【完結】愛しくない、あなた

野村にれ

文字の大きさ
268 / 344

【テイラー】即位式1

 もしも今、ディオエルに質問ができるのならば、絶対にそのように答えるだろう。むしろ、自分のことを擁護することはしなくていいとおっしゃるだろう。

 だが、アイルーンの記憶ということは、ディオエルが寄り添うこともなく、みすみす殺させてしまったこと。

 おかげでテイラーが、アイルーンの憎しみの記憶を持って生まれてしまったこと。

 テイラーはそのことで、ディオエルの妃になることを完全に拒絶したこと。

 そのことをライシードは、明かしたくないと思ってしまっていた。

 だが、公表するならば、ディオエルが後悔し、反省をしていたこと。番を大事にしたかった思いもちゃんと伝えて欲しいと考えていた。

「これは私たちの希望だよな」
「あ、はい……アンデュース様も、ですか?」
「当然だろう。テイラー嬢にも、アイルーン様には申し訳ないが、私的なことでディオエルのことを、せめて竜帝国では悪く言わせたくないさ」

 その言葉にライシードはホッとした。

「ディオエルの間違いや後悔を明かす気はないさ、それはディオエルだけの気持ちだからな。だが、事実である記憶を持って生まれることがあるということは、知るべきだと考えている。どうだ?」
「はい、次期皇帝陛下に賛同いたします」
「そうか、ディオエルのそばにいたライシードが賛同してくれたのなら、心強い」

 そして、国葬が終わり、一週間後。アンデュースは即位式が行われた。

 簡易的であるために、他国は招待することはなく、国葬と比べると小規模だが、ディオエルの時も同じであるために、質素だということはない。

 ただディオエルと違うのは皇妃となるモニール、皇子と皇女となる子どもたちもアンデュースの後ろに並び、喜びに溢れるようなことはないが、粛々と進んだ。

「ディオエル皇帝陛下の意思を継ぎ、国民に寄り添い、つとめを果たすことを誓います」

 歓声を上げることはなかったが、拍手で包まれた。

 即位式の後に、皇帝陛下となったアンデュースは、ディオエルの死因について発表を行うことになっていた。

「ディオエル前国王陛下の死因は、急性心不全でした。一人目の番であるアイルーン妃が殺されたことで、一度弱ってしまったここと考え、二人目の番であるテイラー様が殺されて、ディオエル前国王陛下の体が限界を迎えた。疲労感、食欲不振、呼吸困難、不眠、テイラー様を亡くしてから、日に日に酷くなった」

 その言葉に、皆、苦しくなった。

 皇妃や皇子と皇女に代わって、後ろに付いていたライシードはその姿を思い出し、視界が滲んでいくのが分かった。

 テイラー様と呼ぶのは、皆に軽んじられないために考えられた案だった。

「酷く辛かったはずだが、そのような姿は見せなかった。自分はもう先が長くないことを分かっておられた。ディオエル前国王陛下は、こうおっしゃった。アイルーンが亡くなり、きっと自分の命は半分くらいになっただろう。そして、テイラーが亡くなって、その半分も失われることになったと……」

 この頃には、すすり泣く声が方々から聞こえ始めていた。

「私も二人も番に出会えたことは奇跡なんて考えていたが、きっとこれは決まっていた運命だったのだろうと思った。だからこそ、自分たちの都合で、自分たちの身勝手な思いで、殺されたということが悔しくて悲しくてたまらなかった。そんな風に殺されるために生まれて来たわけではない!」

 皆も同意するように頷いており、すすり泣く声も続いていた。

「それでも、最期の日まで皇帝としてやれることをやられて、息を引き取られた。皆が尊敬し、憧れたディオエル前国王陛下のまま、生涯を終えられた」

 さらに、皆、どんなにお辛かっただろうと悲しみに包まれた。

「……そして、テイラー様について話さなくてはならないことがある」

 その言葉に、続きを知っているライシードは、背筋をさらに伸ばした。

あなたにおすすめの小説

【今さら遅い】毒で声を失い公爵に捨てられた私。妹では精霊が応えず国は滅びへ。ですが隣国皇帝に溺愛される私に、今さら縋ってきても遅いです

唯崎りいち
恋愛
国一番の歌姫だった私は、妹に毒を盛られ声を失い、婚約者に捨てられた。 すべてを奪われた私を救ったのは、隣国の皇帝。 「お前の歌がなければ国は滅びる」と言われた私の歌は、精霊に届く“本物”の力を持っていて―― 一方、私を追放した国は偽物の歌では加護を失い衰退。 今さら元婚約者が縋ってきても、もう遅い。

世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました

由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。 ——皇子を産めるかどうか。 けれど私は、産めない。 ならば—— 「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」 そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。 毒を盛られても、捨てられず。 皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。 「お前は、ここにいろ」 これは、子を産めない女が ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。 そして—— その寵愛は、やがて狂気に変わる。

「離縁状の印が乾く前に、王太子殿下から花束が届きました」〜五年間「置物」と呼ばれた侯爵夫人、夫が青ざめるのは王家との縁が切れてからでした〜

まさき
恋愛
侯爵夫人として過ごした五年間、夫に名前を呼ばれたことが一度もなかった。 愛人を夜会に連れてきた翌朝、私は離縁状を置いて屋敷を出た。 夫は「すぐ戻る」と思っていたらしい。 でも届いたのは、王太子殿下からの白薔薇だった。 「五年、待ちすぎました。今度こそ私の隣に」 幼馴染の殿下は、いつも私を「アメリア」と呼んでくれた。 ただそれだけで、五年分の何かが、ほどけていった。 夫が全てを失うのはこれからの話。 私が本当の笑顔を取り戻すのも、これからの話。

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

大人しい令嬢は怒りません。ただ二年間、準備していただけです。――婚約解消の申請が受理されましたので、失礼いたします

柴田はつみ
恋愛
婚約者に、誕生日を忘れられた。 正確には、忘れられたわけではない。 エドワード・ヴァルト公爵はちゃんと覚えていた。 記念のディナーも、予約していた。 薔薇だって、一輪、用意していた。 ただ――幼馴染のクロエ・アンセル伯爵令嬢から使いが来た瞬間、全部置いて行ってしまっただけだ。 「すぐ戻る」 彼が戻ったのは、三時間後だった。 蝋燭は溶け切り、料理は冷え、ワインは乾いていた。 それでもリーゼロッテ・フォン・アルテンベルクは、笑顔で座って待っていた。 「ええ、大丈夫でございます。お気遣いなく」 完璧な微笑みで、完璧にそう言った。

旦那様。私が悪女ならば、愛人の女は何になるのかしら?

白雲八鈴
恋愛
 我が公爵家主催の夜会の最中。夫が愛人を連れてやってきたのです。そして、私を悪女という理由で離縁を突きつけてきました。  離縁して欲しいというのであれば、今まで支援してきた金額を全額返済していただけません?  あら?愛人の貴女が支払ってくれると?お優しいわね。  私が悪女というのであれば、妻のいる夫の愛人に収まっている貴女は何なのかしら?

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。