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「はあ…オークリーと同じじゃないか。我が国にやって来たのだから、良いだろうとでも思っているのだろう?」
「それは、そうじゃないですか」
アッシュもアーキュ王国で、最初は大変ではあったが、女性にも悪い印象ばかりではなかったが、色恋にはならないように気を付けていた。
「だから、距離を縮めてもいい、関わりを持とうと思ったのか?勧めても、頼んでもいないのに?」
「私は王子として、もてなしたいと思って」
「本当にオークリーと同じことを言うのだな」
「っ」
兄も弟も自分を正当化しており、口には出すつもりはないが、メーリン王女殿下が美しくもなかったら、このようなことは言いださなかったのだろうと、考えていた。
「まだ婚約者はお決めになっていらっしゃらないそうだが、あれだけ美しい方なのだから、困っていないのだ」
「そんな、話はしていません」
アッシュは慌てて否定したが、実際は国が同じような状況なのだから、困っているのではないかと考えていた。
「そうか?困っているだろうから、あわよくばと思ったんじゃないか?」
「違います」
「ハビット王国との調査のことは、私が陛下から任されている。オークリーにも同じことを言ったのに、お前に言うことにもなるとは…情けない」
バトワスは改めて留学先で、問題を起こさずに帰って来て良かったと思っていた。オークリーも今のところ問題があるような連絡はない。
「でも婚約者はいないのだったら」
アッシュは密かに何度か、偶然を装って、メーリンを見に行っていた。だが、話し掛けるほど近付くことも出来ないままであった。
「婚約者にと申し込みたいとでも言うのか?」
「ですから、話をしてみてと」
申し込んでもいいとは思ったが、まずは話をしてどのような人なのか知りたかったのに、そのような機会がなかったことが不満であった。
いくら近付くなと言われても、会う機会すらないなどと思わないじゃないかと、明日帰国されると聞いて、驚いたくらいである。
「他にも婚約の申し込みは来ていると聞いているぞ?まだ国でやることがあるからと、保留になっているという噂だ」
「っな…」
「王女殿下は国のことを考えてらっしゃるんだ。お前のようなことを考えて、こちらに来ていない。気を悪くされたらどうする?責任を取れるのか?」
「ですが」
「申し込むつもりはない。あちらも調査には良い国だろうが、縁を結びたいとは思っていないだろう」
バトワスはオークリーと同じで少し年上の美しい王女に、目を奪われたのだろうが、アッシュにしてもオークリーにしても、アジェル王国としても望んでいるわけではないが、選ばれることはないだろうとも思っている。
「それとも、本気なのか?どうしても王女殿下を望むのか?おそらく、断られると思うが、陛下に相談した方がいいと言うのか?」
「…それは」
「それとも、王女殿下なら申し込まれて喜ばれるという驕りか?」
「っ、そうではありません」
アッシュも自国では多少ちやほやされる存在ではあるが、どうもギラ付いている令嬢ばかりで、自国の令嬢から婚約者をという気になれないでいた。
そこへやって来たメーリンに、勝手に心を躍らせ、メーリンならアッシュとの縁談を喜ぶだろうと思っていたところはあった。
「はあ…本気ならば、陛下に話をする。どうするんだ?」
「…いえ、大丈夫です」
アッシュは王族という立場から、断られる可能性の高いことは断念するに値した。バトワスもきっと自分が優位だとでも思っていたのだろうと、見抜いていた。
メーリン王女殿下が帰って、数週間が経つ頃、アジェル王国には今までの薬が効かない病が、流行り始めていた。
頭痛や発熱から始まり、咳が起こり、風邪かと思われたが、重篤になると呼吸困難、意識がなくなる症状が起こる者が出始めていた。
「それは、そうじゃないですか」
アッシュもアーキュ王国で、最初は大変ではあったが、女性にも悪い印象ばかりではなかったが、色恋にはならないように気を付けていた。
「だから、距離を縮めてもいい、関わりを持とうと思ったのか?勧めても、頼んでもいないのに?」
「私は王子として、もてなしたいと思って」
「本当にオークリーと同じことを言うのだな」
「っ」
兄も弟も自分を正当化しており、口には出すつもりはないが、メーリン王女殿下が美しくもなかったら、このようなことは言いださなかったのだろうと、考えていた。
「まだ婚約者はお決めになっていらっしゃらないそうだが、あれだけ美しい方なのだから、困っていないのだ」
「そんな、話はしていません」
アッシュは慌てて否定したが、実際は国が同じような状況なのだから、困っているのではないかと考えていた。
「そうか?困っているだろうから、あわよくばと思ったんじゃないか?」
「違います」
「ハビット王国との調査のことは、私が陛下から任されている。オークリーにも同じことを言ったのに、お前に言うことにもなるとは…情けない」
バトワスは改めて留学先で、問題を起こさずに帰って来て良かったと思っていた。オークリーも今のところ問題があるような連絡はない。
「でも婚約者はいないのだったら」
アッシュは密かに何度か、偶然を装って、メーリンを見に行っていた。だが、話し掛けるほど近付くことも出来ないままであった。
「婚約者にと申し込みたいとでも言うのか?」
「ですから、話をしてみてと」
申し込んでもいいとは思ったが、まずは話をしてどのような人なのか知りたかったのに、そのような機会がなかったことが不満であった。
いくら近付くなと言われても、会う機会すらないなどと思わないじゃないかと、明日帰国されると聞いて、驚いたくらいである。
「他にも婚約の申し込みは来ていると聞いているぞ?まだ国でやることがあるからと、保留になっているという噂だ」
「っな…」
「王女殿下は国のことを考えてらっしゃるんだ。お前のようなことを考えて、こちらに来ていない。気を悪くされたらどうする?責任を取れるのか?」
「ですが」
「申し込むつもりはない。あちらも調査には良い国だろうが、縁を結びたいとは思っていないだろう」
バトワスはオークリーと同じで少し年上の美しい王女に、目を奪われたのだろうが、アッシュにしてもオークリーにしても、アジェル王国としても望んでいるわけではないが、選ばれることはないだろうとも思っている。
「それとも、本気なのか?どうしても王女殿下を望むのか?おそらく、断られると思うが、陛下に相談した方がいいと言うのか?」
「…それは」
「それとも、王女殿下なら申し込まれて喜ばれるという驕りか?」
「っ、そうではありません」
アッシュも自国では多少ちやほやされる存在ではあるが、どうもギラ付いている令嬢ばかりで、自国の令嬢から婚約者をという気になれないでいた。
そこへやって来たメーリンに、勝手に心を躍らせ、メーリンならアッシュとの縁談を喜ぶだろうと思っていたところはあった。
「はあ…本気ならば、陛下に話をする。どうするんだ?」
「…いえ、大丈夫です」
アッシュは王族という立場から、断られる可能性の高いことは断念するに値した。バトワスもきっと自分が優位だとでも思っていたのだろうと、見抜いていた。
メーリン王女殿下が帰って、数週間が経つ頃、アジェル王国には今までの薬が効かない病が、流行り始めていた。
頭痛や発熱から始まり、咳が起こり、風邪かと思われたが、重篤になると呼吸困難、意識がなくなる症状が起こる者が出始めていた。
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