【完結】愛しくない、あなた

野村にれ

文字の大きさ
167 / 344

【テイラー】報告書

しおりを挟む
「ホテルで騎士たちが聞き取りを行い、報告書をお持ちしました」
「ああ、聞こえていたのか?」
「はい!イオリク様は大きな声を出されていたようですので。ただ、ホテルのスタッフはほとんど平民ですので、テイラー嬢が出て来るまで、入って来ないで欲しいと伝えていたようです」

 スタッフがどうして助けなかったのかと、責められることを避けるために、エレサーレは事実を先に伝えた。

「いや、責める気はない。悪いのはイオリクだ」
「ありがとうございます。急いで作りましたので、読みにくい部分があればおっしゃってください」

 エレサーレはディオエルの前まで行き、報告書を手渡した。

「分かった、読ませていただく」
「はい、こちらでお待ちしております」

 エレサーレとシュアリアは、壁際のソファに座って、待つことにした。

 ディオエルは報告書を読みながら、何だこれはと思ったが、最後まで読んでからにしようと思い、苛立ちを抑えながら、最後まで読み終えた。

 眉間を揉みほぐし、報告書を黙ったまま、ライシードに渡した。

 受け取ったライシードも、ディオエルが何も言わずに読み終えたのだから、声を出すわけにはいかなかったが、こめかみがピクピク動き続けた。

 ライシードは読み終えると、頭を下げて、ディオエルへ戻した。

 その姿を確認したシュアリアは、頭を抱えるディオエルへ問い掛けた。

「お茶を入れましょうか」
「ああ、すまない」

 シュアリアはエレサーレに、メイドにお茶を頼んで貰った。

 ディオエルは、テイラーの意志を叶えたい。だが、そうなればイオリクをキツく罰することはできないことに、葛藤しているのではないかと考えた。

「申し訳ございませんが、私も読ませていただいてもよろしいですか」
「ああ、まだだったか」
「はい」

 エレサーレは当然、読んでいたが、シュアリアは先にディオエルへと思い、目を通すことなく、こちらに来ていた。

 もう隠したいことなど、どこにもない。

 民を苦しませることは絶対させないと誓っているが、きっとすべてを握っているのは、今は何も持たないテイラーである。そのためには何があったか、双方から知らないといけない。

 受け取ったシュアリアは、集中して一気に読もうと思ったが、すぐに苛立った。だが、お茶が入れ終わるまでに読むことが先決だと、読み続けた。

 その間にお茶は用意され、ディオエルは怒った肩を少し下げた。

 報告書にはまずイオリクがテイラーを、皇帝陛下の番だと思い込んでいるところは一貫していた。違ったと証明されたと聞いていたために、納得がいかない方なのだろうという見解であった。

 そこは公にもされていないので、その解釈で間違っていない。

 だが、テイラーが番であることを不満に思いながらも、皇帝陛下のためにしているという姿勢であった。

 明らかにテイラーを脅していたこと。

 テイラーの縁を切った生家がエイク子爵家だったことを知っている者もいたので、生家を脅すつもりであったこと。

 皇帝陛下もあなたの言動を許していること。

 皇帝陛下を交えて話をする、王妃陛下に連絡をいたしますと言ったと思ったら、何か音がしたが、叫び声は聞こえなかったので、入ることはできなかった。

 テイラーはデリア侯爵に、簡潔に起きたことを伝え、国王陛下も関与しているということも聞いたとあった。

 シュアリアは国王陛下という名を出したとしても、当然であった。それよりもテイラーは死を覚悟をしたからこそ、その場で言ったのだ。

 しかも、その後すぐに意識を失ったという。

 どんな思いで、最後の力を振り絞ったのかと思うと、苦しくて涙が出た。

「テイラー嬢の証言と一致しているな、同時にイオリクは嘘を付いていた」

 時間とお茶のおかげで、ディオエルは落ち着いた声で話した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。 「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」 そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。 ——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。 「最近、おまえが気になるんだ」 「もっと夫婦としての時間を持たないか?」 今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。 愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。 わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。 政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ “白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

処理中です...