【完結】愛しくない、あなた

野村にれ

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【テイラー】目覚め

「そうよ、あなたの義姉よ」

 ナナリーは涙を拭いながら、テイラーに向かって微笑んだ。横にいたルーベンスも、黙ったまま覗き込んだ。

「お兄様も」
「ああ、そうだ」

 ルーベンスもその呼び名に、妹が戻って来たような気持ちになり、何度も何度も頷いた。

「テイラー、分かるか?ここはデリア侯爵邸だ」

 次に喜びで言葉に詰まっていたルーベンスが、ようやく声を掛けた。

「そうですか……デリア侯爵邸……」

 テイラーはまだぼんやりしており、瞼を閉じたり開いたりしていた。

「無理はしなくていい」
「目を開くと、辛いので、閉じたままでいます」
「ああ、それでいい」

 そう言って、テイラーは再び目を閉じた。

「どこが痛い?」
「すべてが痛いです……」
「そうか、痛み止めは使っているのだよな?」

 その言葉に、ルーベンスは侍医に目を見開いた。

「投与しております。耳はいかがですか?聞こえますか?」
「左側は、何だかぼわぼわ?します」
「聞こえますか?」
「あまり……」

 侍医は耳にも影響が受けていると、ルーベンスに向かって頷いた。

「皇帝陛下も、いらっしゃるのですね」

 テイラーは満身創痍とは思えない落ち着いた口振りで、静かに話し始めた。

「すまない、嫌ならば、すぐに去る」
「いいえ……聞いてください。犯人はイオリクです」
「それは聞いている」
「イオリクは皇帝陛下に言われて、妃にさせるために、やって来たと言ったので、では皇帝陛下を交えて話しましょうと言ったら、腕を取られそうになって、避けると足を引っ掛けられて、滑って壁に打ちつけました」
「私はそのようなことは言っていない」

 信じて貰えないかもしれないと思いながらも、ゆっくりと口にした。

「そうだと思ったので、焦ったのでしょう」

 ディオエルは信じて貰えて、ホッとした。だが、そのせいでテイラーは怪我をすることになったことが、胸を締め付ける。

「皇帝陛下がイオリクを裁くことになりますか?」
「ああ、ミリオン王国でも裁くというのなら従い、我が国でも裁くつもりだ。あいつは戻ったら、側近を外すつもりだった。連れて来たのも、君が謝罪を望めばと思ってのことで、今は間違いだったと思っている」
「そうでしたか、側近を外される。それは一番の罰になるでしょう」

 テイラーはイオリクが絶望する顔が、見えるようだった。

「では、被害者である私の言葉もお聞き届けいただけますか?」
「ああ、もちろんだ」
「私にもしものことがあれば、ただの平民女性として裁いてください」
「そのようなことは」
「今度は正しく裁いてください。それが私からの希望です」

 アイルーンは妃ではなかったのに、妃として裁かれた。だから、次は今の身分のまま、正しく裁いて欲しいという意味であった。

 だが、その言葉に皆も気付いた。そうなれば竜帝国の公爵の子息と、ミリオン王国の平民ということになる。

 重い罰に、できないかもしれない。

 だが、それを望んでいるのは誰でもない、被害を受けたテイラーである。口を挟む資格はないと、誰もが分かった。

「お父様、いえ、デリア侯爵」
「テイラーがそう呼んでくれるなら、こんなに嬉しいことはない」
「では。私にもしも、何かあった場合は寮の部屋の机の引き出しに、お父様と王妃陛下に書いた手紙が置いてあります。お送りしようと思っていたのですが、昨日の今日でしたので」
「そのようなことにはならない!」

 皆も同じように思ったが、ルーベンスが声を上げた。

「万が一です。アイルーンの声は私が引き継ぐまで、誰にも届かなかった。それがとても悔しかった」

 18年もの間、罪を犯した者は裁かれずに生きていた。

 テイラーがいなかったら、今も生きていたかもしれない。それは、アイルーンは怒りでは表現できないほど、悔しい思いだっただろう。

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