34 / 160
第34話 大公アーサー・ヴァシリアス
しおりを挟む朝はゆっくりとしていい、と言われたので9時ごろまでだらだらとしてから遅めの朝食を食べれば、昨日会ったヒューイが迎えにやって来た。
どうやら謁見に際して服装などの手配をしてくれたようで、店に着くなり蝶よ花よの勢いでお店のお姉さま方の着せ替え人形と化し、メイクや髪まで綺麗にセットされた唯舞はすでに満身創痍だ。
これでフォーマルなロングドレスやらカクテルドレスなんて言われた日には脳内がパンクしてしまいそうだったが、今回の謁見はあくまでビジネスの一環で、そこまで格式張った装いはしなくてもいいらしい。
おかげで唯舞の服装はシンプルな黒の膝丈のワンピースに紺色のジャケットを合わせたものである。
一足先に着替え終わっていたアヤセもグレーのダークスーツに身を包んでおり、お店のお姉さま方がカーテンの影からきゃーきゃーと黄色い歓声を上げていた。
素敵な恋人ね! とここでも言われたのでひとまず礼だけ言っておく。
(確かにスーツ姿の男性って魅力的だもんね。中佐は特に綺麗だから)
どこか他人事のようにうんうんと心の中で頷きながら唯舞はお待たせしましたとアヤセの元に向かった。
ヒューイの送迎で向かうのはいよいよレヂ公国大公アーサー・ヴァシリアスの居城だ。
一国の大公でもあるヴァシリアス公爵に謁見するのだからと車内でアヤセも唯舞も理力を解除して髪色を戻す。
馴染みの白銀の髪が目の前で揺れて、なんだか少し気恥ずかしさを感じた唯舞はふるっと意識を払った。
昨日一日、淡青色の髪のアヤセと若干距離が近かったせいかもしれない。
先に車から降り立った彼には怪訝そうにされたが、何でもないですと唯舞はその後ろ姿を追った。
城内に入れば控えの間に通され、こういう時は結構待たされるものだと思ったのに思いのほかすぐに案内されていよいよ心臓がドキドキしてくる。顔に出なくて本当に良かった。
重厚な両面開きの扉が開かれると執務机に向かう一人の初老の男性の姿が見え、彼はアヤセを見るとまるで春の木漏れ日のような柔らかそうな微笑みを浮かべる。
淡い栗色の髪と瞳も相まってほんのり浮かぶ皺さえも優しい、なんだかとても穏やかそうな人だ。
「やぁ、シュバイツ中佐。二年ぶりかな? 久しいね」
「お久しぶりでございます、大公閣下」
「ふふふ、私と君との間柄だ。堅苦しいのはよそうか、アヤセ君」
ドアが閉じられるとアーサーは立ち上がり、アヤセの元まで歩み寄る。
胸元から一通の書状を取り出したアヤセはそれを彼に手渡し、その場で開封したアーサーの眉が僅かに寄った。
「やはりそうか……――初めまして、君がミズハラ・イブさんだね」
「へ……!? は、はい」
まさか自分に話が向くとは思わず一瞬上ずった声になってしまう。しかも日本語読みで名前を呼ばれて余計に戸惑ってしまった。
そんな唯舞にアーサーは気にした様子もなく柔和な顔のままふわりと微笑む。
「異界からいきなり喚ばれて困惑しただろう。私にできることがあればなんでも言っておくれ。出来る限り力になろう」
「あ……ありがとうございます」
「アーサー様。彼女は異界への帰還や過去の異界人について調べたいとの事で、可能ならば公都図書館の禁書エリアを含めた公国内の施設の立ち入り許可をいただきたいのですが」
「あぁ、勿論構わないよ。すぐに手配しておこう」
そういうとアーサーはホログラムモニターを起動させて、その場で許可を取り付けてくれた。
唯舞とアヤセのバングルにも立ち入りの許可証が送られてくる。
「ちょうど古本市の季節だからそちらも覘いてみるといい。ここではあまり気を詰めず、ゆっくり観光しておいき」
「はい、ありがとうございます」
唯舞が軽く会釈をすれば、アーサーは眩しげに瞳を細めた。
その後少しだけ会話をしてその日の謁見は終了だ。
唯舞達が去った後、受け取った書状を見ながら苦々しく思う。
最近、リドミンゲル皇国の動きが活発だと思ったが懲りずに異界人召喚の儀に及んでいたのか。
レヂ公国にまで間諜らがいつも以上に入り込んでいるのだから、唯舞をザールムガンド帝国から一時逃がした彼の判断は正解だったに違いない。
「そういえば異界人の名は家名が先だと教えてくれたのは、君だったね……エドヴァルト君」
召喚した異界人はリドミンゲル皇国ではなく、あのエドヴァルトの手元におり、しかも自分とほぼ同格のアヤセを護衛につけているあたり彼のやり切れなさを感じる。
それが彼とあの子の運命ならなんと残酷だろう、とアーサーは哀しげに唯舞達が去った扉を見つめた。
手元のエドヴァルトからの書状にはたった一言。
"水原唯舞。13年前同様、彼女が今回の人柱です"
とだけが書かれてあった。
0
あなたにおすすめの小説
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
お見合いに代理出席したら花嫁になっちゃいました
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
綾美は平日派遣の事務仕事をしているが、暇な土日に便利屋のバイトをしている。ある日、お見合いの代理出席をする為にホテルへ向かったのだが、そこにいたのは!?
婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!
柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。
公爵家の秘密の愛娘
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。
過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。
そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。
「パパ……私はあなたの娘です」
名乗り出るアンジェラ。
◇
アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。
この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。
初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。
母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞
🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞
🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇♀️
《完結》《異世界アイオグリーンライト・ストーリー》でブスですって!女の子は変われますか?変われました!!
皇子(みこ)
恋愛
辺境の地でのんびり?過ごして居たのに、王都の舞踏会に参加なんて!あんな奴等のいる所なんて、ぜーたいに行きません!でブスなんて言われた幼少時の記憶は忘れないー!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる