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輸入
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「条件を破ったのは、君だろう…何てことをしてくれたんだ」
「じゃあ、あなたはお母様が死んでも良かったって言うの!」
「医師が重症者が優先だと言っただろう」
「お母様は重傷者だったわ」
「年齢的に弱っていただけだと、我が国の医師も判断していただろう」
リネットは弱ってはいた、重症化する可能性もあった。だが呼吸が苦しくなることがあり、ベットで寝ていれば気持ちも弱っていく。
元々、リネットが病気には無縁の健康な姿しか見ておらず、弱った姿にシンバリアは過剰に心配し、受け止めていた。
「気持ちは分かる、だが私は王妃として接するように言ったはずだ。もっと重症な者は沢山いるとも話しただろう?」
呼吸困難になった者、意識がなくなることが多い者、流行り病は呼吸と脳に影響を及ぼしていた。呼吸困難で亡くなった者や、意識を失ってそのまま目覚めず、息絶えた者もいる。
「そんなの誤差の範囲内でしょう」
「もし、優先したことで誰が亡くなっていたら?」
「そんなかもしれない話をされても困るわ!お母様だって亡くなっていたかもしれないじゃない」
医師は一人ではなかった。病院、動けない重傷者には別の医師が向かってはいた。だが、王妃の言葉は重い。
「王妃が率先して、親族の優先を求めたのだ…私ももっと強く止めるべきだった。我が国で開発が出来ていない以上、別の国から輸入するしかない」
「そうよ!別の、確かオルタナ王国が開発していると言っていたじゃない。そちらから輸入しましょう。もう言わないわ」
オイスラッドはオルタナ王国に、輸入を願い出た。
返事は王族が率先して、我が身を優先する国とは取引は遠慮したい、別の国を当って欲しいということであった。カイニー王国のことを聞いているのだと思った。
「別の国…一体、どこに」
自覚のあるオイスラッドは、項垂れるしかなかった。外交担当に他に開発に成功している国はないか、調べて貰うしかなかった。
シンバリアは、リアットのお見舞いに行っていた。
「お母様、本当に良かったわ」
「お祖母様、ご無事で良かったです」
ようやくバトワスも会うことが出来て、少し痩せたが、顔色の良くなったリネットに安堵した。
「わざわざありがとう、お薬のおかげね。有難いことだわ」
「ええ、そうね」
シンバリアは憂いなくということではないが、自分の行ったことに後悔はなかった。もしも母が亡くなっていたら、ずっと後悔し続けていたはずだ。
カイニー王国が駄目でも他の国から輸入すればいい、私がしたことは間違っていないと信じていた。
「オルタナ王国からは断られたよ」
「…な、どうして」
まさか人の命に係わる薬のことで、断られるとは考えていなかった。
そもそも、カイニー王国も縁談などという話ではないのだから、断って来ることがおかしい。王族がと言うのなら、母親を助けたいという、人の心もないのはそちらではないかとすら思い、怒りが沸いていた。
「カイニー王国とのことを聞いたのだろう、遠慮したいとのことだ。薬も既にあと僅かだ。その後はどうするればいいのかと、医師たちにも言われている」
「それは…」
気持ちの話をして、批判したところで、待っていても薬が届くわけではない。
「今、開発に成功している国を探して貰っているが」
「だったら!そんな心の狭い国なんて取引しなくてもいいじゃない」
薬が一つしかなくて、その一つを使ったわけではない。少し早めに診て貰っただけじゃないと、王妃の母親なのだから、そのくらいの優遇はされるべきだと、そんな国と取引しなくてもいいと開き直る気持ちの方が強かった。
「カイニー王国も、オルタナ王国も、正当な価格で輸出しているが、そうではない国かもしれない」
「そんなことはあってはならないわ」
「そうであっても、薬は必要だ。君も責任を感じてくれ」
「…な」
「じゃあ、あなたはお母様が死んでも良かったって言うの!」
「医師が重症者が優先だと言っただろう」
「お母様は重傷者だったわ」
「年齢的に弱っていただけだと、我が国の医師も判断していただろう」
リネットは弱ってはいた、重症化する可能性もあった。だが呼吸が苦しくなることがあり、ベットで寝ていれば気持ちも弱っていく。
元々、リネットが病気には無縁の健康な姿しか見ておらず、弱った姿にシンバリアは過剰に心配し、受け止めていた。
「気持ちは分かる、だが私は王妃として接するように言ったはずだ。もっと重症な者は沢山いるとも話しただろう?」
呼吸困難になった者、意識がなくなることが多い者、流行り病は呼吸と脳に影響を及ぼしていた。呼吸困難で亡くなった者や、意識を失ってそのまま目覚めず、息絶えた者もいる。
「そんなの誤差の範囲内でしょう」
「もし、優先したことで誰が亡くなっていたら?」
「そんなかもしれない話をされても困るわ!お母様だって亡くなっていたかもしれないじゃない」
医師は一人ではなかった。病院、動けない重傷者には別の医師が向かってはいた。だが、王妃の言葉は重い。
「王妃が率先して、親族の優先を求めたのだ…私ももっと強く止めるべきだった。我が国で開発が出来ていない以上、別の国から輸入するしかない」
「そうよ!別の、確かオルタナ王国が開発していると言っていたじゃない。そちらから輸入しましょう。もう言わないわ」
オイスラッドはオルタナ王国に、輸入を願い出た。
返事は王族が率先して、我が身を優先する国とは取引は遠慮したい、別の国を当って欲しいということであった。カイニー王国のことを聞いているのだと思った。
「別の国…一体、どこに」
自覚のあるオイスラッドは、項垂れるしかなかった。外交担当に他に開発に成功している国はないか、調べて貰うしかなかった。
シンバリアは、リアットのお見舞いに行っていた。
「お母様、本当に良かったわ」
「お祖母様、ご無事で良かったです」
ようやくバトワスも会うことが出来て、少し痩せたが、顔色の良くなったリネットに安堵した。
「わざわざありがとう、お薬のおかげね。有難いことだわ」
「ええ、そうね」
シンバリアは憂いなくということではないが、自分の行ったことに後悔はなかった。もしも母が亡くなっていたら、ずっと後悔し続けていたはずだ。
カイニー王国が駄目でも他の国から輸入すればいい、私がしたことは間違っていないと信じていた。
「オルタナ王国からは断られたよ」
「…な、どうして」
まさか人の命に係わる薬のことで、断られるとは考えていなかった。
そもそも、カイニー王国も縁談などという話ではないのだから、断って来ることがおかしい。王族がと言うのなら、母親を助けたいという、人の心もないのはそちらではないかとすら思い、怒りが沸いていた。
「カイニー王国とのことを聞いたのだろう、遠慮したいとのことだ。薬も既にあと僅かだ。その後はどうするればいいのかと、医師たちにも言われている」
「それは…」
気持ちの話をして、批判したところで、待っていても薬が届くわけではない。
「今、開発に成功している国を探して貰っているが」
「だったら!そんな心の狭い国なんて取引しなくてもいいじゃない」
薬が一つしかなくて、その一つを使ったわけではない。少し早めに診て貰っただけじゃないと、王妃の母親なのだから、そのくらいの優遇はされるべきだと、そんな国と取引しなくてもいいと開き直る気持ちの方が強かった。
「カイニー王国も、オルタナ王国も、正当な価格で輸出しているが、そうではない国かもしれない」
「そんなことはあってはならないわ」
「そうであっても、薬は必要だ。君も責任を感じてくれ」
「…な」
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