【完結】愛しくない、あなた

野村にれ

文字の大きさ
295 / 344

【テイラー】イオリク・オイワード4

 オイワード公爵家はベイシクが戻ってい来ないこともあったが、竜帝国は寿命の者も多いために、よくあることではあるが、ベイシクでもイオリクでも既に継いでもおかしくはない年齢ではあった。

 イオリクにとっては、ディオエルの側近が一番重要であったために、これまで爵位について考えたこともなく、ベイシクに連絡してみようと思ったこともなかった。

 だが、今ならば爵位を継げば、置かれた状況から何か好転するのではないかと考えるようになり、慈善活動も目標ができたために、前向きに行うようになった。

 ある日、イオリクが慈善活動を終えて、とぼとぼ歩いて邸に帰っていると、後ろから聞きたかった声が聞こえた。

「あなた!」
「エッセ?どうしたんだ、会いたかったよ」

 イオリクは久し振りに見た妻・エッセの肩を掴んで、しっかりと顔を見つめた。

「私も会いたかったわ、だから待っていたの」
「そうだったのか、待たせてしまって、すまなかったな」
「いいの!お父様が今、あなたに会うことは危険だから、会ってはならないと言い出して、分かってくれなくて、手紙もくれていたのに、返事は禁止されていたの」

 イオリクの手紙は届いていたが、返事を送らせてはもらえなかった。

「ディオエル様がお亡くなりになって、アンデュース皇帝陛下の発表も聞いて、ずっと大丈夫なのかと心配していたのよ?」

 ディオエルが亡くなってから、イオリクとエッセはやり取りをしておらず、イオリクからディオエルへの思いや辛くてたまらないことなど、一方的な手紙をもらっていただけであったために、エッセはずっと心配をしていた。

「ああ……」
「即位式でも、あなたのせいのように言われて、誤解があったのでしょう?」
「そうなんだ、エッセに話を聞いて欲しいと思っていたんだ」

 エッセは痩せたイオリクを心配そうに見つめて、頷いた。

「セリーも元気なのか?」
「ええ、元気は元気なのだけど」
「何かあったのか?」
「それがお父様は、セリーを他国に行かせた方がいいだろうと言い出して。私も一緒に行ったらどうかなんて言うのよ?あり得ないわ」

 デイース伯爵はイオリクが罪を犯し、公表される前に離縁したことは良かったと思っていたが、それでも風当たりは強かった。

 ゆえに、既に関係ないと見せることが伯爵家も、エッセとセリーを守ることになると思ってのことだったが、エッセはそう思っていなかった。

 エッセは離縁すれば他人になれるが、娘・セリーはイオリクの子どもであることには変わりない。

 それこそ、セリーがベイシクの恐れていたイオリク、オイワード公爵家の血を継いでいる子どもとなる。

 デイース伯爵は女の子であるために、このままオイワード公爵家とは縁を切って、竜帝国では無理だろうが、理解をしてくれる相手なら、結婚もできるのではないかという考えであった。

 だが、エッセはイオリクと離れたくないことから、反対をしていた。

「何だって?セリーはどう言っているんだ?」
「それが、居心地が悪いこともあるみたいで……酷くなるようなら、他国に行ってもいいと言い出して」

 セリーは両親と同じように、運命の相手を見付けようと思っていたために、婚約者も、恋人もいなかった。

 イオリクのことが発表されても、友人からは同情される部分もあったが、イオリクとエッセと同じ番には否定的な考えを持っていたために、これまでどうだろうと思っていた友人には距離を置かれるようになっていた。

「そうか、邸に入るといい。話をしよう」
「もう戻らないといけないの」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

本日もお読みいただきありがとうございます。

本日は1日2話、投稿させていただきます。
いつもの17時に、もう1話投稿します。

どうぞよろしくお願いいたします。

あなたにおすすめの小説

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

間違えられた番様は、消えました。

夕立悠理
恋愛
※小説家になろう様でも投稿を始めました!お好きなサイトでお読みください※ 竜王の治める国ソフームには、運命の番という存在がある。 運命の番――前世で深く愛しあい、来世も恋人になろうと誓い合った相手のことをさす。特に竜王にとっての「運命の番」は特別で、国に繁栄を与える存在でもある。 「ロイゼ、君は私の運命の番じゃない。だから、選べない」 ずっと慕っていた竜王にそう告げられた、ロイゼ・イーデン。しかし、ロイゼは、知っていた。 ロイゼこそが、竜王の『運命の番』だと。 「エルマ、私の愛しい番」 けれどそれを知らない竜王は、今日もロイゼの親友に愛を囁く。 いつの間にか、ロイゼの呼び名は、ロイゼから番の親友、そして最後は嘘つきに変わっていた。 名前を失くしたロイゼは、消えることにした。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

大人しい令嬢は怒りません。ただ二年間、準備していただけです。――婚約解消の申請が受理されましたので、失礼いたします

柴田はつみ
恋愛
婚約者に、誕生日を忘れられた。 正確には、忘れられたわけではない。 エドワード・ヴァルト公爵はちゃんと覚えていた。 記念のディナーも、予約していた。 薔薇だって、一輪、用意していた。 ただ――幼馴染のクロエ・アンセル伯爵令嬢から使いが来た瞬間、全部置いて行ってしまっただけだ。 「すぐ戻る」 彼が戻ったのは、三時間後だった。 蝋燭は溶け切り、料理は冷え、ワインは乾いていた。 それでもリーゼロッテ・フォン・アルテンベルクは、笑顔で座って待っていた。 「ええ、大丈夫でございます。お気遣いなく」 完璧な微笑みで、完璧にそう言った。

文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる── 侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。 だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。 アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。 そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。 「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」 これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。 ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。 4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。

夫は私を愛していないそうなので、遠慮なく離婚します。今さら引き止められても遅いです

藤原遊
恋愛
王妃付き護衛騎士である夫に、「お前を愛したことはない」と告げられた。 理由は単純。 愛などなくても、仕事に支障はないからだという。 ──そうですか。 それなら、こちらも遠慮する必要はありませんね。 王妃の機嫌、侍女たちとの関係、贈り物の選定。 夫が「当然のように」こなしていたそれらは、すべて私が整えていたもの。 離婚後、少しずつ歯車は狂い始める。 気づいたときにはもう遅い。 積み上げてきた信用は、静かに崩れていく。 一方で私は、王妃のもとへ。 今さら引き止められても、遅いのです。

幸せな番が微笑みながら願うこと

矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。 まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。 だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。 竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。 ※設定はゆるいです。

白い結婚のまま、旦那様は薔薇のような美人に夢中になりました

柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢リディアは、美貌で有名な侯爵レオンハルトに嫁いだ。 けれど結婚して二年、夫婦は一度も結ばれないまま――白い結婚だった。 それでも旦那様は優しかった。 冷たいわけではない。気づかいの言葉も、穏やかな笑顔もくれる。 だからリディアは、愛されてはいなくても、いつか少しは夫婦になれるのではないかと信じていた。 そんなある日、彼女は知ってしまう。 旦那様が薔薇の君と呼ばれる絶世の美女に心を奪われていることを。 彼が触れなかったのは私にだけだったのだと。 都合のいい奥方として、役に立っていたと悟る 静かに離縁を決意したリディアは、実家へ戻ったあと、女子学院で働き始める。 すると侯爵夫人時代には当たり前だった実務のすべてが、外では驚くほど必要とされていた。 感謝され、認められ、自分の足で立ち始めた彼女は、少しずつ見違えるほど美しくなっていく