【完結】あわよくば好きになって欲しい(短編集)

野村にれ

文字の大きさ
77 / 103
もう二度と

18

しおりを挟む
 グルズに頼んで、シュアンはクリーン侯爵に時間を取って貰うことになった。

「お時間を取らせてしまい、申し訳ありません」
「いいえ、私も話をしたいと思っておりましたから」
「番のことですね…」
「グルズから多少は聞いております。精神面に不安があることも、ですが公爵ともあろう者がこのままというわけにはいきませんからね」
「彼女は私の愛人です」
「は?」

 事前に聞いていなかったグルズも驚いた顔をして、シュアンを見ている。

「番でしょう?結婚するべきではありませんか」
「強行すれば、結婚は出来るかもしれません」
「結婚してしまえばいいのですよ。そうすれば文句を言われることはない、愛人などと中途半端なことをすべきではありません」
「翌日には寡男になっていてもですか?」

 見張っていなければ、おそらく翌日には妻は居なくなっていることだろう。

「は?」
「彼女は死んでもいいとは言いますが、死んでやるなんてことは言いません。ですが、譲れないことが通らなければ、そうすると思います」
「ならば、黙っていれば」
「その日までは生きてくれるかもしれませんね、私はそんな恐怖と戦いたくないのです。出会った数日後に首を切って死のうとしたところを私が止め、その後、私の邸で腕を切り、本当に死のうとしました」

 クリーン侯爵もグルズから聞いていたので、小さく頷いた。

「グルズにも言っていませんが、その後も自傷行為はあるのです。フォークを手の甲に刺したり、万年筆を刺したり、頭を打ち付けたり、飛び降りようとしたり」

 飛び降りようとするのではないかと、事前に窓は開かなくしてある。

「そうだったのか…」
「ああ、死ぬほどではないが、自分を害することで、罪悪感を薄めているのだと思います。結婚をしなくていいなら、邸にいてもいいと言ってくれています」
「出て行こうとしないのか?」

 そんなに嫌ならば出て行くことも考えるのではないか、会ったこともないので分からないが、構って欲しいとは思っているのではないかと思ってしまった。

「最初はありました、出て行くというよりは死にに行くと言った方がいいでしょう。その都度止めて、今は多少落ち着いてはいますが、出て行って生活することは困難だと思っているようです」
「お金か?」
「いえ、私からの監視と、世間の目でしょうね。彼女は男爵令嬢でしたから、公爵家に目を付けられたような女性が生きていくのは困難だと、息子に迷惑を掛けないために、この人生を諦めたのだと思います」

 ミファラの目には何の希望もない、与えられた翻訳と、お酒と、日々が過ぎるのを待ち、死ぬまでの余生のような状態だろう。

 そして、何を考えても結局は、死ねばいいと思っていることだろう。

「ですので、私たちのことはそっとして置いて貰えませんか?もしかしたら、私に番への執着が消えるかもしれない、他に想う人が出来るかもしれない」
「そんなことはあり得ないでしょう」
「いい薬が出来るかもしれないではありませんか」
「別の相手と結婚するつもりなのですか?」

 無理矢理に結婚させられるのならば、誰か相手にも利がある相手と結婚するしかない。ミファラも結婚すればいいと思っていることから、必要ならそうすればいい。

「したくはありませんが、彼女も出て行ってはしまいますが、必要ならそうします。彼女の命を守るためなら、何だってします」
「話は分かりました…愛人、番でもそういった場合はありますからね」

 結婚している者が番を見付けた場合は、愛人になる場合も少なくはない。

 誠実な者は番を認知出来ないように、魔道具を付けているので、不誠実だとも言えるが、ミファラのように破綻することもある。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

幸せな番が微笑みながら願うこと

矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。 まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。 だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。 竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。 ※設定はゆるいです。

完結 貴方が忘れたと言うのなら私も全て忘却しましょう

音爽(ネソウ)
恋愛
商談に出立した恋人で婚約者、だが出向いた地で事故が発生。 幸い大怪我は負わなかったが頭を強打したせいで記憶を失ったという。 事故前はあれほど愛しいと言っていた容姿までバカにしてくる恋人に深く傷つく。 しかし、それはすべて大嘘だった。商談の失敗を隠蔽し、愛人を侍らせる為に偽りを語ったのだ。 己の事も婚約者の事も忘れ去った振りをして彼は甲斐甲斐しく世話をする愛人に愛を囁く。 修復不可能と判断した恋人は別れを決断した。

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。 彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。 自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。 「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」 異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。 異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。

番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ

紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか? 何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。 12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

あなたの運命になりたかった

夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。  コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。 ※一話あたりの文字数がとても少ないです。 ※小説家になろう様にも投稿しています

処理中です...