【完結】愛しくない、あなた

野村にれ

文字の大きさ
341 / 344

【テイラー】親6

「テイラーは薄情で書かなかったのではなく、きっと二人のことを思って書かなかったのではないかと思うのです」
「親だから?」
「はい、私たちには要望でしたから、書き残しておく必要があった」
「ええ。もしかしたら、ディオエル前国王陛下のように、書いておくつもりだったけど、まだ書いていなかっただけかもしれないわね」
「そうかもしれませんね」

 テイラーはあの日、あんなことになるとは思っていなかった。

 まだ続きだってあったかもしれない。

 両親には書きたいことがあって、後になったのかもしれない。だが、そんなことを言っても、想像であって、実際に手紙はなかったのだから、やはり伝えなくて良かったと思った。

「ディオエル皇帝陛下には、何が書いてあったか気になる?」
「いいえ」
「私は聞くことはしませんが、気になるわ」
「良いことは書いていないと思いますけどね」
「そうね」

 亡くなったからと言って、すべてを明かしていいわけではない。シュアリアだって分かっている。

「私はあの事件が起きた日、テイラーを見た時、そんな状況ではありませんでしたが、頭を打ったと聞き、アイルーンの記憶がなくなったらいい、テイラーの人生を歩んで欲しいと思っていました」
「記憶を?」
「はい、そうすればテイラーとして、生きていけると思ったのです。そんな上手くはいきませんよね、分かっています。それでも、あの子には自分の人生を生きていって欲しかった」

 ルーベンスはテイラーが血まみれだったが、医師から頭を打ったことが原因だと言われて、そんなことを考えていた。

「そうね……」
「命ではなく、記憶を奪って欲しかったです」

 自分が愚かなことを考えたせいかと思う反面、テイラーを看病をする中で、頭を打ったのなら、どうかアイルーンの記憶だけを奪ってくれ、私のことは忘れてくれていい、どうか命を奪わないでくれと願っていた。

「ええ、本当に。そうしたら、あの子は何も考えずに生きて、コンフォートホテルで働いていた」
「はい、レストランもあるそうですから、皆で食事に行ったり、したかったですね」
「ええ、私も一緒に行きたいわ」
「ええ」

 叶わない願いでも、そんな世界があったかもしれない。そう思うことで、二人はようやく微笑むことができる。

「前国王陛下はどうされていますか?」
「変わらないわ」
「そうですか」

 ディオエルが亡くなったことで、自分がしたことに耐え切れず、茫然として過ごしていると聞いていた。

「あなたには腹の立つことだと思うけど、現実逃避というのかしらね。自分のことではないと思って、生きているわ」
「そうですか」
「受け止め切れないのよ、弱くて、謝罪もできない、責任も取れない。国王の器ではなかったことは確かだわ」

 シュアリアだから言えることだが、確かにギリシスは愚王ではなかったが、浅墓なところがあり、シュアリアが支えていたからこそであった。

「あなたは恨むべき相手でしょうけど、ディオエル皇帝陛下とは違うわ」
「そうですね、でもエレサーレ国王陛下はしっかりされていらっしゃいます」
「頑張ってくれているわ」
「ええ」

 ミリオン王国はエレサーレによって、これからも続いていくことになる。

 その国王はアイルーンとテイラーに怒ったことを身を持って知っている、それだけで救われる気持ちになる。

 ギリシスはエレサーレが国王になってから、四年後に亡くなった。

 食事もあまり摂れなくなり、動かなくなり、どんどん衰弱していった。エレサーレの結婚式にも体調不良ということで、参列しなかった。

 姿を見ることはずっとギリシスに付いていた使用人と、シュアリアとエレサーレだけで、最期はふくよかな方だった体はすっかり痩せ細ってしまった。

 葬儀も国葬にはせず、静かに弔われ、後日亡くなったことを発表した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

本日もお読みいただきありがとうございます。

最終回を明日に控え、
本日は1日2話、投稿させていただきます。
いつもの17時に、もう1話を投稿します。

そして、本日同時刻より、
新作「愛されて、愛されて、愛されて」を投稿しております。
よろしければよろしくお願いします。

最後までどうぞよろしくお願いいたします。

あなたにおすすめの小説

幼馴染しか見えない婚約者と白い結婚したので、夜明け前にさよならしました

ゆぷしろん
恋愛
公爵令嬢レティシアは、家同士の都合で伯爵アルフレッドに嫁ぐ。 けれど夫は結婚後もずっと幼馴染のシルヴィばかりを優先し、婚礼の夜から夫婦として触れ合おうともしなかった。名ばかりの妻として伯爵家を支え、領地経営まで立て直しても、彼にとってレティシアは“都合のいい伯爵夫人”でしかない。 やがて結婚一周年の夜、アルフレッドが自分を手放す気はない一方で、幼馴染を屋敷に迎え入れようとしている会話を聞いてしまったレティシアは、ついに決意する。 ――もう、この結婚には見切りをつけよう。 夜明け前、彼女は離縁の準備を整え、伯爵邸を出奔。 身を寄せた北の港町で薬舗を手伝いながら、自分の力で生きる穏やかな日々を手に入れていく。そこで出会ったのは、身分ではなく一人の女性として彼女を尊重してくれる青年医師ノアだった。 一方、都合よく尽くしてくれる妻を失ったアルフレッドは、ようやく自分が何を失ったのかを思い知ることになる。 幼馴染ばかりを優先する婚約者との白い結婚に終止符を打ち、傷ついた公爵令嬢が新天地で本当の幸せを掴む、離縁から始まる逆転ラブストーリー。

大人しい令嬢は怒りません。ただ二年間、準備していただけです。――婚約解消の申請が受理されましたので、失礼いたします

柴田はつみ
恋愛
婚約者に、誕生日を忘れられた。 正確には、忘れられたわけではない。 エドワード・ヴァルト公爵はちゃんと覚えていた。 記念のディナーも、予約していた。 薔薇だって、一輪、用意していた。 ただ――幼馴染のクロエ・アンセル伯爵令嬢から使いが来た瞬間、全部置いて行ってしまっただけだ。 「すぐ戻る」 彼が戻ったのは、三時間後だった。 蝋燭は溶け切り、料理は冷え、ワインは乾いていた。 それでもリーゼロッテ・フォン・アルテンベルクは、笑顔で座って待っていた。 「ええ、大丈夫でございます。お気遣いなく」 完璧な微笑みで、完璧にそう言った。

【完結】遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
【残り数話を持ちまして3月29日完結!!】 夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。 長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。 待っていたのは、凍てつく絶望。 けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。 「夫は愛人と生きればいい。  今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」 それでも私は誓う―― 「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」 歪で、完全な幸福――それとも、破滅。 “石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

『恋心を凍らせる薬を飲みました』 - 残りの学園生活、どうぞご自由にお遊びください、婚約者様

恋せよ恋
恋愛
愛されることを諦めた。だから、私は心を凍らせた。 不誠実な婚約者・ユリアンの冷遇に耐えかねたヤスミンは、 伝説の魔女の元を訪れ、恋心を消し去る「氷の薬」を飲む。 感情を捨て、完璧な「人形」となった彼女を前に、 ユリアンは初めて己の罪と執着に狂い始める。 「お願いだ、前のように僕を愛して泣いてくれ!」 足元に跪き、涙を流して乞う男に、ヤスミンは冷酷に微笑む。 「愛?……あいにく、そのような無駄な感情は捨てましたわ」 一度凍りついた心は、二度と溶けない。 後悔にのたうち回る男と、心を凍らせた冷徹な公爵夫人の、 終わりのない贖罪の記録。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……