文字の大きさ
大
中
小
5 / 203
美談
リール殿下とサリーの結婚は愛する人を守るために遠ざけ、守り抜いた美談となり、多くの人に祝福された。エマ・ネイリーは姿を消していた。
王太子妃になったサリーは毎日、にこにこと笑い続けた。怒ることも、泣くことも、喜ぶこともない。
「殿下はお優しいですもんね」
「そんなことありませんわ、優しさなんてもう与えて貰うこともございませんわ。顔を見ればゴミを見るような目で見て、暴言を吐く生き物ですから」
「まあ、ご冗談を、おほほほほ」
「殿下は素晴らしい才能をお持ちで」
「良かったら差し上げますわよ」
「まあ、よろしいのですか」
「ええ、リボンでも付けましょうか」
「まあ、ご冗談を、おほほほほ」
冗談では無い、本当に要らないものとなった。視界に入れたくもない、不愉快で不快で堪らない、あれを褒められて肯定したことは一度もない。
もはや、どこが好きだったのか思い出すこともない。
「リビット伯爵にどうも愛人がいるらしいのよ、殿下にはありえないでしょうけど」
「そんなことはないわよ、たくさんの美しい女性が出入りしているわ」
「そうなの?そんなこと話していいの?」
「事実なんだからいいんじゃないかしら?王宮の皆さんがご存知だわ」
殿下の側近であるクリコット・バーンズは、不仲であることを隠そうともしないサリーに常々怒っていた。
「妃殿下、あのようなことは困ります」
「事実じゃない」
「事実でもです」
「別にいいじゃない。女性に愛される魅力的な王太子だと思われるのではないかしら?」
「妃殿下はよろしいんですか」
「ええ、無理やり結婚させられたのですよ。ご存知ないの?あれが何してようが、私には関係無いわ」
二人は仲の良い関係だった。サリーが殿下を慕っているのは明らかだったのが、一気に崩れたのだ。サリーは婚約を解消して欲しいと殿下にも両陛下にも両親にも何度も願い出た、でも誰もが解消を許さなかった。
不正を見付けた功績が婚約解消によって、評価されなくなるからだ。
二人は食事も、もちろん寝室も別で、公務以外で顔を合わせることもなくなった。殿下はお茶に誘ったり、出掛けようと、何度も改善を試みたが、だから言ったじゃありませんかと解消すべきだったと会話にもならない始末だった。
二年が経ったが、子どもは生まれなかった。それもそのはずだ、初夜以降二人は行為をしていないのだ。初夜は行わないと結婚にならないのだと無理矢理行われたのだ。終わった後で、サリーの言った言葉は『ああ、早く死にたい』だった。
「このままでは側妃を迎えることになる」
「良かったではありませんか、こそこそ呼ばなくてもよくなりますね」
「何を言っているんだ!私はサリーとの子が欲しいのだ」
「私はあなたとの子なんてこれっぽちも要りませんわ、気持ち悪い」
殿下は性欲処理のために女性を呼んでは閨を共にしていた。女性たちは殿下が離してくれなくて困っているとわざわざ言いに来ていたのだ。
後継のために側妃、ウィンダム伯爵家からレベッカが召し上げられて、半年で懐妊した。殿下も複雑な思いはあったが、王家としては良かったというべきなのだろう。サリーもおめでとうございますと笑顔で喜んでくれた。
「妃殿下?」
「レベッカ様でしたわね?この度はおめでとうございます」
「ありがとうございます。先に懐妊してしまって、申し訳ない気持ちだったのです」
「いえいえ、喜ばしいことですわ」
「妃殿下にも早く同じ喜びを分かち合いたいと思っておりますの」
「私は辞退しておりますの」
「えっ、どうしてですか?」
「何も聞いてらっしゃらないの?ならば私から言うことはございませんわ。お身体、大事にしてくださいね」
侍女に話を聞くと、二人は上手くいっておらず、閨も共にしていないそうだ。レベッカとは何夜も共にしたというのに、あんなに堂々としていたけど、愛されていなかったのねとほくそ笑んだ。
「妃殿下?」
「あら?悪阻はもういいの?」
「今日は具合が良いんですの」
「それは何よりだわ」
「それよりも夜のお相手が出来ないので、殿下が心配で」
レベッカはお腹を擦りながら、あなたのところに行くことはないでしょうからという意味を込めて、不安そうに見つめてみたが、サリーは微笑んだままである。
「大丈夫よ、いつのも女性たちがやってくれるわ」
「えっ?愛妾がいるのですか」
「愛妾かは知らないけど、ずっとおりますわ。だから心配せずに、あれの相手などせず、あなたは子どもを産めばいいのよ」
再び、侍女から殿下はずっと閨の相手がいることを聞いた。私は愛されて子どもを産むわけではないのかと急に不安になった。愛してると言われたわけではないが、私は身籠り、殿下の唯一となる寵愛を受けるはずだ。でなければ、あんなに求めたりしないだろう。きっと、そうだ。
「妃殿下、肩書が重たいのではありませんか」
「そうですわね、その通りですわ」
「私は自分で言うのは憚れますが、優秀だと思っております。跡継ぎも出来た今、妃殿下も自由になれるのではありませんか」
「本当ですの?」
「えっ?ええ」
「あなたにお任せしていいんですの?」
「ええ、私は肩書が重いとは思わない、誇りに思えるのです。殿下を支え、跡継ぎを育てることは造作もありませんわ」
「まあ、素晴らしい!ネイリー様に逃げられて、もう無理かと思っておりましたが、ありがとうございます。すぐ、すぐ殿下に話してみますわ。本当にありがとう!くれぐれもお身体を大事にしてくださいね」
「ネイリーというのはあの?」
「ええ、エマ・ネイリーです」
サリーは音を立てないように早足で去って行った。エマ・ネイリー、殿下が心変わりしたと噂になった女性だった。今はどこで何をしているのかも知らない。
王太子妃になったサリーは毎日、にこにこと笑い続けた。怒ることも、泣くことも、喜ぶこともない。
「殿下はお優しいですもんね」
「そんなことありませんわ、優しさなんてもう与えて貰うこともございませんわ。顔を見ればゴミを見るような目で見て、暴言を吐く生き物ですから」
「まあ、ご冗談を、おほほほほ」
「殿下は素晴らしい才能をお持ちで」
「良かったら差し上げますわよ」
「まあ、よろしいのですか」
「ええ、リボンでも付けましょうか」
「まあ、ご冗談を、おほほほほ」
冗談では無い、本当に要らないものとなった。視界に入れたくもない、不愉快で不快で堪らない、あれを褒められて肯定したことは一度もない。
もはや、どこが好きだったのか思い出すこともない。
「リビット伯爵にどうも愛人がいるらしいのよ、殿下にはありえないでしょうけど」
「そんなことはないわよ、たくさんの美しい女性が出入りしているわ」
「そうなの?そんなこと話していいの?」
「事実なんだからいいんじゃないかしら?王宮の皆さんがご存知だわ」
殿下の側近であるクリコット・バーンズは、不仲であることを隠そうともしないサリーに常々怒っていた。
「妃殿下、あのようなことは困ります」
「事実じゃない」
「事実でもです」
「別にいいじゃない。女性に愛される魅力的な王太子だと思われるのではないかしら?」
「妃殿下はよろしいんですか」
「ええ、無理やり結婚させられたのですよ。ご存知ないの?あれが何してようが、私には関係無いわ」
二人は仲の良い関係だった。サリーが殿下を慕っているのは明らかだったのが、一気に崩れたのだ。サリーは婚約を解消して欲しいと殿下にも両陛下にも両親にも何度も願い出た、でも誰もが解消を許さなかった。
不正を見付けた功績が婚約解消によって、評価されなくなるからだ。
二人は食事も、もちろん寝室も別で、公務以外で顔を合わせることもなくなった。殿下はお茶に誘ったり、出掛けようと、何度も改善を試みたが、だから言ったじゃありませんかと解消すべきだったと会話にもならない始末だった。
二年が経ったが、子どもは生まれなかった。それもそのはずだ、初夜以降二人は行為をしていないのだ。初夜は行わないと結婚にならないのだと無理矢理行われたのだ。終わった後で、サリーの言った言葉は『ああ、早く死にたい』だった。
「このままでは側妃を迎えることになる」
「良かったではありませんか、こそこそ呼ばなくてもよくなりますね」
「何を言っているんだ!私はサリーとの子が欲しいのだ」
「私はあなたとの子なんてこれっぽちも要りませんわ、気持ち悪い」
殿下は性欲処理のために女性を呼んでは閨を共にしていた。女性たちは殿下が離してくれなくて困っているとわざわざ言いに来ていたのだ。
後継のために側妃、ウィンダム伯爵家からレベッカが召し上げられて、半年で懐妊した。殿下も複雑な思いはあったが、王家としては良かったというべきなのだろう。サリーもおめでとうございますと笑顔で喜んでくれた。
「妃殿下?」
「レベッカ様でしたわね?この度はおめでとうございます」
「ありがとうございます。先に懐妊してしまって、申し訳ない気持ちだったのです」
「いえいえ、喜ばしいことですわ」
「妃殿下にも早く同じ喜びを分かち合いたいと思っておりますの」
「私は辞退しておりますの」
「えっ、どうしてですか?」
「何も聞いてらっしゃらないの?ならば私から言うことはございませんわ。お身体、大事にしてくださいね」
侍女に話を聞くと、二人は上手くいっておらず、閨も共にしていないそうだ。レベッカとは何夜も共にしたというのに、あんなに堂々としていたけど、愛されていなかったのねとほくそ笑んだ。
「妃殿下?」
「あら?悪阻はもういいの?」
「今日は具合が良いんですの」
「それは何よりだわ」
「それよりも夜のお相手が出来ないので、殿下が心配で」
レベッカはお腹を擦りながら、あなたのところに行くことはないでしょうからという意味を込めて、不安そうに見つめてみたが、サリーは微笑んだままである。
「大丈夫よ、いつのも女性たちがやってくれるわ」
「えっ?愛妾がいるのですか」
「愛妾かは知らないけど、ずっとおりますわ。だから心配せずに、あれの相手などせず、あなたは子どもを産めばいいのよ」
再び、侍女から殿下はずっと閨の相手がいることを聞いた。私は愛されて子どもを産むわけではないのかと急に不安になった。愛してると言われたわけではないが、私は身籠り、殿下の唯一となる寵愛を受けるはずだ。でなければ、あんなに求めたりしないだろう。きっと、そうだ。
「妃殿下、肩書が重たいのではありませんか」
「そうですわね、その通りですわ」
「私は自分で言うのは憚れますが、優秀だと思っております。跡継ぎも出来た今、妃殿下も自由になれるのではありませんか」
「本当ですの?」
「えっ?ええ」
「あなたにお任せしていいんですの?」
「ええ、私は肩書が重いとは思わない、誇りに思えるのです。殿下を支え、跡継ぎを育てることは造作もありませんわ」
「まあ、素晴らしい!ネイリー様に逃げられて、もう無理かと思っておりましたが、ありがとうございます。すぐ、すぐ殿下に話してみますわ。本当にありがとう!くれぐれもお身体を大事にしてくださいね」
「ネイリーというのはあの?」
「ええ、エマ・ネイリーです」
サリーは音を立てないように早足で去って行った。エマ・ネイリー、殿下が心変わりしたと噂になった女性だった。今はどこで何をしているのかも知らない。
感想
あなたにおすすめの小説
私が使うはずだった部屋に病弱令嬢を寝かせた婚約者とは、白紙に戻します
さんけい王家の意向で進められた婚約。
リーゼロッテ・エーレンフェルトは、婚約者ヒューバート・ラドクリフの屋敷を訪れた日、婚礼後に自分が使うはずだった部屋で、病弱な男爵令嬢アネットが眠っているのを見る。
「君なら分かってくれると思った」
ヒューバートはそう言った。
けれどリーゼロッテが問いたいのは、アネットが可哀想かどうかではない。
弱い方を助けるために、なぜ私の部屋を使ったのですか。
なぜ私の席を、あなたの優しさのために差し出したのですか。
部屋、席、茶会、呼び名。
少しずつずらされた扱いを、リーゼロッテは一つずつ確認していく。
善意を理由に他人の場所を使う婚約者とは、白紙に戻します。
※初日以外は6時・17時の更新といたします。
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
私のことはお気になさらず
みおな 侯爵令嬢のティアは、婚約者である公爵家の嫡男ケレスが幼馴染である伯爵令嬢と今日も仲睦まじくしているのを見て決意した。
そんなに彼女が好きなのなら、お二人が婚約すればよろしいのよ。
私のことはお気になさらず。
どうぞお好きになさってください
みおな学園に入学して一ヶ月。
婚約者の第一王子殿下は言った。
「学園にいる間くらい自由にさせてくれないか。君が王太子妃になることは決定事項だ。だから、せめて学園に通う二年間は、僕はひとりの男として自由に過ごしたい」
公爵令嬢はその綺麗な顔に冷酷な笑みを浮かべる。
「好きになさればよろしいわ」
彼女の離縁とその波紋
豆狸夫にとって魅力的なのは、今も昔も恋人のあの女性なのでしょう。こうして私が悩んでいる間もふたりは楽しく笑い合っているのかと思うと、胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちになりました。
※子どもに関するセンシティブな内容があります。
【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】
はっきり言ってカケラも興味はございません
みおな 私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。
病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。
まぁ、好きになさればよろしいわ。
私には関係ないことですから。