【完結】永遠の愛にはイロドリを

野村にれ

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実感

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 キャローズは口には出さなかったが、チェルシーが自分と同じような体形だったら、借りれたのにと考えていた。しかも、私はモデル体型だと思っており、仕方ないわねとすら思っていた。

 チェルシーにしてみれば、いくらサイズが合っても、絶対に貸すはずがない。貸す理由もない。

「当然だろう」
「…でも、折角呼ばれたのに」
「子爵家の夜会で、準男爵の娘が高級なドレスを着ていたら、おかしいと思われると言っているだろう」

 何度も同じことを言って来たが、最近は執拗にドレスにこだわっており、シルヴァルも少し苛立ち始めていた。

「自分で買ったって言うわ」

 仕事もしていないキャローズがそんなことを言えば、愛人でもしているのかと疑われることになる。チェルシーは知っている者も多いと言っていたが、邸に住まわせてからは、二人で出歩くようなことはしていない。

 夜会も子爵家の夜会だけで、エスコートという形にしている。

 それでも、どんな風に見られているかを、結局シルヴァルは分かっていないままである。

「だったら、パッソ家で購入するしかない。それならば、売ってくれるだろう」

 しつこい様子に、ならば嘘ではなく、本当に自分で買えばいいと匙を投げることにした。

「高いんでしょう?そんなの無理よ」
「はあ…だったら、いつもの店のドレスにしなさい」

 これでチェルシーがドレスを購入して貰っていたら、愛人らしくずるい、私も買ってなどと言えたのだろうが、キャローズもチェルシーが一枚もドレスを購入して貰っていないことを知っている。

 キャローズは、また渋々いつもの店でドレスを買うしかなかった。

 付いて行ったメイドは男爵令嬢で、高級店のドレスが欲しいと言っても行かないように言われており、さえない表情でキャローズが選んでいる姿を、そもそも高級店のドレスを知らないのではないかと、嘲笑っていた。

 それでも、キャローズは新しいドレスで、イサル子爵家の夜会に出席した。

「キャローズさん!」

 キャローズは令嬢ではないために、クラスメイトの女性からはキャローズさん、男性からはパットさんと呼ばれている。

 声を掛けたのは、呼んでくれたクラスメイトだったミラーラ・イサルであった。

「お呼びいただき、ありがとうございます」
「いいえ、結婚したというお話も聞かないので、お元気にされているのかと思って。迷惑ではなかった?」
「いえ、とても楽しみにしておりました」
「それは良かったわ、未婚の方もいるから楽しんで行ってね」

 夜会と言っても、パートナー必須の夜会ではないために、キャローズのように一人で参加している者も多い。

「ありがとうございます」

 キャローズは、他にも呼ばれていたクラスメイトに挨拶をしたり、シルヴァルのことを匂わせたりしないことだけは、美点であると言えるだろう。

 そして、やはりキャローズは男性からの視線を感じて、気分が高揚していた。そこへ、また別のクラスメイト二人に、声を掛けられた。

「キャローズさん、モデルになったのでしょう?」
「え?」

 キャローズは知り合いに初めてそのようなことを言われたことと、モデルですか?ではなく、モデルになったのでしょう?という言葉に驚いた。

「隠していることなの?」
「あなた、そんなに急に聞いたら失礼よ」
「モデルなんて」
「違うの?」
「はい」
「そうなの?キャローズさんはモデルになったって、誰か言っていなかった?」

 そのクラスメイトは思ったことを口にするタイプで、誰かから聞いただけで、訊ねただけであった。

「間違いだったんじゃないの?」
「そうなの?ごめんなさいね」
「いえ、大丈夫です」

 この言葉でキャローズは、モデルになるべきなのだと実感していた。

 実はこの夜会も、キャローズが絵姿のモデルになっているとクラスメイトの中で話題になり、ミラーラがだったら、夜会に呼んでみようということになったのである。
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