【完結】永遠の愛にはイロドリを

利用

「そうは言っても、私に出来ることはないよ」
「またお付き合いしたいと思って来たのよ…私」

　しおらしい態度で訴えたが、シルヴァルの表情は一切変わらない。

「それは終わった話だろう…私は家のために、結婚をしなくてはならないんだ」
「だったら、またチェルシー様に頼んで」
「それは出来ない」

　キャローズは、シルヴァルとチェルシーとの結婚がなかったことになっていることを知るはずもない。

「どうしてよ…応援してくれるって言ったでしょう？」
「遠くからということじゃないか」
「どうしてそんな酷いことが言えるの！」

　シルヴァルが応援してくれると言ったことから、自分のためになってくれるという自信があったために、キャローズは強い口調で訴えた。

　モデルも上手くいかず、今までは個性などないキャローズだったが、苛立つようになっていた。

「酷いことではなく、事実を言っているんだ。頑張ればいいじゃないか」
「それはそうだけど、チェルシー様なら引き受けてくれるわ！離縁されて、お金にだって困っているかもしれないじゃない！」

　お金に困っているのは、キャローズの方で、またチェルシーに頼んで、フォスト侯爵邸での暮らしに戻ればいい。

　チェルシーはシルヴァルとキャローズが別れたから、契約が終わっただけで、むしろ自分のせいで迷惑を掛けてしまったくらいに考えていた。

「それは出来ないと言っているだろう。私たち、いや、私はチェルシー殿を駒のように扱ってしまったんだ。本来、してはならないことだった」
「駒なんて思っていないわ！守るためだったじゃない」

　そう言いながらも、キャローズが今、考えていることは自分のためでしかない。

「私もそう思っていたが、私たちにしか得がないないんだよ」
「不愉快な再婚の話があるって」
「そんなものどうとでもなったんだ。実際、今でも彼女はそのような環境になっていない。間違いだったのだよ」
「会ったの？」
「謝罪をさせて貰う機会があっただけだ」

　シルヴァルとチェルシーが揃って出掛けるようなことはなかったために、キャローズが嫉妬したり、悲しむようなことはなかった。

　だが、全員が別々になると、キャローズとは違って、シルヴァルとチェルシーは社交界で会うことがあるのだと、今更ながら嫉妬心を持った。

「私が準男爵の娘ではなかったら…」
「それは何度も話したことで、今となっては関係のないことだろう？」

　結婚が出来る身の上だったらとは、何度も何度も同じことを話していた。

　確かにキャローズが結婚出来る爵位だったら、二人は結婚していただろう。だが、最初から結婚が出来る相手ではなかったことから、始まっているのである。

「そんなことないわ！」
「私はたちは別れているじゃないか、もうここへ来ない方がいい」
「そんな！」

　シルヴァルには会いたかったが、フォスト侯爵邸に行かなければ、会うことが出来ないために、強い決意でやって来たのである。

「じゃあ、あなたと付き合っていた、チェルシー様と契約結婚していたって言ってもいいのよ！」
「そんなことをしたら、君の身も危険に晒すことになる」
「そんなはずないわ！」
「本当なんだ、やめるんだ」

　キャローズはこれまで無事に過ごしてこれたのは、周りに排除しようとまで思われていなかったからで、運の良かった平民の娘であった。

「今日だって、両親がいないから邸に入れたけど、本来なら会うことも出来なかったはずだよ。来たことを知られたら、何かお咎めがあるかもしれない」
「そんなこと」
「モデルの仕事にだって、貴族が関わっていることもあるのだろう？フォスト侯爵家に迷惑を掛けたなどとなれば、良くない傾向になるかもしれないだろう？」
「そ、れは…」

　王侯貴族の怖さを知らないキャローズにとっては、モデルの仕事に影響がある方が効果的であった。