【完結】あわよくば好きになって欲しい（短編集）

愛してはいけない人

２１

　クノルはレイラを医師と使用人によって、亡骸を綺麗にして貰うために、席を外したところだった。

「ミクサー？なぜここにいる？」
「奥様が亡くなったというので、す、か…妊娠、したせいで」

　いつからいたのか分からないが、聞いてしまったのだと思った。

「ああ！そうだ！彼女は妊娠には耐えられない体だった。それなのに妊娠したことで、亡くなった」
「そんな…そんな…」
「別荘に戻れ！」
「いえ、私は奥様の分まで、お坊ちゃまを育てます」

　何を言っているのだ、それが贖罪になるとでも思っているのか？ふざけるな、確かに息子は可愛いとは思った、だが避妊薬を服用させていたら、今でも生きていたのにと、どうしても思ってしまう。

「お前には任せることはない」
「そんな…」
「お前が私のことを考えてくれたのは分かるが、ここに知り合いもいないレイラのことを考えるべきじゃないか？」
「私は間違えたりもしましたが、十分配慮をしておりました」
「今ここにいる者で、粗相をしたのはお前だけだ！見守ることも出来なかったのか？それが配慮なら、不合格だ！」

　陰口を言っていた者は解雇し、今邸にいる者で、ミクサー以外にレイラに配慮が出来なかった者はいない。

「それは、坊ちゃんのことを思って」
「そう言えば何でも許されると思うなと言っただろう！理解出来ないのか？」
「私は、坊ちゃんのことを一番に考えております」
「だったら言われた通りにしろ！レイラの婆は何も言わずに、ずっと心配していたそうだ。それが婆の出来ることだと、それが愛情で、お前の言っていることは都合のいい押し付けだ！」

　レイラが亡くなって気が立っているせいもあるが、言わずにはいられない。

「もういい、紹介状は書くから出て行ってくれ」
「それはなりません。坊ちゃんにも、坊ちゃまにも、そうです、早く会わせてください。私の坊ちゃまに」
「いい加減にしろ！レイラが命懸けで産んだんだ！お前には会わせることはない」
「坊ちゃん、いえ、クノル様、ミクサーはずっとあなたのために。坊ちゃまにも私が必要なはずです、奥様の分までミクサーが愛しますから」
「ふざけるな！お前がレイラを殺したと思わないのか？」
「私が？私ではありません」
「サイワ、連れて行け！」

　サイワに連れられてミクサーは出て行った。数日前、レイラの婆・ノイアから、レイラに文が届いていた。

　心配しなかった日はない。どうか生きて欲しい、でもお嬢様が決めたことなら、婆はお嬢様が大好きですから、受け止めますと書かれていたそうだ。

「自害するかもしれないが、どうしても許せない…」
「いえ、あれは狂っているとしか思えない言葉でした。予定日に合わせてわざわざ来たのでしょう。監視は付けて置いたのですが、抜け出したのでしょう。抵抗しましたが、紹介状を渡して追い出しました。警備も厳重にします」
「よろしく頼む」

　ミクサーは幼い頃から一緒にいてくれた使用人ではあった。だが、私を過剰に心配したり、私のためだと他者に意見するようなところがあった。もっと早くに解雇するべきだっただろう。

「クノル様、皇太子夫妻がいらっしゃっています」

　きっと陣痛の報告を受けて、ずっと気を揉んでいたのだろう。だが、邸の様子を見れば答えは分かるはずだ。

「クノル！」「公爵」
「レイ、ラは先程、亡く、なりました…」
「…」「…嘘よ」

　皆、覚悟はしていた。でももしかしたらという希望を持っていた。だが、その希望は崩れ去った。

「無事、息子は、生まれました…今、レイラは血などを綺麗にして貰っております」
「そうか…出血したのか」
「はい、おそらく失血死とのことです」
「あああああ！」

　フルヴィアは泣きながら、崩れ落ちたが、クノルはフルヴィア皇太子妃にも伝えなくてはならないことがある。