【完結】あわよくば好きになって欲しい(短編集)

野村にれ

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もう二度と

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 あわよくば、お茶でもと思っていたが、また誰かに会う方が良くないと、レターセットだけ購入して、邸に戻ることにした。

「部屋は探さなくていいからね、邸にいつまでもいてもらっていいから」
「でも、奥様は嫌がるでしょう?」
「いずれ養子は取るつもりだが、結婚することはないから、心配しなくていい」
「そうなんですか…」
「ああ、これは公爵として決めたことだ」
「そうですか…でも出来たら言ってください。絶対に出て行きますから」
「分かった」

 養子を取ることをようやく話すことが出来てホッとはしたが、まだ出て行きたいと思っていることは、分かってはいたが、ショックだった。

 カルアンには翌日、待ち伏せをされて謝られた。

「昨日は妻がすまない」

 カルアンは事情を知っていたが、シュアンから直接聞いたわけではなかったので、ルベラには事情があるとだけ言って、口止めをした。

「いえ、彼女にも結婚はしない、養子を取ることを話しましたから」
「口説いたりはしていないのか」
「出来ません。私と彼女は知り合いです」
「それでいいのか…」

 カルアンとルベラも番ではないが、番の感情は理屈ではない聞いている。

「いいんです。ご存知でしょう?私は一つの家族を壊したのですから」
「だからこそ、幸せにしてやればいいのではないか?」
「昨日の様子を見て、何も思いませんでしたか?」

 ミファラはあの日から、口調に変化はあるが、表情がない。笑いもしなければ、怒りも、悲しみもないような顔をしている。

「それは…」
「こんな人生を送る人ではなかったんです」

 そう言われるとカルアンは何も言えずに、もう一度謝ってから別れた。

「また何かあったのか?」

 様子を見ていたグルズは、部屋に入るなり、声を掛けた。

「いや、昨日偶然、彼女といるところに出くわしてね」
「一緒に出掛けたのか?」

 一緒に出掛けるなど、初めてのことではないか。

「ああ、レターセットを買いに…そこまでは良かったんだが」
「何か言われたのか?」
「いや、カルアン殿は違うんだが、奥方が彼女に興味津々でね…どうやら、噂になっていたようだ」

 シュアンの番が見付かったことは、一時話題になり、事情を知っているものは口にはしないが、何も知らない者はどんな人なのかと未だに話題になっていると妻から聞いている。

「ああ…姿を現さない、結婚したとも聞かないから、気になっているんだろうな」
「そうか…だが、養子を取ることは話したんだ」
「養子…でもそれでいいのか?」

 シュアンが自分だけの家族に憧れを持っていたことは知っている。

「家族になって欲しい、子どもが欲しいなんて、口が裂けても言えないよ」
「落ち着いているのなら、聞いてみるだけでも駄目なのか?」

 ノラのことがあっても、ミファラは変わらなかった。

「壊した事実は変わらないよ、私が出会わなければ起きなかったことじゃないか」

 ミファラには話していないままだが、元夫は再婚して、再婚相手と、彼女の愛するアデルを育てている。

「だが、会わせては貰えそうにないんだろう?」
「会わせて貰えないかということはずっと申し入れている」

 お互いのためにならないからと、断られて続けている。

「だったらもう、可哀想だが、記憶のことも考えてもいいんじゃないか?」
「それは出来ない…それだけは」
「だが」
「彼女に息子の記憶を消せというのか!」

 公にはされていないが、記憶を消す術が使える者がおり、辛過ぎる記憶や、覚えていてはいけない記憶を消すことに使われている。

 だが、記憶ということは、大事な記憶も奪うことになってしまう。だからこそ、口に出すこともなかった。
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