41 / 85
実感
しおりを挟む
キャローズは口には出さなかったが、チェルシーが自分と同じような体形だったら、借りれたのにと考えていた。しかも、私はモデル体型だと思っており、仕方ないわねとすら思っていた。
チェルシーにしてみれば、いくらサイズが合っても、絶対に貸すはずがない。貸す理由もない。
「当然だろう」
「…でも、折角呼ばれたのに」
「子爵家の夜会で、準男爵の娘が高級なドレスを着ていたら、おかしいと思われると言っているだろう」
何度も同じことを言って来たが、最近は執拗にドレスにこだわっており、シルヴァルも少し苛立ち始めていた。
「自分で買ったって言うわ」
仕事もしていないキャローズがそんなことを言えば、愛人でもしているのかと疑われることになる。チェルシーは知っている者も多いと言っていたが、邸に住まわせてからは、二人で出歩くようなことはしていない。
夜会も子爵家の夜会だけで、エスコートという形にしている。
それでも、どんな風に見られているかを、結局シルヴァルは分かっていないままである。
「だったら、パッソ家で購入するしかない。それならば、売ってくれるだろう」
しつこい様子に、ならば嘘ではなく、本当に自分で買えばいいと匙を投げることにした。
「高いんでしょう?そんなの無理よ」
「はあ…だったら、いつもの店のドレスにしなさい」
これでチェルシーがドレスを購入して貰っていたら、愛人らしくずるい、私も買ってなどと言えたのだろうが、キャローズもチェルシーが一枚もドレスを購入して貰っていないことを知っている。
キャローズは、また渋々いつもの店でドレスを買うしかなかった。
付いて行ったメイドは男爵令嬢で、高級店のドレスが欲しいと言っても行かないように言われており、さえない表情でキャローズが選んでいる姿を、そもそも高級店のドレスを知らないのではないかと、嘲笑っていた。
それでも、キャローズは新しいドレスで、イサル子爵家の夜会に出席した。
「キャローズさん!」
キャローズは令嬢ではないために、クラスメイトの女性からはキャローズさん、男性からはパットさんと呼ばれている。
声を掛けたのは、呼んでくれたクラスメイトだったミラーラ・イサルであった。
「お呼びいただき、ありがとうございます」
「いいえ、結婚したというお話も聞かないので、お元気にされているのかと思って。迷惑ではなかった?」
「いえ、とても楽しみにしておりました」
「それは良かったわ、未婚の方もいるから楽しんで行ってね」
夜会と言っても、パートナー必須の夜会ではないために、キャローズのように一人で参加している者も多い。
「ありがとうございます」
キャローズは、他にも呼ばれていたクラスメイトに挨拶をしたり、シルヴァルのことを匂わせたりしないことだけは、美点であると言えるだろう。
そして、やはりキャローズは男性からの視線を感じて、気分が高揚していた。そこへ、また別のクラスメイト二人に、声を掛けられた。
「キャローズさん、モデルになったのでしょう?」
「え?」
キャローズは知り合いに初めてそのようなことを言われたことと、モデルですか?ではなく、モデルになったのでしょう?という言葉に驚いた。
「隠していることなの?」
「あなた、そんなに急に聞いたら失礼よ」
「モデルなんて」
「違うの?」
「はい」
「そうなの?キャローズさんはモデルになったって、誰か言っていなかった?」
そのクラスメイトは思ったことを口にするタイプで、誰かから聞いただけで、訊ねただけであった。
「間違いだったんじゃないの?」
「そうなの?ごめんなさいね」
「いえ、大丈夫です」
この言葉でキャローズは、モデルになるべきなのだと実感していた。
実はこの夜会も、キャローズが絵姿のモデルになっているとクラスメイトの中で話題になり、ミラーラがだったら、夜会に呼んでみようということになったのである。
チェルシーにしてみれば、いくらサイズが合っても、絶対に貸すはずがない。貸す理由もない。
「当然だろう」
「…でも、折角呼ばれたのに」
「子爵家の夜会で、準男爵の娘が高級なドレスを着ていたら、おかしいと思われると言っているだろう」
何度も同じことを言って来たが、最近は執拗にドレスにこだわっており、シルヴァルも少し苛立ち始めていた。
「自分で買ったって言うわ」
仕事もしていないキャローズがそんなことを言えば、愛人でもしているのかと疑われることになる。チェルシーは知っている者も多いと言っていたが、邸に住まわせてからは、二人で出歩くようなことはしていない。
夜会も子爵家の夜会だけで、エスコートという形にしている。
それでも、どんな風に見られているかを、結局シルヴァルは分かっていないままである。
「だったら、パッソ家で購入するしかない。それならば、売ってくれるだろう」
しつこい様子に、ならば嘘ではなく、本当に自分で買えばいいと匙を投げることにした。
「高いんでしょう?そんなの無理よ」
「はあ…だったら、いつもの店のドレスにしなさい」
これでチェルシーがドレスを購入して貰っていたら、愛人らしくずるい、私も買ってなどと言えたのだろうが、キャローズもチェルシーが一枚もドレスを購入して貰っていないことを知っている。
キャローズは、また渋々いつもの店でドレスを買うしかなかった。
付いて行ったメイドは男爵令嬢で、高級店のドレスが欲しいと言っても行かないように言われており、さえない表情でキャローズが選んでいる姿を、そもそも高級店のドレスを知らないのではないかと、嘲笑っていた。
それでも、キャローズは新しいドレスで、イサル子爵家の夜会に出席した。
「キャローズさん!」
キャローズは令嬢ではないために、クラスメイトの女性からはキャローズさん、男性からはパットさんと呼ばれている。
声を掛けたのは、呼んでくれたクラスメイトだったミラーラ・イサルであった。
「お呼びいただき、ありがとうございます」
「いいえ、結婚したというお話も聞かないので、お元気にされているのかと思って。迷惑ではなかった?」
「いえ、とても楽しみにしておりました」
「それは良かったわ、未婚の方もいるから楽しんで行ってね」
夜会と言っても、パートナー必須の夜会ではないために、キャローズのように一人で参加している者も多い。
「ありがとうございます」
キャローズは、他にも呼ばれていたクラスメイトに挨拶をしたり、シルヴァルのことを匂わせたりしないことだけは、美点であると言えるだろう。
そして、やはりキャローズは男性からの視線を感じて、気分が高揚していた。そこへ、また別のクラスメイト二人に、声を掛けられた。
「キャローズさん、モデルになったのでしょう?」
「え?」
キャローズは知り合いに初めてそのようなことを言われたことと、モデルですか?ではなく、モデルになったのでしょう?という言葉に驚いた。
「隠していることなの?」
「あなた、そんなに急に聞いたら失礼よ」
「モデルなんて」
「違うの?」
「はい」
「そうなの?キャローズさんはモデルになったって、誰か言っていなかった?」
そのクラスメイトは思ったことを口にするタイプで、誰かから聞いただけで、訊ねただけであった。
「間違いだったんじゃないの?」
「そうなの?ごめんなさいね」
「いえ、大丈夫です」
この言葉でキャローズは、モデルになるべきなのだと実感していた。
実はこの夜会も、キャローズが絵姿のモデルになっているとクラスメイトの中で話題になり、ミラーラがだったら、夜会に呼んでみようということになったのである。
2,053
あなたにおすすめの小説
殿下、その婚約破棄の宣言が、すべての崩壊の始まりだと気付いていますか?
水上
恋愛
※断罪シーンは4話からです。
「……位置よし。座標、誤差修正なし」
私はホールのちょうど中央、床のモザイク模様が星の形を描いている一点に立ち、革靴のつま先をコンコンと鳴らしました。
「今日、この場に貴様を呼んだのは他でもない。貴様の、シルヴィアに対する陰湿な嫌がらせ……、そして、未来の国母としてあるまじき『可愛げのなさ』を断罪するためだ!」
会場がざわめきます。
「嫌がらせ?」
「あの公爵令嬢が?」
殿下は勢いづいて言葉を続けました。
しかし、この断罪劇は、誰も予想しなかった方向へと転がり始めたのです。
踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
もう演じなくて結構です
梨丸
恋愛
侯爵令嬢セリーヌは最愛の婚約者が自分のことを愛していないことに気づく。
愛しの婚約者様、もう婚約者を演じなくて結構です。
11/5HOTランキング入りしました。ありがとうございます。
感想などいただけると、嬉しいです。
11/14 完結いたしました。
11/16 完結小説ランキング総合8位、恋愛部門4位ありがとうございます。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
あの子を好きな旦那様
はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」
目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。
※小説家になろうサイト様に掲載してあります。
最愛の人に裏切られ死んだ私ですが、人生をやり直します〜今度は【真実の愛】を探し、元婚約者の後悔を笑って見届ける〜
腐ったバナナ
恋愛
愛する婚約者アラン王子に裏切られ、非業の死を遂げた公爵令嬢エステル。
「二度と誰も愛さない」と誓った瞬間、【死に戻り】を果たし、愛の感情を失った冷徹な復讐者として覚醒する。
エステルの標的は、自分を裏切った元婚約者と仲間たち。彼女は未来の知識を武器に、王国の影の支配者ノア宰相と接触。「私の知性を利用し、絶対的な庇護を」と、大胆な契約結婚を持ちかける。
選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ
暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】
5歳の時、母が亡くなった。
原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。
そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。
これからは姉と呼ぶようにと言われた。
そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。
母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。
私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。
たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。
でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。
でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ……
今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。
でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。
私は耐えられなかった。
もうすべてに………
病が治る見込みだってないのに。
なんて滑稽なのだろう。
もういや……
誰からも愛されないのも
誰からも必要とされないのも
治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。
気付けば私は家の外に出ていた。
元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。
特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。
私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。
これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる