悪夢はイブに溺れる~異界の女神として死ぬ私を、愛知らぬ中佐は許さない~

熾音

文字の大きさ
91 / 160

第91話 過去の記憶・閑話

しおりを挟む

 *


 (大佐のお母さんも、聖女だったの……?)


 詰め込まれるような情報の波に溺れてしまいそうだった。
 ハッとしたようにアヤセが顔を上げ、目の前のオーウェンを見る。


 「そうか、だから唯舞いぶで八人目だったんだな? 聖女は、異界人聖女だけとは限らない。異界人聖女が唯舞で五人目ならば、あとの三人は……」
 

 アヤセの言葉に応じるように、エドヴァルトの視線が唯舞に向く。
 下がり気味の眉が混乱を現すようで、最初に会った時と比べて本当に表情が豊かになったなぁ、と、どこか保護者目線で微笑みが零れた。
 そう、きっとそれでいいのだ。
 彼女は深紅みくの代わりなどではなく、エドヴァルトが庇護すべき女の子なのだから。
 

 「……初代聖女は当時の皇弟に嫁ぎ子を成した。その結果、聖女の素質を持つ人間がリドミンゲル皇族にも生まれるようになったんだよ。でも、その事実に気付いたのは幼い皇族聖女が二人も亡くなったあと。情報が少なかったとはいえ、初代聖女から数えれば40年近く時間があったのに、ほんと無能だよね」


 吐き捨てるように深く息をついたエドヴァルトは一度ため息で怒りを逃してから話を続けた。

 彼の話によれば、亡くなった二人の皇族聖女というのはあまりにも幼く、幼い頃から病弱だったために当時は誰一人として彼女達が聖女だったとは気付けなかったそうだ。
 聖女だったと判明したのは、彼女達が初代聖女同様に髪の毛一本、爪の一欠片さえも残らずに光となって消えたからである。
 
 そうして聖女のことわりは少しずつ明るみになっていった。
 
 第一に、異界召喚が可能になるのは星が揃う13年に一度で、星が揃わない年には初代聖女の血を継ぐ皇族内に適合者がいるということ。
 
 第二に、聖女には理力リイスを増幅したり回復したりする特性があり、それが大地に吸収されることで豊穣をもたらし、国力増加・国家繁栄に繋がるということ。
 
 第三に、聖女は理力リイスそのものは保有せず、自身の生命力で加護を展開しているということ。
 そして、その加護に聖女自身の生死は関係なく、一定期間続くということ。

 第四に、生命力を失った聖女の身体は、光となってこの世から消え去るということ。


 「理力リイスの増幅と回復……」


 ぽつりと呟くアヤセにはどちらも身に覚えがあった。
 
 ひとつはレヂ公国でリドミンゲルの精鋭部隊に襲撃された時だ。
 あの時のアヤセの理力リイスは明らかに通常時よりも威力が跳ね上がっており、精密さが増していた。

 そしてもうひとつが使い魔達。
 本来なら定期的な理力リイス補充が必要な存在にも関わらず、唯舞の中にいるだけで常に理力リイスが回復していると言ってた彼らの発言を考えれば、この二つは間違いなく唯舞の加護によってもたらされたものだろう。

 
 「だけどね、今回みたいに大地と繋がってしまうと危ないんだよ」


 よしよしと無事を確認するようにエドヴァルトが唯舞の頭を撫でる。
 今日の彼がいつも以上に唯舞に触れてくるのは、無意識のうちに彼女が生きていることを確かめたいからなのかもしれない。
 
 
 「大地と繋がる……ですか?」
 「そう。今回唯舞ちゃんが倒れたのは大地と繋がって生命力を奪われたから。おかげでこの周辺地域はしばらくは豊かになるだろうけど、まぁ唯舞ちゃんが定住する訳じゃないし一過性のものだろうね」
 「……だが、今まで大地と繋がることなんてなかったはずだ。何故、今回……」


 アヤセの問いにエドヴァルトは緩く首を振る。
 
 
 「俺にも正確なことは分からない。けど、唯舞ちゃんの様子を見るにあの木が原因だったのかもね」
 「…………"桜"の、木」
 「……うん、そっか。唯舞ちゃんのところではそう呼んでるんだね。深紅みくが描いた封本の表紙のあの木と同じなんでしょ?」
 「…………はい」

 
 そうか、この世界では"桜"さえも伝わらないのか。そう思ったらぽつんと、急にみんなから取り残されたような寂しさを覚えた。


 (今までも伝わらない言葉はあったけど、どれも全部、日本に関わる言葉ばかりだった……)


 今まで不思議に思う程度だったことが、ここにきて違和感に変わる。思い出すように唯舞は今までの違和感キオクを辿った。

 
 『異界人は力を持ってんじゃねぇの?』
 『の精霊みたい』
 『異界に住むと言われる理力リイスを持っているという異界人――私達だったってわけ』
 『の聖女様、なんて呼ばれてね』

 
 伝わらなかったのは、桜、富士山、日の丸、日本、という言葉。
 そして、聖女の役割は、理力リイスの増幅と回復、そして豊穣。
 
 きっと、違和感のピースはあちこちに散らばっていたのだ。

 
 (……待って。私は最初、この世界をどう思ったんだっけ……?)


 あの日。この異世界に転移してきた、あの日の夜。
 
 ここは、で生きてきた自分にとっては理解し難い世界だと、確かにそう思ったはずだ。

 その直感こそがこの世界の根幹へと繋がっていくのだが、この時の唯舞はまだ、その全てを断片的な欠片でしか理解することが出来なかった。

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

お見合いに代理出席したら花嫁になっちゃいました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
綾美は平日派遣の事務仕事をしているが、暇な土日に便利屋のバイトをしている。ある日、お見合いの代理出席をする為にホテルへ向かったのだが、そこにいたのは!?

婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!

柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

《完結》《異世界アイオグリーンライト・ストーリー》でブスですって!女の子は変われますか?変われました!!

皇子(みこ)
恋愛
辺境の地でのんびり?過ごして居たのに、王都の舞踏会に参加なんて!あんな奴等のいる所なんて、ぜーたいに行きません!でブスなんて言われた幼少時の記憶は忘れないー!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...