【完結】愛しくない、あなた

野村にれ

文字の大きさ
307 / 344

【テイラー】教会2

「中へどうぞ」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」

 三人が歩いて行くと、ハイスとキューラの棺は並べて置かれており、覗き込むと中にハイスとキューラが眠っていた。

 籍を抜く時に会っているので、急に老けたとは思わないが、あの時よりやつれているようには感じた。目の当たりにすると、悲しさはもちろんあったが、楽になったのではないかと思ってしまった。

 逃げたと思われることは承知だが、これからも生きることはできなかった。罰を受けて、責任を取りたかったのだろう。

 泣いていたわけではないが、アリッサはベイシクの手の甲をゆっくりと擦った。

 その時、扉から誰かが入って来て、騒がしくなったが、ベイシクたちの位置からは誰なのか分からず、そちらの方向を見ていたが、扉が閉まると同時に誰かが分かり、慌てて頭を下げた。

「皇帝陛下にご挨拶申し上げます」

 アリッサも執事も慌てて、頭を下げた。やって来たのは、アンデュースで、後ろにはライシードもいる。

「よい、お忍びでやって来て、ご両親のご遺体の前でそんなことはしなくていい」
「ですが」
「そなたはもうテンス王国の者だろう?」
「で、ですが、皇帝陛下であることは変わりません」
「それはそうだな。竜帝国の出身、二人の息子ではあるが、ディオエルが除籍を認め、私がいいと言っているのだから、背筋を伸ばせ」

 そう言われると、頭を下げ続けるわけにはいかず、頭を上げるしかなかった。

 二人は同じ公爵家ではあったが、ベイシクはオイワード公爵家の立ち位置は分かっていたために、親しいわけではなかった。

「承知いたしました。横は、妻のアリッサです」
「アリッサ・カルロワールでございます」

 アリッサも背筋を一度伸ばし、再び頭を下げた。

「伯爵家の方だったな」
「はい」
「ベイシクをよろしく頼む」
「承知いたしました」

 アンデュースは穏やかな表情で、アリッサに告げた。

「葬儀には参列できないからな、二人の顔を見ておこうと思って来たんだ。丁度、良かったな」
「ありがとうございます、両親も感謝すると思います」
「うーん、いや、私はこうなるのではないかと思っていたんだ」

 ベイシクはその言葉に、思わず黙ってしまった。

 その間に、アンデュースは棺の方へ歩いて行った。そして、ハイスとキューラの顔を覗き、数秒、目を瞑った。

「恐れながら、私も妻も執事も思っておりました。思っていないのは、弟だけだと思います」

 この場でイオリクという名前を呼ぶことは、しない方がいいと判断した。

「あれは駄目だろう?駄目だから、こんなことになったんだがな。話をしたか?」
「はい、話をしましたが、両親の言う通りでした。何を言っても聞く気がない、何を聞いても理解ができませんでした。謝っても、許されることではありませんが、申し訳ございませんでした」
「謝りたい気持ちもわかるが、もう謝る相手はいないんだよ」
「はい……その通りにございます」

 そう言われて、両親の亡骸を見ても、出なかった涙が零れそうになったが、ぐっと堪えた。

「私がな、イオリクを当主にしろと言ったんだよ」
「っ」
「ですが、オイワード公爵家はこのまま継続することは難しいと思います」
「ああ、私はご両親は爵位を返上したいと言って来たんだが、突っぱねた」
「そうでしたか」

 ハイスとキューラは爵位を返上しようとしたこと、アンデュースに断られて、イオリクを当主にするように言われたことは、誰にも口にはしなかった。

「このまま、返上すれば、ハイスがオイワード公爵家の最後の当主になるだろう?そうではなく、当人が潰した方がいいと思ったんだ」
「はい」
「それとな、ご両親は罰を望んでいた。だから、爵位を返上して、責任を取って自害するつもりだったと思っていたんだよ」
「っ、それ、は……」

あなたにおすすめの小説

【今さら遅い】毒で声を失い公爵に捨てられた私。妹では精霊が応えず国は滅びへ。ですが隣国皇帝に溺愛される私に、今さら縋ってきても遅いです

唯崎りいち
恋愛
国一番の歌姫だった私は、妹に毒を盛られ声を失い、婚約者に捨てられた。 すべてを奪われた私を救ったのは、隣国の皇帝。 「お前の歌がなければ国は滅びる」と言われた私の歌は、精霊に届く“本物”の力を持っていて―― 一方、私を追放した国は偽物の歌では加護を失い衰退。 今さら元婚約者が縋ってきても、もう遅い。

世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました

由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。 ——皇子を産めるかどうか。 けれど私は、産めない。 ならば—— 「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」 そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。 毒を盛られても、捨てられず。 皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。 「お前は、ここにいろ」 これは、子を産めない女が ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。 そして—— その寵愛は、やがて狂気に変わる。

「離縁状の印が乾く前に、王太子殿下から花束が届きました」〜五年間「置物」と呼ばれた侯爵夫人、夫が青ざめるのは王家との縁が切れてからでした〜

まさき
恋愛
侯爵夫人として過ごした五年間、夫に名前を呼ばれたことが一度もなかった。 愛人を夜会に連れてきた翌朝、私は離縁状を置いて屋敷を出た。 夫は「すぐ戻る」と思っていたらしい。 でも届いたのは、王太子殿下からの白薔薇だった。 「五年、待ちすぎました。今度こそ私の隣に」 幼馴染の殿下は、いつも私を「アメリア」と呼んでくれた。 ただそれだけで、五年分の何かが、ほどけていった。 夫が全てを失うのはこれからの話。 私が本当の笑顔を取り戻すのも、これからの話。

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

大人しい令嬢は怒りません。ただ二年間、準備していただけです。――婚約解消の申請が受理されましたので、失礼いたします

柴田はつみ
恋愛
婚約者に、誕生日を忘れられた。 正確には、忘れられたわけではない。 エドワード・ヴァルト公爵はちゃんと覚えていた。 記念のディナーも、予約していた。 薔薇だって、一輪、用意していた。 ただ――幼馴染のクロエ・アンセル伯爵令嬢から使いが来た瞬間、全部置いて行ってしまっただけだ。 「すぐ戻る」 彼が戻ったのは、三時間後だった。 蝋燭は溶け切り、料理は冷え、ワインは乾いていた。 それでもリーゼロッテ・フォン・アルテンベルクは、笑顔で座って待っていた。 「ええ、大丈夫でございます。お気遣いなく」 完璧な微笑みで、完璧にそう言った。

旦那様。私が悪女ならば、愛人の女は何になるのかしら?

白雲八鈴
恋愛
 我が公爵家主催の夜会の最中。夫が愛人を連れてやってきたのです。そして、私を悪女という理由で離縁を突きつけてきました。  離縁して欲しいというのであれば、今まで支援してきた金額を全額返済していただけません?  あら?愛人の貴女が支払ってくれると?お優しいわね。  私が悪女というのであれば、妻のいる夫の愛人に収まっている貴女は何なのかしら?

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。