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【テイラー】危機
シュアリアとの話は全く聞こえず、ディオエルはなかなか戻らなかった。
部屋には沈黙が続いており、エレサーレもどのような状況なのだろうかと、苦しくなった。だが、しばらくしてシュアリアと共に、戻って来たディオエルの顔色を見れば、良くないものだと分かった。
ディオエルは黙ったまま、座り込んだ。
「王妃殿、どこか閉じ込めて置ける場所を貸して貰えるか」
「はい、可能でございます」
「ライシード、イオリクを私の視界から消してくれ。殺してしまいそうだ」
「承知いたしました」
「え、ディオエル様……」
「口を開くな、私が出ていいと言うまで大人しくしていろ。分かったな?」
怒鳴るような声ではなく、冷たく静かな声色だったが、そこには絶望が含まれているようであった。
「ですが」
「聞こえなかったのか?」
「……はい」
ライシードはイオリクを無理矢理に立ち上がらせて、シュアリアが案内する貴族牢へ向かった。
残された者は誰も、ディオエルにテイラーがどのような状況なのか聞くことは出来なかった。
「私は苦しませたくなかった……それだけなのに、なぜこんなことに……」
ぽつりと零したディオエルの言葉、そして深く項垂れる姿に、誰も掛ける言葉すらなかった。
シュアリアとライシードが戻ってくると、エレサーレはシュアリアに声を掛けた。
「母上、テイラー嬢は危険な状態なのですか?」
「ええ……昏睡状態だそうよ」
「……そんな」
シュアリアも連絡係が戻って来て、聞いた時は崩れ落ちそうになった。頭を強く打ち付けており、安静にしていて、治るものかは分からない。
頭を開いて、治療するようなことは出来ないために、現在は体の状況を診ながら、必要な処置をするしかないという状況だった。
目が覚めても後遺症が残る可能性もあるが、まずは命だと、シュアリアもどうか命を、奪わないで欲しいと願うしかなかった。
シュアリアはディオエルに、そのままを伝えた。
「手は尽くしているわ、でも覚悟を……して置いて欲しいと、医師の判断よ」
「っ」
聞いて置きながらエレサーレは、何を言っても、全てが薄っぺらく、何の希望にもならないような気がして、口を閉ざすしかなかった。
誰もが何も言えないまま、時だけが過ぎていた。口を開いたのは、シュアリアであった。
「テイラー嬢に会いに行かれますか?」
「だが」
「言い方を変えましょうか。謝罪に行かれますか?」
シュアリアは番が命の危機とすれば、本来ならすぐに向かっていただろう。だが、ディオエルはそうはしてはならないと律しているのも分かっている。
デリア侯爵は怒鳴り付けるかもしれないが、それも含めて、受けるべき仕打ちだと思う。それが上に立つ人間というものである。
「謝罪……」
「はい、謝罪に行かれますか?」
「……」
「ディオエル様、行きましょう。謝罪に行くべきです」
万が一のことがあって、また亡くなった番を見るよりも、生きている番の方がいい。ライシードは、そう思って、ディオエルへ訴え掛けた。
それでも、テイラーが望まないだろうという気持ちと、ディオエルは戦っていたが、エレサーレは今言うべきだと口を挟むことにした。
「あの、謝罪に行かれるべきだと思います。先程、思い出したのですが、イオリク殿はテイラー嬢を転ばせたと、一報を告げに来た騎士が言っておりました」
「何だと……」
ディオエルはエレサーレを驚愕の表情で見つめ、ライシードもじっと見つめた。
何かあったのだろうと思ったが、わざとではないが、イオリクのせいで、揉み合いにでもなったのではないかと、考えていた。
「エレサーレ!聞いてないわ」
シュアリアも声を上げ、驚いた顔を見せた。
「申し訳ございません!私も焦っておりまして。先程、イオリク殿が尋問されているのを聞きながら、伝えていなかったと思い出したのでございます」
部屋には沈黙が続いており、エレサーレもどのような状況なのだろうかと、苦しくなった。だが、しばらくしてシュアリアと共に、戻って来たディオエルの顔色を見れば、良くないものだと分かった。
ディオエルは黙ったまま、座り込んだ。
「王妃殿、どこか閉じ込めて置ける場所を貸して貰えるか」
「はい、可能でございます」
「ライシード、イオリクを私の視界から消してくれ。殺してしまいそうだ」
「承知いたしました」
「え、ディオエル様……」
「口を開くな、私が出ていいと言うまで大人しくしていろ。分かったな?」
怒鳴るような声ではなく、冷たく静かな声色だったが、そこには絶望が含まれているようであった。
「ですが」
「聞こえなかったのか?」
「……はい」
ライシードはイオリクを無理矢理に立ち上がらせて、シュアリアが案内する貴族牢へ向かった。
残された者は誰も、ディオエルにテイラーがどのような状況なのか聞くことは出来なかった。
「私は苦しませたくなかった……それだけなのに、なぜこんなことに……」
ぽつりと零したディオエルの言葉、そして深く項垂れる姿に、誰も掛ける言葉すらなかった。
シュアリアとライシードが戻ってくると、エレサーレはシュアリアに声を掛けた。
「母上、テイラー嬢は危険な状態なのですか?」
「ええ……昏睡状態だそうよ」
「……そんな」
シュアリアも連絡係が戻って来て、聞いた時は崩れ落ちそうになった。頭を強く打ち付けており、安静にしていて、治るものかは分からない。
頭を開いて、治療するようなことは出来ないために、現在は体の状況を診ながら、必要な処置をするしかないという状況だった。
目が覚めても後遺症が残る可能性もあるが、まずは命だと、シュアリアもどうか命を、奪わないで欲しいと願うしかなかった。
シュアリアはディオエルに、そのままを伝えた。
「手は尽くしているわ、でも覚悟を……して置いて欲しいと、医師の判断よ」
「っ」
聞いて置きながらエレサーレは、何を言っても、全てが薄っぺらく、何の希望にもならないような気がして、口を閉ざすしかなかった。
誰もが何も言えないまま、時だけが過ぎていた。口を開いたのは、シュアリアであった。
「テイラー嬢に会いに行かれますか?」
「だが」
「言い方を変えましょうか。謝罪に行かれますか?」
シュアリアは番が命の危機とすれば、本来ならすぐに向かっていただろう。だが、ディオエルはそうはしてはならないと律しているのも分かっている。
デリア侯爵は怒鳴り付けるかもしれないが、それも含めて、受けるべき仕打ちだと思う。それが上に立つ人間というものである。
「謝罪……」
「はい、謝罪に行かれますか?」
「……」
「ディオエル様、行きましょう。謝罪に行くべきです」
万が一のことがあって、また亡くなった番を見るよりも、生きている番の方がいい。ライシードは、そう思って、ディオエルへ訴え掛けた。
それでも、テイラーが望まないだろうという気持ちと、ディオエルは戦っていたが、エレサーレは今言うべきだと口を挟むことにした。
「あの、謝罪に行かれるべきだと思います。先程、思い出したのですが、イオリク殿はテイラー嬢を転ばせたと、一報を告げに来た騎士が言っておりました」
「何だと……」
ディオエルはエレサーレを驚愕の表情で見つめ、ライシードもじっと見つめた。
何かあったのだろうと思ったが、わざとではないが、イオリクのせいで、揉み合いにでもなったのではないかと、考えていた。
「エレサーレ!聞いてないわ」
シュアリアも声を上げ、驚いた顔を見せた。
「申し訳ございません!私も焦っておりまして。先程、イオリク殿が尋問されているのを聞きながら、伝えていなかったと思い出したのでございます」
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