【完結】愛しくない、あなた

野村にれ

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【テイラー】怒り

 ディオエルはまずはイオリクに話を聞いてからと言いながら、既に冷静に話をする自信すらなかった。

 先程からずっと、自分ではどうにもならないほど心臓が早鐘を打っており、シュアリアの前だから取り乱さないように取り繕っていた。

 嫌な汗も感じながらも、血の気が引くような気分の悪さが押し寄せて、体内の全てを吐き戻してしまいたい、そんな気分であった。

 すぐにでも駆け付けて、テイラーの顔を見たい、無事だと知りたい。

 だが、アイルーンが亡くなった時ですら、私は駆け付けなかったのだから、してはならないと自分に言い聞かせるしかなかった。

「彼女について、何か分かったらすぐに教えてくれ」
「承知いたしました、すぐにお知らせいたします」

 シュアリアは退室し、先にギリシスに話をすることも出来たが、ディオエルが決める方がいいだろうと判断した。

 騎士に気付かれないように監視するように命じ、デリア侯爵家に派遣した連絡係が戻って来るのを待つことにした。

 そして、ディオエルが気が気ではない状態で待っていると、ライシードがエレサーレと共に、イオリクを連れて戻って来た。

 斬られてはいなかったが、殴られた跡があった。イオリクは背も高く体格もいいが、騎士ではないために、騎士であるライシードに適うはずがない。

「ディオエル様、違うのです!私は…ディオエル様のためっ」

 ディオエルは言い終わる前にイオリクに近付いて、容赦なく殴り飛ばした。

 ―バギッ―

「ごふっ、うっ」

 あまりの勢いに、皮肉にも部屋の大きさは違うが、テイラーと同じように壁にぶち当たったが、それでもディオエルは無言で首を持って、さらに殴りつけた。

 ―ドゴッ、ドスッ、ドゴッ―

「ごっ、がっ、うっ、ああ、うっ」

 皆、当然のことだと思ったが、ライシードが止めに入った。

「ディオエル様、これ以上は死んでしまいます!何をしたのか聞かなくてはなりません。殺すのは後です!」

 ディオエルは肩で呼吸をしながら、イオリクをまるで上着を投げ捨てるかごとく、その場に投げ捨てて、黙って座った。

 黙って見ていたエレサーレは、既にコンスホールホテルでライシードが、なぜか目に血を付けて、違う違うと否定していたイオリクを、容赦なく殴り付け、ディオエル様より斬ってもいいと言われていると、引っ張って来たのを見ていた。

 エレサーレがしたことは、ホテル側に話をするくらいで、護衛も連れて行っていたが、ライシードだけでイオリクの連行は終わった。

 それだけでも力の差を感じていたが、ディオエルの様子はあまりに圧倒的で、さらに唇を強く締めるしかなかった。

 ライシードはしゃがみこんだままのイオリクに向かって、告げた。

「イオリク・オイワード、皇帝陛下に何をしたか話しなさい!」
「私は」

 イオリクは顔が腫れ上がり、風貌の変わったまま、口を開いた。

「彼女に、妃になって貰おうと思って、話をしに行っただけでございます」
「それがどうして怪我をすることになるのです?」

 思った通りの動機で、ディオエルはイオリクを睨み付けてはいるが、口を開く気がなく、ライシードが問い掛けた。

 ライシードも引き取りにはいったが、ディオエルよりも先に話を聞くわけにはいかないために、何が起きたかは聞かずに連れて来た。

「あれは事故で、怪我をさせようとしたわけではありません」
「本当か?事実を言った方がいいですよ」
「本当です!あれは事故です」

 イオリクは必死にディオエルに向かって、話し続けたが、ディオエルは何の言葉もなかった。

「ディオエル様の意向を無視して、勝手に向かったのですね」
「ですが、彼女に妃になって欲しいと思う気持ちはあるでしょう」
「そうではないと、話したではありませんか!勝手な真似をして、怪我を負わせてどう責任を取るつもりですか!」

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