悪夢はイブに溺れる~異界の女神として死ぬ私を、愛知らぬ中佐は許さない~

熾音

文字の大きさ
62 / 160

第62話 女子会?(2)

しおりを挟む
 
 絶望に打ちひしがれている二人に対し、唯舞は数秒だけ考えると、思い出したように少し目線を下げた。


 「後は……そうですね。慰めて、もらいました」
 「……え?」
 
 
 思わずカイリとミーアが顔を上げる。
 その時の唯舞の顔は、困惑と切なさを合わせたような不思議な表情だった。


 「色々あって。私が抱えられなくなった時、中佐がそばにいてくれたんです」
 「そばに……?」


 悪くない、が、現状ではただ本当にそばにいただけの可能性もある。
 話を聞く限り、唯舞はあまりにもアヤセを意識していないのだ。異性として。男として。

 だが、そんなカイリとミーアの警戒とは裏腹に、唯舞の頬がほんのりと染まる。

 
 「…………イブちゃん?」
 「え、えと……なんでも、ないです」
 「待って待って待って。イブちゃん、何かあったのね?! もしかしてあの子が何かした?」


 口ごもる唯舞に、無自覚とはいえ想いを寄せているアヤセがもしかして……なんてこともあるかもしれない。
 ミーアとカイリが全力で叩き潰す準備をして構えれば、唯舞は戸惑うように言葉を探して、おずおずと呟いた。


 「……抱きしめて……もらいました」

 
 その声があまりにも消え入りそうな声だったから、意識していなかったら気付かなかったかもしれない。
 瞳を伏せた唯舞の睫毛がふるりと揺れて、ようやくカイリ達はほっと警戒を解く。


 「そう、なの……あの子ったらイブちゃんが辛いのにそれくらいしかしなかったのね。ごめんなさいね、不器用な子で」
 「いえ、あの……その……すごく、安心したので」


 おやおや、と次第に頬の赤みが広がる唯舞に目ざとく二人は気付く。


 「ちなみに、あーちゃんの何に安心した?」

 
 これはまだ何かあると本能のままにミーアが猫なで声で尋ねれば、唯舞は視線を一瞬彷徨わせ、甘い吐息を零すように呟いた。


 「香り、に……すごく落ち着いた、気がして……」


 ここにきてようやく感じた手ごたえに、カイリとミーアはテーブルの下でグッとガッツポーズを交わす。
 唯舞がアヤセの香りに反応する――それは唯舞が、無意識だとしても本能レベルでアヤセを受け入れているということに他ならない。恋愛において、匂いとはそれほどに重要なものなのだ。

 
 「そっか。それでイブちゃんが落ち着けたのなら良かった。二人旅だったからね、あーちゃんなりに頑張ったんじゃない?」
 「そうね。言いたいことはあるけど、イブちゃんの支えになったのなら及第点かしら」


 そこでようやくひと段落ついた三人は軽めの朝食に手を伸ばす。


 「そういえば、今年の年の終わりヤーレスエンデはアインセルに行くんでしょ? イブちゃん準備できた?」
 「?」

 ふとミーアが唯舞に尋ねれば唯舞はなんのことだろうと首を傾げ、その様子に全てを察したミーアが額を押さえる。


 「あ――……待って。こりゃ誰もイブちゃんに説明してないパターンね」
 「ちょっと、嘘でしょう?! 女の子は準備がいるのよ?!」
 「そんな気遣い持ってたらアイツらじゃないわよ。カイリじゃないんだから」

 
 はぁっと大きく肩を落としてミーアは申し訳なさそうに唯舞に顔を向けた。


 「ごめんねーイブちゃん。急になるんだけど、5日後にカイリ達とアインセルに行くことになってるのよー」
 「へ……?」


 ミーアのいうアインセルとはこの首都ヴァインのちょうど真南に位置する大陸で、レヂ公国とはまた違った一面を持つ多国籍多民族の国アインセル連邦のことだ。今週レヂ公国から帰国したばかりの唯舞には初耳のことである。
 
 
 「あぁもう! 前回のレヂも急に行かせたっていうのにまた突発なんて! アインセルに連れて行くことなんて11月の時点で決まっていたでしょうに!」
 「わ、私なら大丈夫ですよカイリさん。でも、今回は何をしに行くんですか?」


 荒ぶるカイリに宥めるよう声をかければ、ため息交じりにカイリは説明を始めた。


 「私達の理力リイスの再契約の時期なの。今回は運悪く役職組が四人も被る時期だからイブちゃんをここには残せなくて。だから一緒に来てもらいたいの」

 
 ごめんなさいね、と麗しい相貌が苦笑する。
 そうか。理力リイスは精霊との契約があって初めて使えるものだったと唯舞は思い出して納得した。


 「さすがにリアムとランドルフじゃ実力的に心許ないからね~」
 「そうなの。私達が四人揃えば、今度はイブちゃんの前に何人たりとも寄せつけないから安心してね?」


 すぅっとカイリの瞳が細められ、微笑んでいるのに背筋が凍るような冷たさに唯舞はぞくりと背中を震わせる。


 「カイリ、カイリ。今戦闘中じゃないから殺気引っ込めて。イブちゃんがびっくりするから。ついでに周りも」
 「あら、イヤだ。私としたことが。ごめんなさいね、イブちゃん」


 柔らかな笑みに戻ったカイリに、唯舞はそっと息を吐いて苦笑する。
 周りから戦闘特化型と言われるカイリは、どんなに美しくても、アヤセと同じ――戦場に咲くアルプトラオムなのだ。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

人生の攻略本を拾いました~彼女の行動がギャルゲー感覚で予測できるので、簡単にハーレム……とおもいきや誰かが死んでしまうらしい~

星上みかん(嬉野K)
恋愛
ギャルゲーマスターに攻略本を与えた結果。 この作品は、 【カクヨム】 【ノベルアップ+】 【アルファポリス】 に投稿しております。 ☆ 会話が苦手で、女性と楽しく話すなんて縁がない主人公。 ある日『人生の攻略本』と書かれた本を拾う。その本には学校でもトップクラスの美少女4人の攻略法が示されていた。まるで未来予知のように、彼女たちの行動が示されていたのである。 何を言えば好感度が上がるのか。どの行動をすれば告白されるのかまで、詳しく書かれていた。 これを使えば簡単に彼女およびハーレムが作れる、と浮足立つ主人公。 しかし攻略本を読み進めていくと、どうやらとあるキャラクターが死んでしまうようで。 その人の死は回避したい。しかし誰が死んでしまうのかはわからない。 ということで、全員と仲良くならないといけない。 仕方がなく、やむを得ず、本意ではないけれどハーレムを作ることになってしまう。 あくまでも人命救助に必要なだけですよ。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

お見合いに代理出席したら花嫁になっちゃいました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
綾美は平日派遣の事務仕事をしているが、暇な土日に便利屋のバイトをしている。ある日、お見合いの代理出席をする為にホテルへ向かったのだが、そこにいたのは!?

婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!

柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

《完結》《異世界アイオグリーンライト・ストーリー》でブスですって!女の子は変われますか?変われました!!

皇子(みこ)
恋愛
辺境の地でのんびり?過ごして居たのに、王都の舞踏会に参加なんて!あんな奴等のいる所なんて、ぜーたいに行きません!でブスなんて言われた幼少時の記憶は忘れないー!

処理中です...