76 / 103
もう二度と
17
しおりを挟む
「会えるなら言わないさ、でも会えないなら、私は考えてみてもいいと思う」
「だが、戻ったら、きっと彼女は間違いなく死ぬだろう」
「それは…」
記憶を消しても、何かの拍子に戻る可能性はある。頭で覚えている、身体が覚えているなどと、説明は付かない記憶という曖昧な部分であるためだと言われている。
記憶が戻った者は耐えられずに廃人になってしまうことが多い。
だが、息子に会えない状態であれば、戻る可能性は下がる。
「期間もまだ決まっていないのだろう?」
「どこか安全な場所で過ごしてくれるなら」
いつか離れなくてはいけないことは分かっている、いつになったか聞かれたらと思いながらビクビクしている。
「落ち着いている内に話してみたらどうだ?私たちも必要なら同席する、妻は彼女の味方に付くと思う。そうすれば最悪の事態は逃れられるんじゃないか?」
「だが…」
「養子も、結婚も、ひとまず放って置けばいい。一緒にいたいんだろう?」
「……だが」
「気持ちを一度話してみたらどうだ?脅すようだが、このまま変わらなければ、上が動く可能性もあるぞ?」
シュアンは自身の価値を分かっていない、王家が介入してくる可能性はある。
それでなくとも早く結婚して、子どもを作れと言われていた。ようやく番が見付かったことで、良かったと思われている。
「上が?」
「ああ、お前は公爵なんだ。結婚しろなんて言われたら、シュアンはともかく、彼女は従わざる得なくなる。子どものことで脅されたらどうする?そうなれば、事態は良くないだろう?」
「記憶を消して、王命で結婚させられるとでも言うのか?」
ロークロア公爵と王家とはいい関係を続けている、結婚に介入してくるなどと考えたこともなかった。
「番が見付かった以上、可能性はあるだろう?形だけでも結婚してしまえば」
「結婚は…」
「私だってこんなこと言いたくないさ。だが、陛下が結婚していないのかと父に話していたそうだ…私も二日前に聞いたばかりだ」
「っな」
グルズの父・クリーン侯爵は宰相である。
「さすがに今すぐどうこうってことはないだろうが、話し合うなら早い方がいい」
「分かった」
冗談や脅しで言っていることではないことは、分かった。
その日、邸に帰り、まだ起きているというミファラの元を訪ねた。
「このまま、邸にいてはくれないだろうか」
「養子の母親にということでしたら、私には無理です。子どもを産みはしましたが、育てたの僅かですから」
「そうじゃない。このまま客人としてでいいので、ここにいて欲しいんだ」
結婚して欲しい、王家が介入するかもしれないなどと言えば、明日には儚くなっている可能性がある。
「養子には何と説明をするのですか?」
「大事な客人だと話す」
「私は小説家ではなく、ただの翻訳家です。パトロンとでも言う気ですか?」
「それでもいい」
「そうですか…私は出て行きたいです」
「っっ」
分かってはいるが、聞く度に胸を抉られたような気持ちになる。
「でも出て行ったところで、あなたの監視が付くのでしょう?そうなって、責められるのは私になる」
「そんなことは」
「そうなんですよ、公爵を誑かす売女。結婚、出産しなくていいのなら、何でもいいです。パトロンでも、愛人でも、娼婦でも、好きになさってください」
「それはここにいてくれるのか?」
「奥様が見付かれば、すぐに出て行きます」
「分かった」
出来れば、結婚だけでもと思っていたが、ミファラは既に結婚と出産はしないと決めているのだろう。
パトロンでは納得しないだろうから、万が一何か言われた際には愛人だと言おう。名前なんてどうでもいいのだから。
宰相であるクリーン侯爵に話を付けて置かなくてはならない。
「だが、戻ったら、きっと彼女は間違いなく死ぬだろう」
「それは…」
記憶を消しても、何かの拍子に戻る可能性はある。頭で覚えている、身体が覚えているなどと、説明は付かない記憶という曖昧な部分であるためだと言われている。
記憶が戻った者は耐えられずに廃人になってしまうことが多い。
だが、息子に会えない状態であれば、戻る可能性は下がる。
「期間もまだ決まっていないのだろう?」
「どこか安全な場所で過ごしてくれるなら」
いつか離れなくてはいけないことは分かっている、いつになったか聞かれたらと思いながらビクビクしている。
「落ち着いている内に話してみたらどうだ?私たちも必要なら同席する、妻は彼女の味方に付くと思う。そうすれば最悪の事態は逃れられるんじゃないか?」
「だが…」
「養子も、結婚も、ひとまず放って置けばいい。一緒にいたいんだろう?」
「……だが」
「気持ちを一度話してみたらどうだ?脅すようだが、このまま変わらなければ、上が動く可能性もあるぞ?」
シュアンは自身の価値を分かっていない、王家が介入してくる可能性はある。
それでなくとも早く結婚して、子どもを作れと言われていた。ようやく番が見付かったことで、良かったと思われている。
「上が?」
「ああ、お前は公爵なんだ。結婚しろなんて言われたら、シュアンはともかく、彼女は従わざる得なくなる。子どものことで脅されたらどうする?そうなれば、事態は良くないだろう?」
「記憶を消して、王命で結婚させられるとでも言うのか?」
ロークロア公爵と王家とはいい関係を続けている、結婚に介入してくるなどと考えたこともなかった。
「番が見付かった以上、可能性はあるだろう?形だけでも結婚してしまえば」
「結婚は…」
「私だってこんなこと言いたくないさ。だが、陛下が結婚していないのかと父に話していたそうだ…私も二日前に聞いたばかりだ」
「っな」
グルズの父・クリーン侯爵は宰相である。
「さすがに今すぐどうこうってことはないだろうが、話し合うなら早い方がいい」
「分かった」
冗談や脅しで言っていることではないことは、分かった。
その日、邸に帰り、まだ起きているというミファラの元を訪ねた。
「このまま、邸にいてはくれないだろうか」
「養子の母親にということでしたら、私には無理です。子どもを産みはしましたが、育てたの僅かですから」
「そうじゃない。このまま客人としてでいいので、ここにいて欲しいんだ」
結婚して欲しい、王家が介入するかもしれないなどと言えば、明日には儚くなっている可能性がある。
「養子には何と説明をするのですか?」
「大事な客人だと話す」
「私は小説家ではなく、ただの翻訳家です。パトロンとでも言う気ですか?」
「それでもいい」
「そうですか…私は出て行きたいです」
「っっ」
分かってはいるが、聞く度に胸を抉られたような気持ちになる。
「でも出て行ったところで、あなたの監視が付くのでしょう?そうなって、責められるのは私になる」
「そんなことは」
「そうなんですよ、公爵を誑かす売女。結婚、出産しなくていいのなら、何でもいいです。パトロンでも、愛人でも、娼婦でも、好きになさってください」
「それはここにいてくれるのか?」
「奥様が見付かれば、すぐに出て行きます」
「分かった」
出来れば、結婚だけでもと思っていたが、ミファラは既に結婚と出産はしないと決めているのだろう。
パトロンでは納得しないだろうから、万が一何か言われた際には愛人だと言おう。名前なんてどうでもいいのだから。
宰相であるクリーン侯爵に話を付けて置かなくてはならない。
1,121
あなたにおすすめの小説
運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
幸せな番が微笑みながら願うこと
矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。
まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。
だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。
竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。
※設定はゆるいです。
完結 貴方が忘れたと言うのなら私も全て忘却しましょう
音爽(ネソウ)
恋愛
商談に出立した恋人で婚約者、だが出向いた地で事故が発生。
幸い大怪我は負わなかったが頭を強打したせいで記憶を失ったという。
事故前はあれほど愛しいと言っていた容姿までバカにしてくる恋人に深く傷つく。
しかし、それはすべて大嘘だった。商談の失敗を隠蔽し、愛人を侍らせる為に偽りを語ったのだ。
己の事も婚約者の事も忘れ去った振りをして彼は甲斐甲斐しく世話をする愛人に愛を囁く。
修復不可能と判断した恋人は別れを決断した。
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜
雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。
彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。
自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。
「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」
異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。
異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。
番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ
紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか?
何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。
12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
あなたの運命になりたかった
夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。
コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。
※一話あたりの文字数がとても少ないです。
※小説家になろう様にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる