【完結】あわよくば好きになって欲しい（短編集）

愛してはいけない人

６

　レイラの食事のパンとスープ。パンは何も入っていないものであれば何でもいい、スープは具ばかりではなければどのようなスープでもいい。

　だが、レイラは食事をお腹が空いたから、美味しいからではなく、咀嚼して飲み込む、難しい時はスープで流し込む作業をしているようにしか見えない。養分にするために、頑張って食べている、それがレイラの食事だった。

　始めは食事も別になりそうだったところを、どうにか一緒にして貰っている。

「食事は一緒に出来るだろうか？」
「私と一緒だと美味しいと思えないと思います」
「そんなことはない」
「いえ、私はパンとスープしか食べないのに、公爵様の前にはたくさんの料理が並ぶでしょう。申し訳ない気持ちになりませんか」

　一緒に食事をしたくないということかと思ったが、確かに何も知らない者が見たら、嫌がらせを受けているのかという光景になってしまうだろう。

「そのようなことはない。君の方こそ、嫌な気持にならないか？」
「食べられないから可哀想ということでしょうか」
「そうではないが…」

　肉や魚を食べている前でパンとスープでは、羨ましい、私は食べれないのにと思ってしまわないか不安であった。

「私も食べたい、美味しそうなどと思うことはありません。左目はほとんど見えないので、よく見えないということもあるかもしれませんね」

　レイラの左目もあの事件で痛め付けられて、目から血を流していたそうだ、その後どんどん見えなくなったそうだ。今は右目でカバーしている状態で、始めは不自由だったが、今では慣れているので問題はないということだった。

　グラウス・オルダックがもし生きていたら、私が殺していただろう。

「父と妹は気を遣うので、私は部屋で食べておりましたが、遠慮せず食べられるのであれば、食事は可能です」
「遠慮なく食べる」

　遠慮はしないことが、配慮となるとは思わなかったが仕方ない。

「そうですか、勧められても食べませんので、ご自身の食事をしてくださいね」
「分かった」
「甘いものはお食べになりますか」
「いや、私は好まないから食べることはない」
「そうですか、それなら良かったです」

　レイラは菓子は食べないとあった、私も口にするのは出された場合のみで、邸で好んで食べることはなかった。

　いざ向かい合わせで一緒に食事をしてみると、幸福感と温かい気持ちになり、食べてみないかと勧めたくなるが、絶対にしない。してはならない。そんなことをして、食べられなくなる方が困る。

　美味しいかとも聞けず、不味くないかと聞くのも料理人に失礼、口に合うだろうかというのが精一杯であった。

　着替えをひとりで行うことには、貴族は着替えさせてもらうのが当たり前で、メイドも仕事の一部であり、体のことを考えれば手伝わせて欲しいという声もあったが、触れられることに恐怖心が急に起こること、レイラの体力を付けるためと言えば、納得するしかなかった。

　レイラはレンバー伯爵家でも外にも出ることはほとんどなく、出ても庭を歩いたり、日光浴をする程度であった。その姿をクノルに見られたのだ。

　使用人も最初は粗相のないようにと、気を引き締めていたが、注意事項を守ってさえいればいい、手伝うこともほとんどない、少しずつ緊張感はなくなっていった。

　陰でコソコソとレイラのことを話す使用人もいたが、執事が目を光らせているため、レイラには届かぬように配慮している。

　だが、レイラはほとんど部屋から出ないため、クノルとレイラが一緒にするのは食事だけ。二人の仲は全く変わらなかった。

　そして、ここにも幼い頃からクノルの世話をして来た婆がおり、レイラの危機感よりも、クノルへの愛情で、レイラに話をすることにした。