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【テイラー】最期2
「自分の結婚が上手くいかず、向いていないと思ったので、もしかしたらそんな気持ちがあるのかもしれません」
「だが、いいな、もう二十年だ。すぐに生まれていたら、もう結婚しているかもしれない」
「そんな世界があるといいですね」
二人はそんな世界があるかは分からないが、想像するだけでも二人の心は少し温かい気持ちになった。
「手紙は何が書いてあったのでしょうね……」
「内容が知りたいのか?」
「いいえ、良いことが書いてあったのならいいなと思っています」
「良いことか……」
会ったこともないが、話を聞く限り、良いことが書いてあるとは思えなかった。
「きっとあの手紙が、ディオエル様とテイラー様の初めての会話と言いますか、一方的ではありますが、やり取りだったのではないかと思うのです」
「どういうことだ?」
アンデュースは率直に意味が分からず、眉間に皺を寄せて問い掛けた。
「アイルーン様の事件と、イオリクの事件と、それに関係していない会話はなかったと思うのです」
「そうなのか」
「当然、お子様のことなどはありましたが、それもアイルーン様のことですから」
「では、何が書いてあったかによって、初めての……そうだったのか」
「はい、もし私的なことが書いてあればですが」
「だが、ディオエルの手紙があるとは言わなかったという話だったよな?」
「そうです」
テイラーはディオエルへの手紙があることは言わなかった。届けるつもりではなかったのかもしれないが、デリア侯爵家のメイドが持って来てしまった。
「机の奥に入っていたそうです。それを持って来られて」
「渡すつもりはなかった手紙ということか?」
「ですが、名前も封もされていました」
「いつか出す手紙だったのかもしれないな……もしかしたら、見付かればそれでいい。見付からなかったら、届かなくてもいいと思ってのことだったのかもしれないな」
「ああ……それが一番、納得ができる答えですね」
長い時間を過ごしたわけではないが、テイラーはそんな風に考えるのではないかと思えた。
「ディオエル様も受け取れないと、おっしゃっていましたから」
「届いて良かったのではないか」
「そうですね、ディオエル様以外に届くことのない手紙ですから」
「それは少しでも良いことが書いてあるといいと思ってしまうな」
「はい……」
一生、誰にも分からない内容だが、それでも二人は願わずにはいられなかった―――。
ディオエルはテイラーの手紙を竜帝国に戻っても、読むことができなかった。
早く読みたい気持ちはある、怖かったわけではない、何が書いてあってもいい、一言でもいい。それでも、読んだたら、本当に終わってしまう気がしていた。
このまま、読まずにいたら、あの手紙あると思えて、少し心が落ち着く思いであった。
それでも自分の病状もあることから、読まずに死ぬことはできなかった。静かな自室で、封筒を開き、そっと便箋を広げた。
長い文ではなかったために、ゆっくりと噛み締めるように読み進めた。
読み終えて、涙が零れた。
それは、アイルーンからの手紙でもあり、テイラーの手紙でもあった。
「私も、私も、役に立つことが、あったんだな……」
「すまなかった」
「まるで、二人からの手紙だな……ありがとう、すまない、すまなかった」
そして、ディオエルは誰にも読まれないように、その手紙は動けなる前にそっと燃やした。
自分だけの物にしたかったこともあるが、それ以上にこの手紙が見付かって、ディオエルが亡くなった後、その後の未来で勝手な想像をされたくはなかった。
ディオエルが亡くなる日、胸の痛みを感じた際に、これが最期だろうと思った。
アイルーンの分、テイラーの分、きっとこんな痛みでは足りなかっただろうが、それでもこの痛みは二人の分だと思い、受け止め続けた。
そして、最期にディオエルは願いではなく、二人に届くならと、謝罪をした。
(すまなかった……)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
本日もお読みいただきありがとうございます。
最終日も1日2話、投稿させていただきます。
ただ、いつもの17時の1話はとても短いです。
予めご了承ください。
最後までどうぞよろしくお願いいたします。
「だが、いいな、もう二十年だ。すぐに生まれていたら、もう結婚しているかもしれない」
「そんな世界があるといいですね」
二人はそんな世界があるかは分からないが、想像するだけでも二人の心は少し温かい気持ちになった。
「手紙は何が書いてあったのでしょうね……」
「内容が知りたいのか?」
「いいえ、良いことが書いてあったのならいいなと思っています」
「良いことか……」
会ったこともないが、話を聞く限り、良いことが書いてあるとは思えなかった。
「きっとあの手紙が、ディオエル様とテイラー様の初めての会話と言いますか、一方的ではありますが、やり取りだったのではないかと思うのです」
「どういうことだ?」
アンデュースは率直に意味が分からず、眉間に皺を寄せて問い掛けた。
「アイルーン様の事件と、イオリクの事件と、それに関係していない会話はなかったと思うのです」
「そうなのか」
「当然、お子様のことなどはありましたが、それもアイルーン様のことですから」
「では、何が書いてあったかによって、初めての……そうだったのか」
「はい、もし私的なことが書いてあればですが」
「だが、ディオエルの手紙があるとは言わなかったという話だったよな?」
「そうです」
テイラーはディオエルへの手紙があることは言わなかった。届けるつもりではなかったのかもしれないが、デリア侯爵家のメイドが持って来てしまった。
「机の奥に入っていたそうです。それを持って来られて」
「渡すつもりはなかった手紙ということか?」
「ですが、名前も封もされていました」
「いつか出す手紙だったのかもしれないな……もしかしたら、見付かればそれでいい。見付からなかったら、届かなくてもいいと思ってのことだったのかもしれないな」
「ああ……それが一番、納得ができる答えですね」
長い時間を過ごしたわけではないが、テイラーはそんな風に考えるのではないかと思えた。
「ディオエル様も受け取れないと、おっしゃっていましたから」
「届いて良かったのではないか」
「そうですね、ディオエル様以外に届くことのない手紙ですから」
「それは少しでも良いことが書いてあるといいと思ってしまうな」
「はい……」
一生、誰にも分からない内容だが、それでも二人は願わずにはいられなかった―――。
ディオエルはテイラーの手紙を竜帝国に戻っても、読むことができなかった。
早く読みたい気持ちはある、怖かったわけではない、何が書いてあってもいい、一言でもいい。それでも、読んだたら、本当に終わってしまう気がしていた。
このまま、読まずにいたら、あの手紙あると思えて、少し心が落ち着く思いであった。
それでも自分の病状もあることから、読まずに死ぬことはできなかった。静かな自室で、封筒を開き、そっと便箋を広げた。
長い文ではなかったために、ゆっくりと噛み締めるように読み進めた。
読み終えて、涙が零れた。
それは、アイルーンからの手紙でもあり、テイラーの手紙でもあった。
「私も、私も、役に立つことが、あったんだな……」
「すまなかった」
「まるで、二人からの手紙だな……ありがとう、すまない、すまなかった」
そして、ディオエルは誰にも読まれないように、その手紙は動けなる前にそっと燃やした。
自分だけの物にしたかったこともあるが、それ以上にこの手紙が見付かって、ディオエルが亡くなった後、その後の未来で勝手な想像をされたくはなかった。
ディオエルが亡くなる日、胸の痛みを感じた際に、これが最期だろうと思った。
アイルーンの分、テイラーの分、きっとこんな痛みでは足りなかっただろうが、それでもこの痛みは二人の分だと思い、受け止め続けた。
そして、最期にディオエルは願いではなく、二人に届くならと、謝罪をした。
(すまなかった……)
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本日もお読みいただきありがとうございます。
最終日も1日2話、投稿させていただきます。
ただ、いつもの17時の1話はとても短いです。
予めご了承ください。
最後までどうぞよろしくお願いいたします。
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