悪夢はイブに溺れる~異界の女神として死ぬ私を、愛知らぬ中佐は許さない~

熾音

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第160話 悪夢はイブに溺れる [挿絵有]

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 あれから三ヶ月が過ぎ――
 
 100年に及んだザールムガンド帝国とリドミンゲル皇国の争いは、前皇帝ファインツの死と、エドヴァルトの即位によって終止符が打たれた。
 両国は正式な和平条約を締結し、その一ヶ月後、エドヴァルトの短い治世を最後にリドミンゲルはザールムガンド帝国に統合される。
 当のエドヴァルトというと、退役を望んでいた母の侍従長ルイス・バーデンに全権を押し付け、足早にリドミンゲル皇国を去ったらしい。

 

 *



 「ミクさん、イブさん! 大佐知りませんかー?!」

 
 今日も執務室には泣きそうなリアムの声が響く。
 同じモニターを見ていた唯舞いぶ深紅みくは揃って首を傾げた。

 
 「大佐、は……朝以降は見てないですね」
 「またエドがいないの? ほんとごめん、ちょっと待ってて」


 深紅が慣れたようにバングルを操作するのを横目に、唯舞がアヤセのそばまで寄ってそっと書類を差し出す。

 
 「中佐、確認お願いします」
 「……だからお前はいつまで中佐呼びなんだ」
 「え? あ……だっ、て、その……今は、仕事中だから」
 「あいつらは使い分けなんてしないだろう」


 それがエドヴァルトと深紅のことだと察して、唯舞は困ったように笑う。
 

 「……拗ねないでください」
 「別に拗ねてない」
 「もう、完全に拗ねてるじゃないですか。……仕方ないなぁ……深紅ちゃーん、私達、先にお昼もらうねー」
 「はーい、ごゆっくり~」
 「深紅! 浮気って何?! 相手誰?! 殺すから!」
 「はい、リアム君確保――!」
 「見つけましたよ大佐ぁぁぁ!」


 行きますよ、とアヤセの手を引いて大騒ぎの執務室を後にする。
 相変わらず苦手な瞬時移動で向かったのはアヤセの私室。
 昼休みは一時間だし、移動時間短縮にはこれが一番手っ取り早いのだ。
 

 「はい、アヤセさん」
 
 
 部屋に入って唯舞が両手を広げれば、アヤセが何も言わずにぎゅっと抱きしめてくる。
 アヤセの頭を撫でながら唯舞は笑った。この年上の恋人は、思った以上に甘えたで可愛らしいのだ。
 
 
 「寂しくさせてごめんなさい。でもアヤセさんを名前で呼ぶとビックリする人が多くて」
 「そんなの俺には関係ない。大体、いい牽制になるだろうが」

 
 唯舞がアヤセの特別だと分かった上で声を掛けるようなガッツのある人間は軍部にはいない。
 だがそれを聞いても、唯舞はくすくすと笑うだけだ。
 
 
 「ふふ、一人でなんて出歩かせてもくれないのに……過保護ですよ?」

 
 アヤセの独占欲や執着心にさえ笑う唯舞に、アヤセは双眸を緩ませる。
 そしてそのまま唯舞を抱きあげるとベッドに運び、そっと下ろした。


 「え、えと……?」
 「寂しくさせられたから慰めて貰わないと仕事に戻れない」
 「戻れますよ?! それよりもお昼ごは……!」

 
 ずりずりとベッドの上に逃げる唯舞の背中が無情にもベッドフレームに当たり、追いかけっこが終了してしまう。

 
 「後でな。とりあえず中佐権限でお前は早退していいぞ」
 (絶対根に持ってる――!)

 
 抗議の叫びはそのままアヤセの口に塞がれて、唯舞は毎度ながらなす術もなく流されてしまうのだ。



 *


 
 ただいまー、とエドヴァルトが執務室に戻った時には珍しく全員が揃っていた。――女子二名は除いて。

 
 「……深紅はどうした」
 「早退~そういう唯舞ちゃんは?」
 「……早退だ」
 「嘘でしょう?! 二人揃って何やってるの?!」
 「関わんなよカイリ、面倒くせぇから」
 「だってこれで何回目?! そろそろ補佐をリアムとランディに変えるわよ!」
 「いやだよ、深紅以外の補佐なんて」
 「リアム達は管理官だろう。俺には補佐があればいい。唯舞ひとりで十分だ」
 「じゃあその大事な補佐官を毎度毎度早退させないでもらえるかしら?!」
 「カイ兄落ちついて」
 「少佐~もうこの人たちに何言っても無駄ですよー脳内完全にお花畑ですもん」
 「お? リアム君ったら俺らに喧嘩売るなんていい度胸してるねー? 一回死ぬ?」
 「ほら物騒! 知りませんよミクさんにフラれても――!」
 「フラれても離さないから大丈夫」
 「くはは、相変わらず執着強ぇなぁ」
 「のんきに笑わないでオーウェン! これはアルプトラオムの死活問題よっ!」


 カイリの絶叫が響く。
 補佐官がたった一人増えただけのアルプトラオムは、今日も今日とて相変わらず賑やかだ。


 
 *


 
 ぼんやりと目覚めた時、すでに外は暗かった。
 寝ぼけまなこの唯舞の頬をそっとアヤセの指が撫でる。

 
 「……起きたか」

 
 慣れたように抱き起こされると、飲み慣れた冷たい緑茶のボトルを手渡されて喉を潤す。
 この三ヶ月で、宿舎生活もかなり日本式になってきた。

 
 「ふふ、すごくアヤセさんに愛されてる……」

 
 零すように唯舞が小さく笑えば、何を当たり前のことを、と真顔で返された。

 
 「手放す気はないと言ったはずだ。――死んでもな」

 
 その言葉には、甘さよりも恐ろしいほどの執着を孕んでいる。
 だけれど、その狂愛さえも心地よくて。
 愛してると告げたアヤセの唇が、ゆっくりと重なるのを静かに受け入れ、唯舞は瞳を閉じた。
 
 
 ――今日も悪夢ちぎれたセカイは、自分だけのイブ太陽の女神に溺れるのだ。

 
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みんなの感想(1件)

緋乃
2025.03.23 緋乃

とっても面白くて何度も読み返しています。更新楽しみにしています!

2025.04.28 熾音

はぁぁぁ!!緋乃様、遅くなって本当に本当に申し訳ないです!🙇‍💦
改めまして、感想ありがとうございます✨

中々恋に落ちない異世界転移ですが、どこか刺さって頂けたら嬉しいです😊

解除

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