病める時も、健やかではない時も

野村にれ

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仮縫い4

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「君は芸術祭で、てっきり演奏をするのかと思っていた。楽器は何かやっているのだろう?」

 魔術の使えない高位貴族は演奏をすることで、お金があること、芸術にも熟知しているということを示せることから、選ぶ者が多いので、おかしな質問ではない。

「ピアノとヴァイオリンは習っておりますが、あまり得意ではありません」

 高位貴族はピアノやヴァイオリン、令嬢だとフルートも人気である。

 レルスはモリーの演奏を聴いたことはないが、お針子のようにテキパキと針をとめる姿は、これだけ器用なら下手ということないだろうと思った。

「裁縫が得意ということなのかな?」
「得意というのは烏滸がましいと思いますが、デザインを考えたり、どのように作ったらいいか考えたりするのは好きです」
「なるほどな」

 さすがにレルスもマキュレアリリージュのことや、愛人のことは聞くのは失礼だろうと口にはしなかった。

「お兄様、そんなに質問ばかり!失礼よ!」
「いや、だって公爵令嬢がドレスを作るなんて、初めて聞いたからさ」

 黙って聞いていたケリーも、その言葉には頷くことになった。

「変わり者のような形になってしまい、申し訳ございません」

 モリーも意図したことではなかったが、消去法と他にドレスを出す人などいなかったことで、目立ってしまったことは理解していた。

 変わり者だと思われることはいい、問題は面倒事に巻き込まれることである。

 現在の穏やかな日々を、奪われたくない。

 今も何もしないとは真逆のことをしているが、公爵令嬢として生きていることから、避けられなかったと思っているだけである。

「変わり者なんてことはないわ!モリー様がドレスを作ってくれなかったら、私の素敵なドレスも出来なかったのよ」
「恐れ入ります、気に入っていただけるように仕上げます」
「はい!楽しみにしています!」

 その後は完成したら連絡することになり、モリーとペイリーは帰った。すっかり礼儀知らずの護衛であったレベンナのことも忘れていた。

 王宮に行くのも、あと一回だけだと思い、ペイリーにサポートしてもらいながら、後は仕上げるだけとなった。

 モリーとペイリーが帰った王宮では、ケリー、レルス、エリーが話をしていた。

「分かってはいたけど、本当に自身で作っていたのね」
「お母様!疑っていたの?」

 エリーは酷いと言わんばかりの顔を、ケリーに向けた。

「公爵令嬢なのよ?侯爵令嬢の私ですら作ったことがないのに」
「男爵令嬢でも作れる者は、限られるのではありませんか」
「あんな美しい人が嘘を付くはずがないわ!」
「ええ、彼女は一切嘘は言っていないでしょうね」

 ケリーも布選び、デザインまでは誰かにやらせることは可能だと、疑うまではいかなくとも、考えることはしていた。

 だが、今日の手際を見て、間違いなく彼女が作っているのだと分かった。

 少し手伝ったことを縫製をしたと言ったわけではない、侍女ですら針を渡したり、畳んだりするくらいで、関与していない。

「そうよ!」
「もう疑っていませんよ」
「彼女、一年生の時は?」

 モリーが参加しなかった一年生の時は、王家からはレルスではなくケリーが観覧に行っていた。

「私もドレスを見た覚えはなくて、調べたのだけど、提出していないのよ」
「では、演奏を?いや、そんなことは申しておりませんでしたね」
「全く参加していなかったの。自由参加ではあるのだけど、公爵令嬢が参加しないってことはまずないから」
「そうだったのですか……」

 レルスも公爵令嬢が参加していないとは、考えていなかった。

「教師が参加を促したようなの。それで、二年生は参加したそうなの。演奏はあまり得意ではないと言っていたから、参加したくなかったのかしら?」
「器用な令嬢が、下手だと思えませんけど?」
「それは分からないわ。で、レルスはオブレオサジュール公爵家のことを探ろうとしたのかしら?」
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