり、沿岸部からまたきらきらとした中心部へと景色は流れていった。
 ふと、外の景色に目をやったままアヤセが口を開く。
 

 「ヒューイは……お前はまだ会った事ないが、前線にいるカイリ・テナン少佐の母方の実家ハーバリエン家の人間だ」
 「カイリ少佐……あ、えと、お名前はすごく聞いてます」


 ミーアやリアム達がよく"カイリ"の名は口にしていたから名前だけならよく知っている。
 男性だけどアルプトラオムの花、とミーアにも先ほどのヒューイにも言われていたから、どうやらすごく綺麗な人なんだろうなぁとは何となく思っているが、前線にいる彼にはまだ会えそうにもない。
 
 
 「実家自体は別の区なんだが、ヴァシリアス区にある別邸の管理を行っているのがヒューイだ。だからこっちに滞在する時は何かと世話になっている。そして明日謁見する大公閣下は少佐の母君の従兄妹にあたる」
 「え!?」


 まさかの情報が飛び込んできて思わず唯舞は背もたれから体を浮かせた。
 ザールムガンド帝国の軍人でアルプトラオムでもあるカイリの母親が、現レヂ公国の大公と従兄妹とは中々な親戚筋である。


 「だから少佐を通してだが、俺も大公閣下とは面識がある。エドヴァルトの母君の生家もこちらだからな。ちなみにもう一人、リアムと同じ管理官でもあるランドルフ・テナンがいるが、あれは父方のザールムガンド側の親戚らしい」
 「……えぇぇぇぇ……?」
 

 なんだか若干、脳内の相関図が混乱してきた。
 要はカイリとエドヴァルトの母親がレヂ公国出身で、結婚してザールムガンド帝国に嫁いできた。
 そしてカイリと管理官のランドルフは嫁ぎ先のザールムガンドの親戚筋で、最大級の驚きはカイリの母親が現レヂ公国大公の従兄妹ということだろう。
 
 
 「なんだか……アルプトラオムって濃い、ですね」
 「本当にな。とにかく明日は大公閣下との謁見だ。今日はゆっくり休んでおけ」
 

 混乱した頭で唯一出てきたのがその言葉だ。
 同意を示したアヤセはまぁ追々分かる、とフォローめいたことを言ってきたが、いつの間にか到着していた一際格式高そうなホテルを見上げて、またかと唯舞は乾いた笑いを浮かべることになる。
 庶民には心臓に悪い高待遇ばかりだ。

 
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