さよならの代わりは

野村にれ

文字の大きさ
164 / 169

エルゲリータ王国・王家1

 エーストはブルーベルは頷くことしかできないとアーサー聞いていたために、今回の作戦が上手くいくと思っていたために怒りに満ちていた。

「ブルーベルは話ができた、しっかり話をしていた、どういうことだ」

 エーストは怒鳴り付けはしなかったが、厳しい口調で二人に向かって告げた。

「……話をされたんですか?」
「そうだ」
「そんなはずは……」

 アーサーとセイジーはどういうことかと二人は顔を向き合わせ、あのような様子のブルーベルとどうやって話をするのかと不思議でしかなかった。

 だが、エーストが怒っていることから、事実を伝えなくてはならない。

「エズリラ侯爵家では、頷くことしかありませんでした。本当でございます」
「話などできませんでした」

 エーストはアーサーに騙されたのではないかと思ったが、二人がそのような腹芸ができるとも思えず、する理由も分からなかった。

「おかしくなっていたのは演技をしていたのではないかと思ったくらいだ。あのようなブルーベルは初めて見た」
「ブルーベルがそのような器用なことができるはずがありません!」

 セイジーはいくらブルーベルが変わってしまっても、演技ができるような人間ではないことだけは自信があった。

「こんな長い間……いや、我々だけを騙していたのか?いや、そんなはずはないか。コレドール殿下が言うには不安定になっているようで、話ができることもあるということだったが、私は会っていないからな」
「不安定……」

 アーサーとセイジーは不安定という部分は、納得することであった。

「ミジュリーが会った時は視線も合わず、いくら問い掛けても答えはなかったと、ただ僅かに反応しただけだったそうだ……」

 演技ではないと思ったのはマリージュも同じことを言っていたこともあるが、信頼するミジュリーから聞いていたからであった。

 ミジュリーにも思うところはあるが、自分の妻のせいだと指摘されたことは二人には言いたくないために伝える気はない。

「ではエズリラ侯爵家では話せるような状態ではなかったということでしょうか」
「そういうことにはなるが、理解しているとは思っていなかった……アーサーが頷くだけだと言っていたのを信じたのだぞ?」
「申し訳ございません……」

 何か不味いことがあったのかもしれないと謝罪をしたが、エズリラ侯爵家での事実を伝えただけで、話ができるが不安定だなんて聞いていない。

 コレドールはエズリラ侯爵家で好意的には見えなかったが、意図的に隠していたとしても、今さらどうしようもない。

「アリーシャの縁談を頼むつもりだったが、難しくなった!そもそも、コレドール殿下が一緒に来るとは思わなかった……」
「それは私たちも聞いておりませんでしたから、驚きました」

 アーサーはエーストにコレドールも同行していること、ブルーベルに様子を伝えただけであった。その他の計画についてはエズリラ侯爵家は何も知らない。

 ゆえにアリーシャのことをコレドールからも尋ねられたが、何も聞かされておらず、同じ話ではないだろうと素直に思っていた。

 だが、実際はやはりアリーシャのことだったのならばアーサーも伝えておかなくてはならないと考えた。

「コレドール殿下はアリーシャ王女殿下の縁談の口添えは断っているとおっしゃっておりました」
「それはミジュリーが頼んだ場合だ、私であれば変わるだろうと思っていたのだ」

 エーストはアーサーにも話しているとは思わずに、顔が歪むのをグッと堪えた。

「さ、さようでございますか」

 エーストも侍女や護衛は一緒に来るとは思っていたが、コレドールは忙しいはずだから来るはずがないと思っていた。

 しかも縁談のことはエズリラ侯爵家は使えない判断して伝える気はなかったが、今はそんなことは言ってはいられない。

あなたにおすすめの小説

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」 そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。 彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・ 産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。 ---- 初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。 終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。 お読みいただきありがとうございます。

“いらない婚約者”なので、消えました。もう遅いです。

あめとおと
恋愛
婚約者である王子から、静かに告げられた言葉。 ――「君は、もう必要ない」 感情をぶつけることもなく、彼女はただ頷いた。 すべては、予定通りだったから。 彼女が選んだのは、“自分の記憶を世界から消す魔法”。 代償は、自身という存在そのもの。 名前も、記憶も、誰の心にも残らない。 まるで最初からいなかったかのように。 そして彼女は、消えた。 残された人々は、何かが欠けていることに気づく。 埋まらない違和感、回らない日常。 それでも――誰一人、思い出せない。 遅すぎた後悔と、届かない想い。 すべてを失って、ようやく知る。 “いらない存在”など、どこにもいなかったのだと。 これは、ひとりの少女が消えたあとに、 世界がその価値に気づく物語。 そして――彼女だけが、静かに救われる物語。

わたしを捨てた騎士様の末路

夜桜
恋愛
 令嬢エレナは、騎士フレンと婚約を交わしていた。  ある日、フレンはエレナに婚約破棄を言い渡す。その意外な理由にエレナは冷静に対処した。フレンの行動は全て筒抜けだったのだ。 ※連載

なにをおっしゃいますやら

基本二度寝
恋愛
本日、五年通った学び舎を卒業する。 エリクシア侯爵令嬢は、己をエスコートする男を見上げた。 微笑んで見せれば、男は目線を逸らす。 エブリシアは苦笑した。 今日までなのだから。 今日、エブリシアは婚約解消する事が決まっているのだから。

うまくやった、つもりだった

ひがん さく
恋愛
四大貴族、バルディストン公爵家の分家に生まれたオスカーは、ここまでうまくやってきた。 本家の一人娘シルヴィアが王太子の婚約者に選ばれ、オスカーは本家の後継ぎとして養子になった。 シルヴィアを姉と慕い、養父に気に入られ、王太子の側近になり、王太子が子爵令嬢と愛を深めるのを人目につかぬよう手助けをし、シルヴィアとの婚約破棄の準備も整えた。 誠実と王家への忠義を重んじるこの国では、シルヴィアの冷徹さは瑕疵であり、不誠実だと示せば十分だった。 かつてシルヴィアはオスカーが養子になることに反対した。 その姉が後妻か商家の平民に落ちる時が来た。 王太子の権威や素晴らしさを示すという一族の教えすら忘れた姉をオスカーは断罪する。 だが、シルヴィアは絶望もせずに呟いた。 「これだから、分家の者を家に入れるのは嫌だったのよ……」  

前世の旦那様、貴方とだけは結婚しません。

真咲
恋愛
全21話。他サイトでも掲載しています。 一度目の人生、愛した夫には他に想い人がいた。 侯爵令嬢リリア・エンダロインは幼い頃両親同士の取り決めで、幼馴染の公爵家の嫡男であるエスター・カンザスと婚約した。彼は学園時代のクラスメイトに恋をしていたけれど、リリアを優先し、リリアだけを大切にしてくれた。 二度目の人生。 リリアは、再びリリア・エンダロインとして生まれ変わっていた。 「次は、私がエスターを幸せにする」 自分が彼に幸せにしてもらったように。そのために、何がなんでも、エスターとだけは結婚しないと決めた。

彼女はいなかった。

豆狸
恋愛
「……興奮した辺境伯令嬢が勝手に落ちたのだ。あの場所に彼女はいなかった」 なろう様でも公開中です。