【完結】悪意か、善意か、破滅か

野村にれ

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エルム・イン・オルタナキングダム

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 一方、オルタナ王国でエルム・フォンターナは、穏やかに過ごしていた。

 エルムはジェフに想い人が出来てから、手紙を出しても忙しい、会う時間もないと言われており、関わりすらなくなっていた。

 それまではまだ幼かったこともあり、仲のいい友人のような関係を築いていた。

 変わってしまった理由が、何かあるのだろうとは思っていたが、わざわざ調べるようなことはせず、社交界に出てから、ようやく事情を知った。

 ジェフの腕には別の女性がいた。

 シャーリン・ガルッツ子爵令嬢に会うのも初めてであった。それなのに、怯えられるような表情をしていて、被害妄想が酷い女性なのだと思った。

 エルムも時間を作る気のない相手に、会わない間が愛を育てることはなく、言ってくれれば白紙でも解消でもしたのにと思った。

「ジェフ様、そちらはどなたですか?」
「お前には関係のないことだ」
「そうですか…関係がない…そうですか」

 大丈夫だと思っていたが、胸が詰まったような日々が続いた。長雨も続いていた。

 そして、あの日、夜会で年上の知り合いですらない令息や令嬢、しかも王太子殿下にまで、大人数で捲し立てられて、上手く言い返すことが出来ずに、帰ってから酷く悔しい思いをした。

 今ならしっかりと言い返せるのにと思っていたが、そんな日は来なかった。

 家族も忙しいので、胸の内を話したり、泣き言を言ったり、間違いだと言い訳をしたわけではないが、家族はあっさりと国を出ると言い出し、父は騎士団長を辞め、母は商会を閉じて、兄は病院を辞めていた。

 驚きはしたが、さあ行こうと差し出された父の手は、幼子のようで恥ずかしくはあったが、とても大きく温かかった。

「エルムは何も言わなくていい」
「そうよ、あなたは何も悪くない。それだけでいいの」
「そうだ、後ろめたいことなど一つもない」

 ちゃんと伝えなくてはいけないと思っていたエルムに、父も母も兄も言いにくそうな様子に、いつもの無表情のまま言ってくれた。

「ありがとう」

 三人は満足そうに頷き、後ろで使用人たちも同じように頷いていた。

 国を出るために祖父母も合流すると、こちらも表情を崩さずにエルムをギュッと抱きしめた。エルムはふとした瞬間に、胸がキュッと苦しくなることの多かった日々が、癒える気分だった。

「お祖父様、お祖母様もありがとう」
「遅くなってすまなかった」
「そうよ、もっと早く国を出るべきだったわ」

 父や母や兄が手続きをしている間に、祖父母がオルタナ王国に話を付けていた。元々、いつでもいらしてくださいと言われていた国は沢山あった。

「大丈夫なの?」
「ああ、元々フォンターナ伯爵家は何かあれば、国を出る家だ。ご先祖様も、なぜもっと早く出なかったと言っているはずだ」
「そうよ、あなたは笑えるようになればいいの」

 昔から言葉で上手く伝えられないことも、家族は大丈夫だよと、分かっているということがよくあった。不思議には思っていたが、私を想ってくれる人がいることだけで今はいいと思った。

 オルタナ王国で、父はアジェル王国から難癖をつけられたら嫌なので、騎士団には入るつもりはなかったが、どうしてもと言われて、団員ではなく指導者として勤めることになった。

 母はオルタナ王国にも商会があったが、アジェル王国で閉店した分、店舗を増やしているので、大忙しである。

 兄もすぐさま病院の医師として勤めることになり、エルムはまずはオルタナ王国に慣れるためにも、母の商会を手伝っていた。

 アジェル王国とは違い、オルタナ王国は雨が多かったが、気候が安定し、商会も増えたことから、過ごし易く豊かな国になっていっていた。
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