『隣の部屋の彼が、私の苦手な人でした』

のらいちご

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#2 苦手な先輩が、実は優しい人でした。

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 次の日の朝。

 目覚ましより早く目が覚めた。
 昨日のギターの音が、頭の中でぐるぐるしてる。

 壁、薄すぎ問題。
 これ、マジでどうすんの。


 着替えて、恐る恐る部屋を出る。
 廊下に出た瞬間——


 ガチャッ。


 隣の部屋のドアが開いた。



「……おはよ」



 蒼先輩が、寝ぐせついたまま出てきた。

 うわ、朝からエンカウント。
 しかも、寝起きの姿とか見たくなかった……!



「お、おはようございます」



 声、上ずった。最悪。

 先輩は、イヤホンつけたまま階段を降りていく。
 会話終了、早っ。


 ***


 リビングに行くと、麻里さんが朝ごはんを作っていた。



「おはよう美月ちゃん!トースト?ごはん?」


「ト、トーストでお願いします」



 テーブルに座ると、向かいには先輩。
 スマホ見ながら、黙々とトーストを食べてる。


 ……気まずい。


 この沈黙、どうしたらいいの。



「蒼、美月ちゃんと話しなさいよ」



 麻里さんが、ちょっと怒った声で言う。

 でも先輩は、スマホから目を離さずに——



「……何話せばいいの」



 って、ボソッと返した。


 あー、もう!
 この人、ほんっとに感じ悪い!


 でも、麻里さんは笑ってる。



「蒾ね、人と話すの苦手なだけなのよ。悪い子じゃないから」



 ……苦手、ねぇ。
 それにしたって、もうちょい愛想よくできないの?


 ***


 学校までの道のり。
 一応、一緒に行くことになった。

 でも、先輩は3メートルくらい前を歩いてる。
 イヤホンつけたまま。


 ……これ、一緒に行ってる意味ある?


 校門に着いた瞬間、周りの視線が集まる。



「え、神崎先輩と一緒?」

「あの子、誰?彼女?」

「まさか、神崎先輩に彼女とかできるわけないじゃん」



 ヒソヒソ声が聞こえてくる。

 え、なに。
 この人、学校で有名人なの?



「……じゃ」



 先輩は、そう一言だけ言って、さっさと校舎に入っていった。


 置いてかれた。



「あの子、神崎先輩と知り合いなの?」



 後ろから声をかけられて振り返ると、ショートカットの女の子が立っていた。



「あ、えっと……家が、近くて」



 嘘じゃない。同じ家だけど。



「へー!いいなー。神崎先輩、バンドやってて超かっこいいんだよ!」



 ……バンド?

 そういえば、昨日ギター弾いてたっけ。



「でも近寄りがたいよね。いつもイヤホンつけてて、誰とも喋らないし」



 ああ、納得。
 あの態度じゃ、そりゃ近寄りがたいよね。


 ***


 昼休み。

 購買でパンを買って、中庭のベンチに座る。
 知らない土地、知らない学校。

 友達、できるかな……。


 そんなこと考えてたら——



「……そこ、座っていい?」



 聞き覚えのある低い声。

 顔を上げると、蒼先輩が立っていた。



「え、あ、はい……」



 隣に座る先輩。
 イヤホンを外して、おにぎりを取り出す。


 ……沈黙。


 気まずい。
 なんか話さなきゃ。



「あの、先輩って……バンド、やってるんですか?」



 そう聞くと、先輩がちらっとこっちを見た。



「……誰に聞いた」


「朝、クラスの人が」


「…ああ」



 また沈黙。


 やっぱり、この人と話すの無理だわ。


 でも、次の瞬間——



「昨日、うるさかったろ。ギター」



 先輩が、ぽつりと言った。



「え……」


「壁、薄いから。気をつける」



 そう言って、おにぎりをかじる先輩。


 ……あれ?


 もしかして、気にしてくれてた?



「い、いえ!全然大丈夫です!綺麗な音でした」



 思わず言ってしまった。

 先輩が、少しだけ目を見開いて——



「……そう」



 ちょっとだけ、口元が緩んだ気がした。


 もしかして。

 この人、見た目怖いだけで——

 悪い人じゃない……のかも?


 ***


 その日の夜。

 部屋で宿題をしていると、また壁越しにギターの音。

 今日は、昨日より優しい音色。


 そっと壁に耳を当てる。


 綺麗だな。

 こんな音、弾けるなんて。


 しばらく聴いていると、音が止まった。



「……美月」



 え!?

 壁越しに、名前を呼ばれた。



「は、はい!?」



 慌てて返事する。



「明日も、一緒に学校行く?」



 ……え。


 心臓が、ドクンと跳ねた。


 先輩から、誘ってくれるなんて。



「行きます!」



 即答してしまった。


 壁の向こうから、小さく笑う声が聞こえた気がした。



「じゃ、8時に玄関で」



 ……ずるい。

 そんな優しい声、反則でしょ。


 ベッドに倒れ込んで、枕に顔を埋める。


 あー、どうしよう。

 苦手だと思ってたのに。

 ちょっとだけ、ドキドキしてる。


 これって——まさか。


 いやいやいや!

 そんなわけない!!


 でも、明日が楽しみなのは事実で。


 心臓が、まだドキドキしてる。


 苦手な先輩が——

 少しだけ、気になり始めてる。




 次回予告: 

 #3 壁越しの秘密、聞いちゃいました。

 蒼先輩と少しずつ距離が縮まってきた、ある夜。
 壁越しに聞こえてきたのは——先輩の、切ない独り言だった。

「……もう、音楽やめようかな」

 え? あんなに綺麗な音を奏でる先輩が?

 思わず、壁をコンコンと叩いてしまった私。

 次の瞬間、先輩の部屋のドアがノックされて——


(つづく)

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