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【テイラー】指名1
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思い出してしまったことで、感傷的になりながら、ライシードが執務室に戻ると、アンデュースが書類を読んでいた。
「帰ったか?」
「はい、もうどうにもならないことくらい分かっているのですから、潔く決めてくれるといいのですが」
「どうだろうな、だが相談できる相手も、助けてくれる者もいない。一人で決めるしかない。最後くらい責任取らせよう」
高位貴族はイオリクを関わりたくないはおろか、視界にも入れたくないと避けた。おそらく、今となってはいないものとして扱われている。
下位貴族や平民の方がテイラーに共感し、イオリクに怒りを持っていた。
家族や仕事がある者は理性があるだろうが、何も失うものがない者ならば、殺そうとする者もいるかもしれないと考えていた。
だが、ディオエルの言葉、アンデュースの言葉のおかげか、前公爵夫妻の働きのおかげもあったのか、殺す価値もないと考えられたのか、今のところ起きていない。
直接、イオリクに関わっていない者の方が多いために、ふざけた態度を見ていないからかもしれない。
ただし、男爵になれば分からないが、行く末は見届ける義務があると考えていた。
「亡くなられた際にそばにいれなくて悔しいだろう、お前はディオエル様の中から消え去ったと言ってやりました」
「あいつには辛いことだろうな、尊敬する相手に嫌われて、忘れられて、二度と会うことはできない」
「はい」
だからこそ、アンデュースもライシードも一番痛いところ突いたのである。
「狼狽しておりましたが、放って来ました」
「それでいい」
「はい、もう考えるのも馬鹿馬鹿しい。時間の無駄だと思いました」
「ああ……そうだな、ディオエルは正しかったな」
ライシードとアンデュースは怒りばかりに気持ちが向いていたが、ディオエルは違った。心穏やかに竜帝国のこと、アイルーンのこと、テイラーのこと、そして子どものことを考えた。
両親の墓に、赤子とは呼べなくとも、ローズミーの疑似番の子どもの墓にも花を手向けたり、もうできなくなると告げているだろうと見守った。
「私も、最期はディオエルのようにありたいな……」
アンデュースはディオエルに呼び出されて、自身の状態について聞くことになった―――。
「私はもう長くなさそうだ」
「っ、ぐ、具合が悪いのか?」
お互い取り乱すことのない質であったが、アンデュースは身を乗り出し、瞬きをすることも忘れ、ディオエルを見つめた。
「ああ、最初にアンデュースに話す。次の皇帝を引き受けてもらえるか?」
「何を、言っている……」
「あなたが一番相応しいと思います、お願いできますか」
ディオエルは皇帝として、アンデュースと接していたが、皇帝になる前の口振りに戻っていた。
「番のせいか……?」
「察しがいい」
「そんな……嘘だろう」
アンデュースは驚愕の表情を浮かべ、大きな手で顔をを覆い、俯いた。
アイルーンが亡くなった際に、気を揉んでいた。今日、呼び出されたのも、何かあるのだろうと思ってはいたが、覚悟をしていたわけではなかった。
「残念ながら、嘘ではありません」
「そんな……医者は何と言っている?」
「まだ話していません」
「っな」
「アンデュースもいずれ分かると思う。これは喪失による痛みで、病気ではあるのかもしれないが、医師にも薬でも治せるものではない。原因はもう改善できるようなことではないのですから」
アンデュースも考えたくもないことだが、番を失った純血種のことは知っている。
「ようやく父の痛みが分かりました……」
強かった父が衰弱していく姿は、ディオエルでも衝撃であった。
同じ痛みかは分からないが、精神的な痛みはようやく分かった。そして、穏やかだったのも、死を受け入れていたのだと、自分の今の心情と一致していた。
「帰ったか?」
「はい、もうどうにもならないことくらい分かっているのですから、潔く決めてくれるといいのですが」
「どうだろうな、だが相談できる相手も、助けてくれる者もいない。一人で決めるしかない。最後くらい責任取らせよう」
高位貴族はイオリクを関わりたくないはおろか、視界にも入れたくないと避けた。おそらく、今となってはいないものとして扱われている。
下位貴族や平民の方がテイラーに共感し、イオリクに怒りを持っていた。
家族や仕事がある者は理性があるだろうが、何も失うものがない者ならば、殺そうとする者もいるかもしれないと考えていた。
だが、ディオエルの言葉、アンデュースの言葉のおかげか、前公爵夫妻の働きのおかげもあったのか、殺す価値もないと考えられたのか、今のところ起きていない。
直接、イオリクに関わっていない者の方が多いために、ふざけた態度を見ていないからかもしれない。
ただし、男爵になれば分からないが、行く末は見届ける義務があると考えていた。
「亡くなられた際にそばにいれなくて悔しいだろう、お前はディオエル様の中から消え去ったと言ってやりました」
「あいつには辛いことだろうな、尊敬する相手に嫌われて、忘れられて、二度と会うことはできない」
「はい」
だからこそ、アンデュースもライシードも一番痛いところ突いたのである。
「狼狽しておりましたが、放って来ました」
「それでいい」
「はい、もう考えるのも馬鹿馬鹿しい。時間の無駄だと思いました」
「ああ……そうだな、ディオエルは正しかったな」
ライシードとアンデュースは怒りばかりに気持ちが向いていたが、ディオエルは違った。心穏やかに竜帝国のこと、アイルーンのこと、テイラーのこと、そして子どものことを考えた。
両親の墓に、赤子とは呼べなくとも、ローズミーの疑似番の子どもの墓にも花を手向けたり、もうできなくなると告げているだろうと見守った。
「私も、最期はディオエルのようにありたいな……」
アンデュースはディオエルに呼び出されて、自身の状態について聞くことになった―――。
「私はもう長くなさそうだ」
「っ、ぐ、具合が悪いのか?」
お互い取り乱すことのない質であったが、アンデュースは身を乗り出し、瞬きをすることも忘れ、ディオエルを見つめた。
「ああ、最初にアンデュースに話す。次の皇帝を引き受けてもらえるか?」
「何を、言っている……」
「あなたが一番相応しいと思います、お願いできますか」
ディオエルは皇帝として、アンデュースと接していたが、皇帝になる前の口振りに戻っていた。
「番のせいか……?」
「察しがいい」
「そんな……嘘だろう」
アンデュースは驚愕の表情を浮かべ、大きな手で顔をを覆い、俯いた。
アイルーンが亡くなった際に、気を揉んでいた。今日、呼び出されたのも、何かあるのだろうと思ってはいたが、覚悟をしていたわけではなかった。
「残念ながら、嘘ではありません」
「そんな……医者は何と言っている?」
「まだ話していません」
「っな」
「アンデュースもいずれ分かると思う。これは喪失による痛みで、病気ではあるのかもしれないが、医師にも薬でも治せるものではない。原因はもう改善できるようなことではないのですから」
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「ようやく父の痛みが分かりました……」
強かった父が衰弱していく姿は、ディオエルでも衝撃であった。
同じ痛みかは分からないが、精神的な痛みはようやく分かった。そして、穏やかだったのも、死を受け入れていたのだと、自分の今の心情と一致していた。
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