『隣の部屋の彼が、私の苦手な人でした』

のらいちご

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#1 最悪の居候、始まりました。

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 引っ越し当日。

 知らない土地。

 知らない家。

 知らない人。



 あーもう、終わった。


 うちの高校ライフ、ここで終了ーーー!!!


「美月、今日から新しいお家だよ~♪」


 母さんのテンションだけは、意味わかんないくらい高い。

 その笑顔が、逆に怖いんですけど!?

「私の親友の家だから安心だよ!息子くんもいい子らしいし!」


 ——って、誰情報? てか、"らしい"って何よ。

 私の不安をよそに、玄関のドアは開かれる。

「いらっしゃい~!」

 元気に迎えてくれたのは、母さんの親友・麻里さん。

 すごく明るくて優しそうな人で、ちょっと安心。

「美月ちゃん、大きくなったわねぇ~!可愛い~!」


 ぎゅっと抱きしめられて、ちょい照れ。
 ……こういうの、嫌いじゃないかも。

「じゃ、うちの息子呼ぶね~。蒼ー!降りてきてー!」


 あ、息子。

 例の、「いい子らしい」っていうやつか。


(爽やか笑顔系?それとも陰キャ系?)

 内心そんなこと考えてたら——


 トン……トン……


 階段から、ゆっくり足音。


 現れたのは、黒髪、イヤホン、無表情。


 背、高っ。

 目、冷たっ。


 無理、絶対ムリ。



「……よろしく」


 ボソッと一言だけ。


 え、なに? 今の、自己紹介のつもり??



「蒼、ちゃんと挨拶しなさい!」

 麻里さんの怒りもどこ吹く風。

 蒼さん(?)は、面倒くさそうに口を開いた。


「高校3年、神崎蒼。……以上」


 うわ、出た。超絶感じ悪いやつ。


 なのに、なんか声、低くて良すぎるのムカつく。


「同じ高校だから、明日から一緒に行けるわね~!」


 って麻里さんの一言で、さらに絶望が倍増。



 えっっ!?



 この人、同じ学校の先輩!?!?



 ーーーそして、さらなる地獄が待ってた。



 案内された部屋の、すぐ隣。

 ドアのプレートには「神崎蒼」って名前。


「大丈夫よね?隣同士でも♪」


 って、笑顔で言われたけど、

 いや大丈夫じゃない!!



 よりによって隣って何!?壁一枚!?プライバシー死んだ!?!?


「は、はい……」


 そう言うしかない私はチキン。



 ---



 夜。


 段ボールに囲まれて、ぐったりベッドに沈む。

 あーーーもう、疲れた。
 気ぃ張ってたから、余計しんどい。



 その時だった。



 ――ジャラァン……

 ふいに、壁越しからギターの音がした。



 ……え?



 耳を澄ませる。
 静かで、少し切ない音。どこか懐かしいような、柔らかい旋律。


「……っ、やべ」


 ぼそっと聞こえた低い声。


 うそ。壁、薄すぎでしょ!?
 声、漏れてるんだけど!!?


 ヤバ。これ、もしうちの声も聞こえてたら——

 あああああ無理無理無理!!!!



 こんな生活、耐えられる気がしない!!

 お願い、誰か代わってーーーー!!!!



(つづく)
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