【完結】聖女の在り方

野村にれ

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混乱

 先に執務室に戻ったギルクは、実際に両腕で頭を抱えていた。

 子どもが認められなくても、そうではないという証明もできない。しかも、シールドは自分の子どもだと思っているのだろう。

 だが、リリカも当然だがお咎めなしというわけにもいかない。

 しかも、メルアのこともある。再婚も王命で、相手は国防の辺境伯である。ルッジ辺境伯を怒らせたくはない。

 今は隣国とは友好的な関係だが、過去にひっくり返ったこともある。

 こんなことなら、別の相手にするべきだった。辺境伯なら文句も出ず、マリアール侯爵家も大事にするだろうという考えが裏目に出てしまったと考えていた。

 遅れて戻ったクリーナも、執務室に入って来た。

「どう思った?」
「マリアール侯爵家に戻れると思って、戻って来たように思います。子どもがいれば、自分に罰がないとも思っているのではないでしょうか」
「っな」
「私は女は誰しもしたたかだと思っておりますから」

 クリーナはいくら怖かったとはいえ、お金にも困るようになったとはいえ、三年も経って会いに来るという行動すらしたたかだと感じていた。

 ギルクとクリーナが話していると、そこへ宰相であるリチア公爵もやって来た。

「いかがでしたか?」
「よくもあのような女性が逃げたものだと思ったよ」
「ええ、確かに私も驚きました」

 いなくなったと聞き、一番初めに疑ったのは、犯罪だった。

 だが、今回逃げたことが分かり、重圧はあっただろうが、逃げる勇気はあったのだと思ったくらいであった。

「協力者がいたというのなら、どうにかなっただろうと思うが、本人はいないと言っている。証拠もないのに、拷問に掛けるわけにもいかないからな」
「ですが、咎がないというわけにはいきませんよ」
「当然だ、王命を放棄して逃げたんだからな。子どもがいなければ、労働刑か処刑されて終わりだったが、そうもいかない」

 自ら放棄したのだから、リリカは牢に入れられていただろう。

「一応、男に襲われたことはないかと聞きましたら、ないと言いました。これで万が一にも、あの子がシールドの子ではないとなっても、襲われたとは言えません。不貞行為があったということになります」
「そうか」
「王妃陛下、それは大事ですね」
「ええ」

 子どもが血液型で自分の子ではないと分かった際には、実は言い出せなかったが、男に襲われたのだと言い出す女性がいる。

 だが、リリカはクリーナに言ったことで、言えなかったということよりも、王妃陛下に嘘を付いた罪の方が重くなるのである。

「子どもも変わりなく、認められそうにはないですか?」
「ああ、連絡先も知らないそうだしな」
「その家族が見付かっても、生まれた日が分かるくらいでしょう。違和感などはありませんでしたか?」
「始めからオドオドしていたからな。だが、クリーナのよると、女はしたたかだそうだからな」
「ええ、特に子どもを持つ親ならば、何でもするのではありませんか」
「はあ……」

 ギルクは公務をしながら、合間を縫って時間を作り、さらに今度の相手は何の非もないメルア夫人とレイジア・ルッジ辺境伯になる。

 気が重くないはずがない。

「面倒なことを言い出しそうなコロゾ子爵家の耳に入る前に、メルア夫人と、ルッジ辺境伯に先に話をしなければなりません」
「ああ、分かっている。だが、恐ろしいな」

 レイジアは同じ人間とは思えない筋肉隆々な身体をしており、身長の高いメルア夫人ですら、レイジアにすっぽりと隠れてしまう。

 兄である双子もレイジアと同じで、あの二人も怒ることだろう。

「末娘であるメルア夫人には甘いそうですから、防波堤になってくれることを期待するしかありませんね」
「怒りも倍増ではないか?だが、早めに調整してもらえるか?」
「承知いたしました」

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