【完結】愛しくない、あなた

野村にれ

文字の大きさ
197 / 344

【テイラー】ラオナ2

「それは心配しなくていい。ジイシーは騎士になるために忙しくしている」
「は?私を支えてくれるはずでしょう?」
「万が一のこともあっただろうが、ジイシーが騎士になろうと思っていただろう?だから、別に問題はない。子爵はお前だったのだからな」
「でも」

 ジイシーまでも困らないと言われて、ラオナは焦った。そこへ執事が、手紙を持ってやって来た。

「旦那様、お手紙が届いております」

 差出人を確認すると、そうだろうなと思った相手であった。

「使用人が届けに来たのか?」
「はい」
「まだいるか?」
「はい」
「少し待っていて貰ってくれ」
「承知いたしました」

 ソラードはすぐさま手紙を開いて読むと、何度も頷いて、部屋を出て行った。

 すると、ラオナは黙ったまま、その場にいたフアナに助けを求めることにした。

「お母様、助けてよ!私が後継者を外されてもいいの?」
「あなたの行いのせいでしょう?」
「そんなことないわ!お母様だって、自分の子どもに継いで欲しいでしょう?」

 親なのだから自分の産んだ子に、継いでもらいたいだろうと情に訴え掛け、しかもテイラーはもういないのだから、ラオナしかいない。

「いいえ、あなたのような人間には継がせたいと思いません」
「は?何でよ!娘は私しかいないのよ!お姉様は死んだの!しっかりしてよ!」

 その言葉にフアナはラオナを、家族どころか人間だとも思えなかった。

「今日、たった一人のあなた姉の葬儀だったのよ?それなのに、どうしてこんな騒ぎを起こしたの?滅茶苦茶にしたかったの?」

 フアナはテイラーを静かに送ってやりたいと、そんな難しいことではないことを、望んでいた。

 それなのに、自分が産んだもう一人が、滅茶苦茶にした。

 埋葬まで見届けることもできなかった。ある意味、デリア侯爵が葬儀を仕切ってくれていて、良かったと思ったほどであった。

「別に騒ぎを起こしたわけじゃないわ!大袈裟なのよ」
「どこが?王太子殿下に近付こうとして、皇帝陛下に不敬を働いて、どうして礼儀もまともにできないの……信じられないわ」
「うるさいわね!」
「すべてあなたの自業自得よ」

 フアナはデリア侯爵が事件性があると言っていたことから、いくら親でも縁を切っており、子爵家では何もできないために、発表を待つしかないと思っていた。

 国王陛下からソラードが聞かされた、テイラーが皇帝陛下の番だということにも驚いた。面倒なことになると思い、ソラードと相談して、違ったと勘違いしていたラオナには言わなかった。

 それなのに、葬儀の場で言い出すなんて思いもしなかった。

 確かに違ったのに、どうして参列しているのかと思うことはあっただろうが、皇帝陛下に恐れ多くも話し掛けようなどと、まともな思考を持つ者は考えない。

 ラオナは、まともではなかった。それが答えなのである。

 そこへ、ソラードが戻って来た。

「婚約も解消になった、破棄と言われてもいいはずだがな」
「え?解消って誰の?」
「お前のに決まっているだろう」
「は?何で……」
「ジイシーも、子爵夫妻も、葬儀でお前が皇帝陛下に不敬を働くところを見ていたんだよ。そんな者と結婚などしたくもないだろう」

 ソラードも婚約解消の手紙が届くだろうことは、想定内であった。

 おそらく埋葬には限られた者しか立ち会わないことから、騒ぎの後で戻って、すぐに婚約解消の手紙を持って来させたのだろう。

「っえ、ジイシーもいたの?えっ、気付かなかった!先に言っておいてよ。でも、そんな勝手にジイシーは望んいないわ」
「いや、ジイシーも、夫妻も望んでいる」
「そんな!嘘よ!私は気に入られているのよ」

 ラオナはマイソー子爵夫妻には、いつも良くしてもらっており、好かれている自信があった。

「もう決まったことだ、受け入れなさい」

あなたにおすすめの小説

【今さら遅い】毒で声を失い公爵に捨てられた私。妹では精霊が応えず国は滅びへ。ですが隣国皇帝に溺愛される私に、今さら縋ってきても遅いです

唯崎りいち
恋愛
国一番の歌姫だった私は、妹に毒を盛られ声を失い、婚約者に捨てられた。 すべてを奪われた私を救ったのは、隣国の皇帝。 「お前の歌がなければ国は滅びる」と言われた私の歌は、精霊に届く“本物”の力を持っていて―― 一方、私を追放した国は偽物の歌では加護を失い衰退。 今さら元婚約者が縋ってきても、もう遅い。

世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました

由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。 ——皇子を産めるかどうか。 けれど私は、産めない。 ならば—— 「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」 そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。 毒を盛られても、捨てられず。 皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。 「お前は、ここにいろ」 これは、子を産めない女が ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。 そして—— その寵愛は、やがて狂気に変わる。

「離縁状の印が乾く前に、王太子殿下から花束が届きました」〜五年間「置物」と呼ばれた侯爵夫人、夫が青ざめるのは王家との縁が切れてからでした〜

まさき
恋愛
侯爵夫人として過ごした五年間、夫に名前を呼ばれたことが一度もなかった。 愛人を夜会に連れてきた翌朝、私は離縁状を置いて屋敷を出た。 夫は「すぐ戻る」と思っていたらしい。 でも届いたのは、王太子殿下からの白薔薇だった。 「五年、待ちすぎました。今度こそ私の隣に」 幼馴染の殿下は、いつも私を「アメリア」と呼んでくれた。 ただそれだけで、五年分の何かが、ほどけていった。 夫が全てを失うのはこれからの話。 私が本当の笑顔を取り戻すのも、これからの話。

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

大人しい令嬢は怒りません。ただ二年間、準備していただけです。――婚約解消の申請が受理されましたので、失礼いたします

柴田はつみ
恋愛
婚約者に、誕生日を忘れられた。 正確には、忘れられたわけではない。 エドワード・ヴァルト公爵はちゃんと覚えていた。 記念のディナーも、予約していた。 薔薇だって、一輪、用意していた。 ただ――幼馴染のクロエ・アンセル伯爵令嬢から使いが来た瞬間、全部置いて行ってしまっただけだ。 「すぐ戻る」 彼が戻ったのは、三時間後だった。 蝋燭は溶け切り、料理は冷え、ワインは乾いていた。 それでもリーゼロッテ・フォン・アルテンベルクは、笑顔で座って待っていた。 「ええ、大丈夫でございます。お気遣いなく」 完璧な微笑みで、完璧にそう言った。

旦那様。私が悪女ならば、愛人の女は何になるのかしら?

白雲八鈴
恋愛
 我が公爵家主催の夜会の最中。夫が愛人を連れてやってきたのです。そして、私を悪女という理由で離縁を突きつけてきました。  離縁して欲しいというのであれば、今まで支援してきた金額を全額返済していただけません?  あら?愛人の貴女が支払ってくれると?お優しいわね。  私が悪女というのであれば、妻のいる夫の愛人に収まっている貴女は何なのかしら?

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。