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【テイラー】追想5
そして、ついにあの日を迎えた。
ディオエルに何度目か分からない、胸の痛みが起こり、そのまま花の蕾が開かないまま落ちるかのように、亡くなられた。
ライシードも、アンデュースも駆け付け、間に合いはしたが、何もできずにその死を見届けた。大きな方だったのに、あまりにも小さく見えた。
部屋には全員男性ではあったが、誰もが涙を堪えきれずに、咽び泣いた。
だが、その後は誰一人涙を流さず、ディオエルを送り出した。
本当にいなくなってしまったディオエルへの喪失感はあったが、アンデュースが立派に務め、皇妃も皇子と皇女もいることから、少しずつ明るくなっていった。
家族がいる分、明るさはディオエルよりも勝っていった。
ライシードはその明るさに寂しさもあったが、ご家族も無理をしてでもと考えていらっしゃる様子が伺え、しっかりお支えしようと誓った。
それでも、皆、ギビキビと前を向き、異常な状態だったようにも思う。誰もが働いている方が、気が紛れる気持ちだったのだろう。
崩御されてからは邸には、ほとんど帰れなかったが、家族には罵倒されることを覚悟し、罵倒されたいと思ってすらいた。
だが、夕食前に邸に帰った時に出迎えた両親の表情は明るいものではなかったが、穏やかであった。
「お疲れ様」
「今日はゆっくり休めるの?」
「ああ」
「そうか、なら着替えて食事にしよう」
「そうね」
まるでいつものように、何もなかったかのよう振舞う両親に苛立った。
「どうして、何も聞かないんだ?責め立てたいだろう?」
「いいや」
父親は否定し、母親もその横で首を振っていた。
「どうして!ディオエル様が亡くなられたのですよ……」
「分かっている、悲しく、辛い。だが、私たち以上に、お前が一番そばにいたのだから、私たちよりも悲しみは重いだろう?」
「それでも、私がもっと、どうして……時間を戻したいとこんなに思ったことはありません」
泣かないと決めていたのに、ボロボロと涙が零れていた。
「ディオエル様から、ライシードは立派に側近を務めた。アンデュースも支えてやって欲しいと手紙をいただいた」
「っ、いつの間に……」
「アンデュース皇帝陛下が、届けてくださったんだ」
「っ」
ディオエルがアンデュースに頼んでいたこと、アンデュースも何も言わなかったのだと思うと、さらに涙が零れた。
「罵倒してください、私は何も、守れなかった……」
「よくやったとは言わない。だが、ディオエル皇帝陛下が伝えてくださった言葉を、無碍にするな」
「そうよ!あなたを私たちが叱れば、ディオエル皇帝陛下を否定することになるわ!そんなことできるわけないし、したくもないわ!」
「……はい」
「しっかり働きなさい、それがあなたに今、今からできることでしょう」
「はい……」
「今日はゆっくり休みなさい」
ディオエルからの手紙は私の不甲斐なさで、ライシードには迷惑を掛けてしまったこと、素直なライシードに何度救われたか分からない、羨ましいほどだった。
良い子息に恵まれた、誇りであると書かれていて、夫妻はライシードの前では涙など見せなかったが、その手紙を読んで、崩れ落ちた。
ライシードを出来が悪いと思っていたわけではないが、末っ子であったために、側近などできるのだろうかと思っていた。
だが、素直でまっすぐな性格は、ディオエルに気を許してもらえるくらいしか利点はないと考えていたが、認めてくれたことは嬉しかった。
結果は竜帝国に影を落としたが、誇らしい息子にはディオエルのためにも、アンデュースを支えてもらわなくてはならない。
それがディオエルへのこれまでの感謝になる。そう思った。
ディオエルはイオリクのことは、名前もだが、事件のことについて触れるようなこともなかった―――。
ディオエルに何度目か分からない、胸の痛みが起こり、そのまま花の蕾が開かないまま落ちるかのように、亡くなられた。
ライシードも、アンデュースも駆け付け、間に合いはしたが、何もできずにその死を見届けた。大きな方だったのに、あまりにも小さく見えた。
部屋には全員男性ではあったが、誰もが涙を堪えきれずに、咽び泣いた。
だが、その後は誰一人涙を流さず、ディオエルを送り出した。
本当にいなくなってしまったディオエルへの喪失感はあったが、アンデュースが立派に務め、皇妃も皇子と皇女もいることから、少しずつ明るくなっていった。
家族がいる分、明るさはディオエルよりも勝っていった。
ライシードはその明るさに寂しさもあったが、ご家族も無理をしてでもと考えていらっしゃる様子が伺え、しっかりお支えしようと誓った。
それでも、皆、ギビキビと前を向き、異常な状態だったようにも思う。誰もが働いている方が、気が紛れる気持ちだったのだろう。
崩御されてからは邸には、ほとんど帰れなかったが、家族には罵倒されることを覚悟し、罵倒されたいと思ってすらいた。
だが、夕食前に邸に帰った時に出迎えた両親の表情は明るいものではなかったが、穏やかであった。
「お疲れ様」
「今日はゆっくり休めるの?」
「ああ」
「そうか、なら着替えて食事にしよう」
「そうね」
まるでいつものように、何もなかったかのよう振舞う両親に苛立った。
「どうして、何も聞かないんだ?責め立てたいだろう?」
「いいや」
父親は否定し、母親もその横で首を振っていた。
「どうして!ディオエル様が亡くなられたのですよ……」
「分かっている、悲しく、辛い。だが、私たち以上に、お前が一番そばにいたのだから、私たちよりも悲しみは重いだろう?」
「それでも、私がもっと、どうして……時間を戻したいとこんなに思ったことはありません」
泣かないと決めていたのに、ボロボロと涙が零れていた。
「ディオエル様から、ライシードは立派に側近を務めた。アンデュースも支えてやって欲しいと手紙をいただいた」
「っ、いつの間に……」
「アンデュース皇帝陛下が、届けてくださったんだ」
「っ」
ディオエルがアンデュースに頼んでいたこと、アンデュースも何も言わなかったのだと思うと、さらに涙が零れた。
「罵倒してください、私は何も、守れなかった……」
「よくやったとは言わない。だが、ディオエル皇帝陛下が伝えてくださった言葉を、無碍にするな」
「そうよ!あなたを私たちが叱れば、ディオエル皇帝陛下を否定することになるわ!そんなことできるわけないし、したくもないわ!」
「……はい」
「しっかり働きなさい、それがあなたに今、今からできることでしょう」
「はい……」
「今日はゆっくり休みなさい」
ディオエルからの手紙は私の不甲斐なさで、ライシードには迷惑を掛けてしまったこと、素直なライシードに何度救われたか分からない、羨ましいほどだった。
良い子息に恵まれた、誇りであると書かれていて、夫妻はライシードの前では涙など見せなかったが、その手紙を読んで、崩れ落ちた。
ライシードを出来が悪いと思っていたわけではないが、末っ子であったために、側近などできるのだろうかと思っていた。
だが、素直でまっすぐな性格は、ディオエルに気を許してもらえるくらいしか利点はないと考えていたが、認めてくれたことは嬉しかった。
結果は竜帝国に影を落としたが、誇らしい息子にはディオエルのためにも、アンデュースを支えてもらわなくてはならない。
それがディオエルへのこれまでの感謝になる。そう思った。
ディオエルはイオリクのことは、名前もだが、事件のことについて触れるようなこともなかった―――。
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