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もう二度と
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「会えるなら言わないさ、でも会えないなら、私は考えてみてもいいと思う」
「だが、戻ったら、きっと彼女は間違いなく死ぬだろう」
「それは…」
記憶を消しても、何かの拍子に戻る可能性はある。頭で覚えている、身体が覚えているなどと、説明は付かない記憶という曖昧な部分であるためだと言われている。
記憶が戻った者は耐えられずに廃人になってしまうことが多い。
だが、息子に会えない状態であれば、戻る可能性は下がる。
「期間もまだ決まっていないのだろう?」
「どこか安全な場所で過ごしてくれるなら」
いつか離れなくてはいけないことは分かっている、いつになったか聞かれたらと思いながらビクビクしている。
「落ち着いている内に話してみたらどうだ?私たちも必要なら同席する、妻は彼女の味方に付くと思う。そうすれば最悪の事態は逃れられるんじゃないか?」
「だが…」
「養子も、結婚も、ひとまず放って置けばいい。一緒にいたいんだろう?」
「……だが」
「気持ちを一度話してみたらどうだ?脅すようだが、このまま変わらなければ、上が動く可能性もあるぞ?」
シュアンは自身の価値を分かっていない、王家が介入してくる可能性はある。
それでなくとも早く結婚して、子どもを作れと言われていた。ようやく番が見付かったことで、良かったと思われている。
「上が?」
「ああ、お前は公爵なんだ。結婚しろなんて言われたら、シュアンはともかく、彼女は従わざる得なくなる。子どものことで脅されたらどうする?そうなれば、事態は良くないだろう?」
「記憶を消して、王命で結婚させられるとでも言うのか?」
ロークロア公爵と王家とはいい関係を続けている、結婚に介入してくるなどと考えたこともなかった。
「番が見付かった以上、可能性はあるだろう?形だけでも結婚してしまえば」
「結婚は…」
「私だってこんなこと言いたくないさ。だが、陛下が結婚していないのかと父に話していたそうだ…私も二日前に聞いたばかりだ」
「っな」
グルズの父・クリーン侯爵は宰相である。
「さすがに今すぐどうこうってことはないだろうが、話し合うなら早い方がいい」
「分かった」
冗談や脅しで言っていることではないことは、分かった。
その日、邸に帰り、まだ起きているというミファラの元を訪ねた。
「このまま、邸にいてはくれないだろうか」
「養子の母親にということでしたら、私には無理です。子どもを産みはしましたが、育てたの僅かですから」
「そうじゃない。このまま客人としてでいいので、ここにいて欲しいんだ」
結婚して欲しい、王家が介入するかもしれないなどと言えば、明日には儚くなっている可能性がある。
「養子には何と説明をするのですか?」
「大事な客人だと話す」
「私は小説家ではなく、ただの翻訳家です。パトロンとでも言う気ですか?」
「それでもいい」
「そうですか…私は出て行きたいです」
「っっ」
分かってはいるが、聞く度に胸を抉られたような気持ちになる。
「でも出て行ったところで、あなたの監視が付くのでしょう?そうなって、責められるのは私になる」
「そんなことは」
「そうなんですよ、公爵を誑かす売女。結婚、出産しなくていいのなら、何でもいいです。パトロンでも、愛人でも、娼婦でも、好きになさってください」
「それはここにいてくれるのか?」
「奥様が見付かれば、すぐに出て行きます」
「分かった」
出来れば、結婚だけでもと思っていたが、ミファラは既に結婚と出産はしないと決めているのだろう。
パトロンでは納得しないだろうから、万が一何か言われた際には愛人だと言おう。名前なんてどうでもいいのだから。
宰相であるクリーン侯爵に話を付けて置かなくてはならない。
「だが、戻ったら、きっと彼女は間違いなく死ぬだろう」
「それは…」
記憶を消しても、何かの拍子に戻る可能性はある。頭で覚えている、身体が覚えているなどと、説明は付かない記憶という曖昧な部分であるためだと言われている。
記憶が戻った者は耐えられずに廃人になってしまうことが多い。
だが、息子に会えない状態であれば、戻る可能性は下がる。
「期間もまだ決まっていないのだろう?」
「どこか安全な場所で過ごしてくれるなら」
いつか離れなくてはいけないことは分かっている、いつになったか聞かれたらと思いながらビクビクしている。
「落ち着いている内に話してみたらどうだ?私たちも必要なら同席する、妻は彼女の味方に付くと思う。そうすれば最悪の事態は逃れられるんじゃないか?」
「だが…」
「養子も、結婚も、ひとまず放って置けばいい。一緒にいたいんだろう?」
「……だが」
「気持ちを一度話してみたらどうだ?脅すようだが、このまま変わらなければ、上が動く可能性もあるぞ?」
シュアンは自身の価値を分かっていない、王家が介入してくる可能性はある。
それでなくとも早く結婚して、子どもを作れと言われていた。ようやく番が見付かったことで、良かったと思われている。
「上が?」
「ああ、お前は公爵なんだ。結婚しろなんて言われたら、シュアンはともかく、彼女は従わざる得なくなる。子どものことで脅されたらどうする?そうなれば、事態は良くないだろう?」
「記憶を消して、王命で結婚させられるとでも言うのか?」
ロークロア公爵と王家とはいい関係を続けている、結婚に介入してくるなどと考えたこともなかった。
「番が見付かった以上、可能性はあるだろう?形だけでも結婚してしまえば」
「結婚は…」
「私だってこんなこと言いたくないさ。だが、陛下が結婚していないのかと父に話していたそうだ…私も二日前に聞いたばかりだ」
「っな」
グルズの父・クリーン侯爵は宰相である。
「さすがに今すぐどうこうってことはないだろうが、話し合うなら早い方がいい」
「分かった」
冗談や脅しで言っていることではないことは、分かった。
その日、邸に帰り、まだ起きているというミファラの元を訪ねた。
「このまま、邸にいてはくれないだろうか」
「養子の母親にということでしたら、私には無理です。子どもを産みはしましたが、育てたの僅かですから」
「そうじゃない。このまま客人としてでいいので、ここにいて欲しいんだ」
結婚して欲しい、王家が介入するかもしれないなどと言えば、明日には儚くなっている可能性がある。
「養子には何と説明をするのですか?」
「大事な客人だと話す」
「私は小説家ではなく、ただの翻訳家です。パトロンとでも言う気ですか?」
「それでもいい」
「そうですか…私は出て行きたいです」
「っっ」
分かってはいるが、聞く度に胸を抉られたような気持ちになる。
「でも出て行ったところで、あなたの監視が付くのでしょう?そうなって、責められるのは私になる」
「そんなことは」
「そうなんですよ、公爵を誑かす売女。結婚、出産しなくていいのなら、何でもいいです。パトロンでも、愛人でも、娼婦でも、好きになさってください」
「それはここにいてくれるのか?」
「奥様が見付かれば、すぐに出て行きます」
「分かった」
出来れば、結婚だけでもと思っていたが、ミファラは既に結婚と出産はしないと決めているのだろう。
パトロンでは納得しないだろうから、万が一何か言われた際には愛人だと言おう。名前なんてどうでもいいのだから。
宰相であるクリーン侯爵に話を付けて置かなくてはならない。
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