【完結】悪意か、善意か、破滅か

野村にれ

文字の大きさ
1 / 196

さよなら

 フォンターナ家の朝は、金色をした像にお祈りをすることから始まる。

 家族は静かに毎日祈ることだけは、何があっても欠かさない。信仰心というよりは、フォンターナ家では日常であった。

 フォンターナ家は、最近、オルタナ王国に家族で引っ越して来た一家である。

 前にフォンターナ家のいた国では、ある事件が起こった―――。

 婚約者のいる令息は婚約後に、別の令嬢に恋をした。

 いくら婚約をしていても、人の気持ちは、そういったこともあるのかもしれない。だが、貴族としては結婚は契約であるために、あってはならないことではある。

 解消するのなら、婚約者、家族に誠心誠意、謝罪して、婚約を白紙にして貰うことが、最低限の礼儀であることはどの国でも、変わらないはずであった。

 だが、令息の場合は両親も許してはくれなかった。思い通りにならないと分かった令息は、婚約者が年下だったこともあり、婚約者を蔑ろにして、想い合う子爵令嬢との愛を、時間を過ごしていた。

 そして、彼は彼女と体の関係を持ち、子どもが出来たら、きっと両親も許してくれると思ったが、子どもはなかなか出来なかった。

 切羽詰まった令息は、一緒になれないならと死んだ方がいいという手紙を残して、子爵令嬢と共に睡眠薬を飲んで自殺を図った。それほどに二人は想い合い、盛り上がってしまったとされている。

 だが、二人は死ぬことはなかった。

 命を取り留めた二人は、令息の両親もそんなに想い合っているのなら、結婚させた方がいいと、結婚することになった。令息は騎士で、王太子殿下の側近だったことも、それを後押しした。

 このことがあってから、二人はアジェル王国の恋愛結婚の象徴となった。

 令息の婚約者は、婚約者が勝手にしたことによって、非難を受けることになった。それがエルム・フォンターナだった。

 元々、悪意も善意も込めて、彼女は丸い眼鏡を掛けていたことで、丸い眼鏡令嬢と呼ばれていた。目が悪いから、眼鏡を掛けているだけで、野暮ったいと言われており、ここぞとばかりに敵意を向けた。

「似合っていないと思っていたのよ」
「早く身を引けばこんなことにならなかったのに」
「追い詰めておいて、謝罪の言葉もないの?」

 エルムは傷付いたが、何も答えることはしなかった。何を言っても無駄であり、謝罪をする理由も分からなかった。

 しかも、婚約は白紙、解消ではなく、さすがに令息の両親は慰謝料までは請求しなかったが、王太子殿下が関わったことで、不貞を犯したのは令息の方であるにも関わらず、破棄となった。

 子どものころから顔を合わせており、互いの親の合意で婚約したはずが、金に物を言わせて婚約したと言われ、想い合う二人を追い詰めたのだとされたのである。子爵令嬢が私が悪いんですと涙ぐめば、皆が子爵令嬢の味方をした。

 エルム・フォンターナは国から姿を消し、邪魔者がいなくなって、清々としたと口々に言った。

 だが、家族も爵位を返上して、使用人も大半を連れて、姿を消した。

 前伯爵夫妻と、騎士団長だった父、商会を経営していた母、医師の兄、そして婚約を破棄された妹はアジェル王国からいなくなった。

 彼女の家族がそこまでするとは誰もが思っていなかった。

 愛されていないとは言わないが、希薄な関係の家族だと思っていたからだ。フォンターナ家は歴史ある家ではなかったが、裕福な伯爵家であった。王家も王太子が関わっている以上、止めることは出来なかった。

「エルム、彼らはきっと後悔するよ」
「それはしなくてもいいけど、苦しんで欲しいわ」
「苦しむよ、苦死めばいいんじゃないかな」

 ジェラルドはエルムに微笑み、エルムも目を細めて微笑んだ。それは久し振りに見た、妹の笑顔であった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

お読みいただきありがとうございます。

家族の仲が良くない物語ばかり書いて来たので、
そうではない家族が書きたくて書き始めました。

どうぞよろしくお願いいたします。

あなたにおすすめの小説

【完結】遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
【残り数話を持ちまして3月29日完結!!】 夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。 長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。 待っていたのは、凍てつく絶望。 けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。 「夫は愛人と生きればいい。  今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」 それでも私は誓う―― 「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」 歪で、完全な幸福――それとも、破滅。 “石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。

幼馴染しか見えない婚約者と白い結婚したので、夜明け前にさよならしました

ゆぷしろん
恋愛
公爵令嬢レティシアは、家同士の都合で伯爵アルフレッドに嫁ぐ。 けれど夫は結婚後もずっと幼馴染のシルヴィばかりを優先し、婚礼の夜から夫婦として触れ合おうともしなかった。名ばかりの妻として伯爵家を支え、領地経営まで立て直しても、彼にとってレティシアは“都合のいい伯爵夫人”でしかない。 やがて結婚一周年の夜、アルフレッドが自分を手放す気はない一方で、幼馴染を屋敷に迎え入れようとしている会話を聞いてしまったレティシアは、ついに決意する。 ――もう、この結婚には見切りをつけよう。 夜明け前、彼女は離縁の準備を整え、伯爵邸を出奔。 身を寄せた北の港町で薬舗を手伝いながら、自分の力で生きる穏やかな日々を手に入れていく。そこで出会ったのは、身分ではなく一人の女性として彼女を尊重してくれる青年医師ノアだった。 一方、都合よく尽くしてくれる妻を失ったアルフレッドは、ようやく自分が何を失ったのかを思い知ることになる。 幼馴染ばかりを優先する婚約者との白い結婚に終止符を打ち、傷ついた公爵令嬢が新天地で本当の幸せを掴む、離縁から始まる逆転ラブストーリー。

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

「離縁状の印が乾く前に、王太子殿下から花束が届きました」〜五年間「置物」と呼ばれた侯爵夫人、夫が青ざめるのは王家との縁が切れてからでした〜

まさき
恋愛
侯爵夫人として過ごした五年間、夫に名前を呼ばれたことが一度もなかった。 愛人を夜会に連れてきた翌朝、私は離縁状を置いて屋敷を出た。 夫は「すぐ戻る」と思っていたらしい。 でも届いたのは、王太子殿下からの白薔薇だった。 「五年、待ちすぎました。今度こそ私の隣に」 幼馴染の殿下は、いつも私を「アメリア」と呼んでくれた。 ただそれだけで、五年分の何かが、ほどけていった。 夫が全てを失うのはこれからの話。 私が本当の笑顔を取り戻すのも、これからの話。

大人しい令嬢は怒りません。ただ二年間、準備していただけです。――婚約解消の申請が受理されましたので、失礼いたします

柴田はつみ
恋愛
婚約者に、誕生日を忘れられた。 正確には、忘れられたわけではない。 エドワード・ヴァルト公爵はちゃんと覚えていた。 記念のディナーも、予約していた。 薔薇だって、一輪、用意していた。 ただ――幼馴染のクロエ・アンセル伯爵令嬢から使いが来た瞬間、全部置いて行ってしまっただけだ。 「すぐ戻る」 彼が戻ったのは、三時間後だった。 蝋燭は溶け切り、料理は冷え、ワインは乾いていた。 それでもリーゼロッテ・フォン・アルテンベルクは、笑顔で座って待っていた。 「ええ、大丈夫でございます。お気遣いなく」 完璧な微笑みで、完璧にそう言った。

文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる── 侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。 だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。 アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。 そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。 「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」 これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。 ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。 4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。

【完結】婚約破棄、その後の話を誰も知らない

あめとおと
恋愛
奇跡によって病を癒す存在――聖女。 王国は長年、その力にすべてを委ねてきた。 だがある日、 誰の目にも明らかな「失敗」が起きる。 奇跡は、止まった。 城は動揺し、事実を隠し、 責任を聖女ひとりに押しつけようとする。 民は疑い、祈りは静かに現実へと向かっていった。 一方、かつて「悪役」として追放された令嬢は、 奇跡が失われる“その日”に備え、 治癒に頼らない世界を着々と整えていた。 聖女は象徴となり、城は主導権を失う。 奇跡に縋った者たちは、 何も奪われず、ただ立場を失った。 選ばれなかった者が、世界を救っただけの話。 ――これは、 聖女でも、英雄でもない 「悪役令嬢」が勝ち残る物語。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。