カゼとサバンナの物語~カゼとともに~

ヤナキュー

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16.真逆の覚悟

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 その後、信二は、スティーブンス教授から、テレビ電話を介した遠距離診断を受けた。
 スティーブンスのかたわらに座った通訳を介して、何点か現状の信二の容態について、質問が飛んだ。
 それにしても、日本の医療とアメリカの医療では、患者の生活の質(クオリティ・オブ・ライフ)に対して、ここまで考え方が違うのか、と目からうろこが落ちる思いだった。
 日本では、(どのような形であれ)生きている、という事実のみを重要視する。
 脳の波形が計測でき、心臓さえ動いていれば、意識がなくとも、たとえ、人工呼吸器の管で守られているだけだったとしても、生きていることが重要視される。
 いや、例え本人の意識化で、
「死にたい」
 と思っていても、死ぬことは許されない。
 だが、アメリカでは、その人らしく、その患者の意思を尊重するための医療を提案してくれる。
 訴訟大国であるはずのアメリカのほうが、一見無茶な要求もリスクを恐れず、実行する。
 信二は、前例主義にとらわれている日本医療の限界を感じていた。
 その後も何度か、遠距離診断を受け、無事スティーブンスから、GOサインが出た。
 ついにアフリカ行きが、決まった。
 その前に気管切開を、という話も出たが、気管切開した後に、飛行機に乗るのは、ハードルが高い。
 それに、気管切開後、すぐに退院できるわけではない。
 信二は、これ以上、時間を無駄にしたくはなかった。
 さらに、もう一つ、信二が気管切開をこばむ理由がある。
 それは、気管切開をすると、匂いを感じなくなる、ということだ。
 肺と喉から突き出た呼吸器の間で、空気の流れが完結し、匂いを吸い込もうとしても、鼻腔に空気が流れないからだ。
 信二は、それを避けたかった。
 アフリカの暑い空気をぎたかった。
 野生動物の匂いで、肺を充満させたかった。
 そんな刺激への期待とは裏腹に、信二の頭の中には、今も医者の言葉がこびりついている。
「死ぬ覚悟をするなら、気管切開をしない、という選択をするしかありません。
 ただし、延命しても、亡くなる寸前まで、ベッドの上で後悔することも考えられます」
 (だが、そんなことを言われても)
 と、信二は思う。
 死ぬ覚悟、なんてそんな簡単にできるものではない。
 例え、できたところで、死ぬ寸前まで絶対に後悔しない、などということもあるわけがない。
 人の気持ちなど、移ろいやすいものだ。
 今日死にたい、と思っていても、明日にはもっと生きたい、と思うかもしれない。
 いや、下手をすると、朝には死にたいと思ったものが、昼に美味しい食事をしただけで、もっと美味しいものを食べたい、長生きしたい、と思うかもしれない。
 もちろん、その逆もある。
 朝気持ちよく目覚め、生きていることに感謝しても、一日が終わるころには、この世から消えてなくなりたい、と思うかもしれない。
 死ぬのには、覚悟がいるかもしれないが、生き続けるのだって、覚悟はいる。
 光り輝く命は、どちらの覚悟を選ぶのか。
 (その答えを出すために、俺はサバンナに来たんだ)
 と、信二は、密かに期待していた。
 そんな信二を清子は、心配そうに見つめていた。
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