【完結】愛しくない、あなた

野村にれ

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【テイラー】申請4

 イオリクも払えない状況になれば、残るお金はないと思った方がいい。ならば、払える今、決断をして手放して生きていく方が賢明である。

 申請を受ける側で、これまでそんな風に話したことは何度もあり、払えないことを分かっていたのに、払えるはずだと無理をして全財産も住むところも失った者を、馬鹿だと思ったこともあった。

「ディオエルがいたとしても、同じことを言っただろう」

 アンデュースがディオエルの名前を出した途端に、イオリクはアンデュースと目を合わせた。

「ディオエル様は、ディオエル様は、苦しまれたと……聞きました」
「お前がテイラー様を殺したせいで、繋がっていたいとは切れた……今世に繋ぎ止めるものはなくなった。そう考えるのが妥当だろう」
「そんなこと」
「ディオエルの病名は、心臓が衰弱したことによる心停止だ。何度も発作が起こり、苦しんでいた。食事もままならず、立ち上がれず、声も出せなかった」

 イオリクは想像もできないディオエルの姿に、眩暈がした。

「今世……に、本当にあの女が繋ぎ止めていたのですか」
「呼び名を改めろ!」

 冷静に話していたアンデュースだったが、初めて声を荒げた。

「っ、テイラー様が繋ぎ止めていたのですか」
「お前も知っているだろう?番を失って、狂う者、衰弱する者……そして亡くなってしまうことを」
「番など必要ないのです」
「お前はそうだろうな。だが、番がいるからこそ頑張れる。いや、心身ともに健康でいられるのだよ。純血種を守る者としては必要なことである。本来はお前もその立場にあったはずだ」

 純血種を守らなかったのはイオリクのせいではないが、オイワード公爵家が守っていれば、同じ立場であったかもしれない。

 健康でいられるのも、番より長く生き、番を一生涯守るという意味もある。

 ゆえに番との別れは必然である。昔は純血種同士ということもあったが、今となっては夢物語のような話になっている。

「テイラー様が生きていたら、妃にならなくとも、亡くならなかったと?」
「ああ、その通りだ」
「心身ともに健康とはいかなくとも、純血種は弱くない。亡くなることはなかったというのが、医師の見解だ」
「彼女が別の男と結婚したとしても?」
「ああ、そういったこともあるからな」
「ですが、そうなると後継者が」
「だからこそ、公爵家がある。純血種を守るということはそういうことだ」

 番が見付かっても、後継者を残せないこともあるために、公爵家は純血種を残す努力をする必要がある。

「ですが、彼女が受け入れていれば!」
「お前は、テイラー様は妃になることを受け入れたと言ったそうじゃないか。なあ、ライシード」
「はい、ディオエル様と一緒にそう聞きました」
「皇帝陛下への嘘……嘆かわしいことだな。尊敬する方への態度だとは思えない」
「受け入れればいいんです!番とはそういう者なんですから」

 アイルーンが亡くなったことで一時は、どうなるかと思ったが、ローズミーが妊娠をして、番よりも愛が勝ったのだと思い、歓喜した。

 だが、子どもは上手く育たなかった。疑似番など、愚かな者に手を出すような物がいるなんて考えたこともなかった。

 それでも、再び番は見付かり、これでようやくと思ったのに、こんなことになるなんて思ってもいなかった。

 テイラーが大人しく、番らしく言うことを聞いていれば、ディオエルも死ぬことはなかった。

「それを私に言うのか?よく言えるものだな」
「っ」

 アンデュースはディオエルと違って、番と結婚し、大事に思っている。

「いえ、皇帝陛下に、意見があるわけではありません」
「テイラー様は、アイルーン様の記憶があったのです。ですから、責任があるでしょう!ですから」
「責任があるのはディオエル、竜帝国の方だろう」

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