【完結】聖女の在り方

野村にれ

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在り方

 ルッジ辺境伯領で、今代の聖女が若草のようなグリーンの瞳を閉じて、森の中で木に寄りかかって、休憩をしていた。

『上手くいったな』
『そうですわね、これで大丈夫なのですよね?』
『ああ、回避してと言っていいだろう』
『まさかこんなことになるなんて、ですわね』
『托卵だけだったら、神託を下ろすことにはならなかっただろうな』
『きっとこの国にも他にもいるものね』
『そうだな、だが君には良かったのではないか?』
『私はどうでもいいことだったわ、でも何も知らないっていうのが面白かった』

 周りには人はいなかったが、驚くことなく、当然のように話をしている。

『皆、聖女は別の者だと思っているからな』
『それでいいじゃない』
『わたしはどちらでもいいさ』
『面倒なことになりたくないもの』
『まあ、そうだな』

『聖女がどのような存在かも知らないのでしょう?』
『ああ、明かせば面倒になるからな』
『私に話しても良かったのですか?』
『君は言わないだろう?』
『気が変わるかもしれませんよ?』
『いや、君の気が変わることはない』
『そうなんですかぁ?』

 聖女はいたずらっ子のように、くすくすと笑ったが、絶対に話すことはないことは、神には分かっている。

 ―セイント王国の聖女は、聖女の血筋から、ある一人を定め、心身ともに健康に育つか試す―

 その一人が心身ともに健康に育つことを願い、見守る。

 そして、今回のように戦渦に巻き込まれるようなことが起こる時には、聖女として遣わせる。

 だが、これは定めた一人が健康に育たなければ、国は少しずつ衰退していくことになる。不遇な扱いをされた時、自然災害が発生することになる。

 実際に虐待されていたことがあり、台風が異常発生し、復興に数年が掛かることになった。だが、聖女の影響だとは考えられることはなかった。

 これは、神と初代聖女と国を守る約束ごとであった。

 不条理でも、これがセイント王国の在り方である。

『常にではないがな』
『血筋でないとダメなのですか』
『突然よりはいいだろう?』
『ランダムでもいいような?』
『こちらも制約があるんでな』
『そうなのですか』

『マリアール侯爵家だけではないとは気付かないんですね』
『そこまで教える気はないからな』
『教えられたら困るから、私には都合がいいけど』
『そうだろう』

 マリアール侯爵家は唯一の聖女の血筋だと、躍起になっているが、実際はイリアも皆も考えたように、聖女の血筋は別の場所でも続いている。

『今回、選ばれたのは君』
『どちらかというとお母様の娘だからではありませんか?』
『っえ』
『ほら、動揺した!』
『違う』
『本当ですか?私のお母様は愛されがちですからね~私も大好きですけど』

 聖女は母が大好きであり、家族も皆、母を愛していると胸を張って言える。

『いや、そんなことはない』
『私を選ぶなんてずるいです。お母様の子どもなんだから、幸せになるって決まっているのに。生まれた時点で、決定事項ですよ?』
『それは、そんなことはないだろう』
『本当ですかぁ?』
『本当だよ。だが母親にだけは話すかと思ったよ』
『それはいいの!私は聖女ではなく、お母様のたった一人の子どもだもの』
『ああ、そうだな』

 そう話す聖女の顔は、誇らしく、満面の笑みであった。

「ルイ~!どこにいるの~?」

 大好きな人の声が聞こえて、ここよと言いながら、聖女は走り出した。

 今日も幸せである。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

最後までお読みいただきありがとうございます。

短い話にするつもりが……
いつも通りと言われはそれまでなのですが、
意外と長くなってしまいました。

きっとこうだったのだろうというラストにしたかったので、
これで終わりにしたのですが、
不評だったら申し訳ありません。

最後までお付き合いいただき、
本当にありがとうございました。

別の作品も連載しておりますので、
よろしければお願いいたします。

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