病める時も、健やかではない時も

野村にれ

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芸術祭3

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「それは失礼しました」
「こういったものって、誰かにやらせたとか言われるのでしょうね」
「いえ!」
「こちらも持って来ましたの」

 モリーは過去の経験から、無意識に疑われることに保険を掛けていた。それでも、証拠になるか分からないが、念のためにデザイン画の複写を提出した。

 複写にしたのも、また保険であった。

「お預かりいたします」

 帰りの馬車で、ペイリーはまだ怒っており、モリーは代わりに怒ってくれる姿に、また疑われるのではないか、奪われるのではないかという思考から、ようやく離れることが出来た。

「失礼な話です!目の前で全て行えとでも言うのでしょうか。だったら絵だって、陶芸だって、何でも他の人が行ったって言えます」
「ええ、そうなのよね。歌や演奏などではない限り、疑われるのでしょうね」

 だからこそ、一度目は演奏を選んだが、今は演奏する気にはならない。

「それも、上手く風の魔術で騙して、別の人が歌ったり、演奏することも出来ると思います」
「口や楽器と合っていなかったら?」
「そこも練習するんです」
「いたの?そんな人が」
「はい…歌の上手な令嬢に歌わせて、本人は声を出さずに口だけ動かして」
「えっ」

 マキュレアリリージュは、そこまではしてなかったはずである。歌声は彼女の声で、評価されるほどでもなかったのが、一番の理由である。

「バレましたよ、やっぱり声が違いますから。魔術担当の教師だっているのですから、当然です」
「皆、芸術祭に力を入れているのね」

 芸術祭は注目を集めるのに、とても都合のいい場である。

 平民でも特技を披露することが出来る場で、貴族たちもさすが貴族だろうと示すことが出来る。

 ただ、今のモリーにとってはトラブルが起きるのではないかという方が強い。

 以前も、本当にお前が描いたのかなどと言われている人もいた。ああ、だから絵は避けたのかとようやく、気付いた。

 だが、ドレスに関しても同じだろう。

 確か彼は教師の前だけで、別の絵を描くことになり、身の潔白は証明されたはずである。

 万が一の場合は、ドレスを作ることになるだろう。面倒だが、仕方ない。

「はい…一種のステータスのようなものですから」
「ペイリーは何をしたの?」
「私は…友人たちとダンスを」
「まあ、素晴らしいわね」
「いえ、どうしようかとなっている者たちで集まって、ダンスをしただけです」

 ペイリーは楽器もピアノは弾けるというくらいで、上手くはない。絵や陶芸や彫刻も、出来るはずがない。だが、貴族令嬢として参加は義務だと思っており、皆でダンスをしてどうにか切り抜けたのである。

 だから、参加しないというモリーに、公爵令嬢ともなれば、勿体ないとは思ったが、さすが住む世界が違うなと感じていた。

 そして、当日。予定通りモリーとペイリーが美術館に行っている頃、学園では芸術祭が行われていた。

 モリーのクラスメイト達は、今年はモリーも参加していると聞いていたが、姿がないことを不思議に思っていた。すると、別のクラスメイトがやって来た。

「ドレス!オブレオサジュール公爵令嬢の作られたドレスが展示されているわ」
「え?ドレス?」

 皆は慌てて見に行くと、モリーの提出したデザイン画と共に、落ち着いたピンク色で、肩から胸元にレースが施された、少し大人っぽいドレスが飾られていた。

「素敵…」
「綺麗…」
「ドレスなんて作れるの…」
「デザインしただけではなく?」

 受付と同じことを考える者もいると考えられたために、学園側の考えでデザイン画の展示と、デザインから縫製と書かれていた。

「縫製とも書いてあるの」
「え、凄い…」

 しかも、中等部でドレスの展示はモリーだけであったために、注目を集めてしまったことを、美術館を堪能しているモリーはまだ知らない。
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