カゼとサバンナの物語~カゼとともに~

ヤナキュー

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1.兆し

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 年の瀬も押し迫り、早くも一年が終わろうとしている。
 そんな中、里見信二は走っていた。
 慌ただしい人であふれかえる、駅のプラットフォームを走っていた。
 信二は、小さなデザイン会社〔アクト〕の社長を務めている。
 〔アクト〕は、大手広告代理店から独立した際に、仲間と一緒に作った会社だ。
 社名の〔アクト〕は、アクティブ(能動的)に、アクション(行動)を起こし、アクチュアリィ(正)に、クライアントの望むものを作り出す、という理念を込めたものだ。
 社員は、十数人、という小さな会社ながら、毎年業績を伸ばしている。
 しかし、信二は、社長とは言え、社長室でふんぞり返っているわけにはいかなかった。
 なぜなら、社長自らが、アクティブにアクションを起こす姿を通して、社員に理念を浸透しんとうさせたかったからだ。
 毎日、毎日、営業に、打ち合わせに、と飛び回っていた。
 現に、今も大口の打ち合わせに向かっている。
 マルチメディア展開も視野に入れた、キャラクターデザインを、という依頼だった。
 さらに、バーチャルキャラクターにも転用できるような、というのが条件だった。
 しかし、今時、バーチャルキャラクターなど、目新しいものではない。
 当たり前の記号の組み合わせでは、埋もれることはわかり切っている。
 ネット世界 = オタクのもの、若者のもの、と言う考えだけには、したくなかった。
 普遍ふへん的で、どの国の人にも、どの年代にも、さらに性別にもかかわらず、愛されるキャラクターを作りたい。
 真っ先に、男らしい、女らしい、という記号は弾いた。
 結果、動物をモチーフとしたキャラクターを思いついたのは、自然な流れだった。
 そうして社内コンペも行い、全社員が参加して、決まったデザインだ。
 キャラクターの魅力みりょくには、自信がある。
 しかし、その打ち合わせに遅れそうだ、と電車の中で気づいた信二は、気が気ではなかった。
 (しまった。時間配分を間違った)
 人ごみをかき分けながら、信二はひたすら走った。
 (間に合わなければ、意味がない)
 (彼らの、社員の努力を、無駄にしたくない)
 と、思った瞬間。
 まるで足が、走ることを忘れたかのように、持ち上がらなくなった。
 突然、ガクン、と崩れ落ちた信二は、派手に転び、頭をしたたかに地面に打ち付けた。
 あまりに突然のことに、信二には自分に何が起こったのか、わからなかった。
 だが、すぐに我に返り、起き上がる。
 (急がなければ)
 信二は、走り寄ってくる駅員に向かって、手を挙げ、制した。
 立ち止まった駅員を見て、信二はまた走り出した。
 後ろから、男子高校生の嘲笑ちょうしょうするような笑い声が、響く。
 (さっきの違和感は何だ?)
 そう考えながらも、走り続けた信二は、何とか会議に間に合った。
 その勢いのまま、信二は、プレゼンを始める。
 信二は、ほんの数十分前の違和感をもう忘れていた。
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