95 / 196
帰国
しおりを挟む
「お待ちください!」
「お前たち何をしている!」
バトワスは小走りでやって来たアマリリス第一王女、ライラック第三王女、マグノリア第四王女を怒鳴り付けた。
「だってお父様」
「戻れ!」
「お見送りくらいいじゃない」
「いい加減にしなさい!連れて行け」
王女たちは大公閣下たちに近付かせる前で制止し、少しくらいいじゃないと、ギャアギャア騒いでいたが、護衛やメイドに捕まえられて、去って行った。
「きちんと教育された方がよろしいですね」
「大変、申し訳ございません」
表情は冷えたままだが、声も冷えており、バトワスは頭を下げて謝罪した。
「そう言えば、カメリア第二王女を騙した男。殺されたそうですよ?」
バトワスの耳元で、バトワスにしか聞こえないような声で、メイリクスは伝えた。
「っ」
バトワスは結局、カメリアの相手を見付けることは出来ないままであった。
「パスドアーツ公爵家のディランとは知り合いでしてね。騙した男は貴族の庶子ということだったが、どこの国かも分からない。おそらく平民だろうということでした」
バトワスは、やはり貴族ですらなかったのだと思った。
「他の国でも同じようなことをしておりまして、刺されて死にました」
「いつ…ですか?」
どこまで知られているか分からないが、取り繕っても仕方ないと腹を括ったバトワスは、訊ねることにした。
「確か、半年くらい前でしたかね?」
「そうですか…」
「カメリア第二王女も、始めは本物だとすら思っていなかったようですよ」
「っ」
その言葉で、詳しく知っているのだと実感した。
「他国の王女など、見たことがあるわけでもないですからね。まあ、彼にとってはどちらでも良かったのでしょう」
「それはどういう意味でしょうか?」
平民が公爵令息だと偽り、一国の王女を騙して、妊娠までさせて、どうなるかもわからなかったというのかと、怒りが込み上げて来た。
「破滅志願者だったようです」
「破滅、志願者…?」
バトワスは初めて聞く言葉であった。
「自分の人生なんてどうなってもいいと思っていたのですよ。そうでもないとパスドアーツ公爵令息などと偽るなんて、死にたいのかと思われても仕方ないですからね」
「…」
バトワスは驚きの事実でもあったが、パスドアーツ公爵家がそのような恐ろしい家だったことを知らなかった。あれから、連絡がないと思っていたが、急かすような真似をしなくて良かった。
いや、もしかしたら公爵令息などと偽る者を破滅志願者と、判断したということなのかもしれないと感じてもいた。
刺されたと言うのも、もしかしたら…。いや、亡くなったのなら、今更どうすることも出来ない、考えても仕方ない。
「父上、帰りますよ!」
「ああ、では」
メイリクスはエノンに声を掛けられて、そのまま颯爽と去って行った。
バトワスは今にも座り込みそうになりながら、何とか立ったまま二人を見送った。
「バトワス、何かあったのか?」
「場所を変えてお話しします」
そして、応接室に移動し、オイスラッドにカメリアの相手のことを教えられたことを話した。
「殺されたのか…?」
「名前も聞けませんでしたが、大公閣下が嘘を付く必要がありません。パスドアーツ公爵家からも、報告はありませんでした」
「連絡はしていないのだろう?」
「はい」
半年前に殺されたと聞き、大公閣下よりも、パスドアーツ公爵はどうして教えてくれなかったのかと一瞬思ってしまったが、考えは打ち消した。
「ならば、もう終わりにすればいい。どこの誰か分かったところで、亡くなっているのなら、どうにもならない」
「そうですね…私も、フォンターナ嬢の罰を受けますので、与えてください」
バトワスはエルム・フォンターナの件で、罰を受けるべき一人だときちんと理解していた。
「お前たち何をしている!」
バトワスは小走りでやって来たアマリリス第一王女、ライラック第三王女、マグノリア第四王女を怒鳴り付けた。
「だってお父様」
「戻れ!」
「お見送りくらいいじゃない」
「いい加減にしなさい!連れて行け」
王女たちは大公閣下たちに近付かせる前で制止し、少しくらいいじゃないと、ギャアギャア騒いでいたが、護衛やメイドに捕まえられて、去って行った。
「きちんと教育された方がよろしいですね」
「大変、申し訳ございません」
表情は冷えたままだが、声も冷えており、バトワスは頭を下げて謝罪した。
「そう言えば、カメリア第二王女を騙した男。殺されたそうですよ?」
バトワスの耳元で、バトワスにしか聞こえないような声で、メイリクスは伝えた。
「っ」
バトワスは結局、カメリアの相手を見付けることは出来ないままであった。
「パスドアーツ公爵家のディランとは知り合いでしてね。騙した男は貴族の庶子ということだったが、どこの国かも分からない。おそらく平民だろうということでした」
バトワスは、やはり貴族ですらなかったのだと思った。
「他の国でも同じようなことをしておりまして、刺されて死にました」
「いつ…ですか?」
どこまで知られているか分からないが、取り繕っても仕方ないと腹を括ったバトワスは、訊ねることにした。
「確か、半年くらい前でしたかね?」
「そうですか…」
「カメリア第二王女も、始めは本物だとすら思っていなかったようですよ」
「っ」
その言葉で、詳しく知っているのだと実感した。
「他国の王女など、見たことがあるわけでもないですからね。まあ、彼にとってはどちらでも良かったのでしょう」
「それはどういう意味でしょうか?」
平民が公爵令息だと偽り、一国の王女を騙して、妊娠までさせて、どうなるかもわからなかったというのかと、怒りが込み上げて来た。
「破滅志願者だったようです」
「破滅、志願者…?」
バトワスは初めて聞く言葉であった。
「自分の人生なんてどうなってもいいと思っていたのですよ。そうでもないとパスドアーツ公爵令息などと偽るなんて、死にたいのかと思われても仕方ないですからね」
「…」
バトワスは驚きの事実でもあったが、パスドアーツ公爵家がそのような恐ろしい家だったことを知らなかった。あれから、連絡がないと思っていたが、急かすような真似をしなくて良かった。
いや、もしかしたら公爵令息などと偽る者を破滅志願者と、判断したということなのかもしれないと感じてもいた。
刺されたと言うのも、もしかしたら…。いや、亡くなったのなら、今更どうすることも出来ない、考えても仕方ない。
「父上、帰りますよ!」
「ああ、では」
メイリクスはエノンに声を掛けられて、そのまま颯爽と去って行った。
バトワスは今にも座り込みそうになりながら、何とか立ったまま二人を見送った。
「バトワス、何かあったのか?」
「場所を変えてお話しします」
そして、応接室に移動し、オイスラッドにカメリアの相手のことを教えられたことを話した。
「殺されたのか…?」
「名前も聞けませんでしたが、大公閣下が嘘を付く必要がありません。パスドアーツ公爵家からも、報告はありませんでした」
「連絡はしていないのだろう?」
「はい」
半年前に殺されたと聞き、大公閣下よりも、パスドアーツ公爵はどうして教えてくれなかったのかと一瞬思ってしまったが、考えは打ち消した。
「ならば、もう終わりにすればいい。どこの誰か分かったところで、亡くなっているのなら、どうにもならない」
「そうですね…私も、フォンターナ嬢の罰を受けますので、与えてください」
バトワスはエルム・フォンターナの件で、罰を受けるべき一人だときちんと理解していた。
4,228
あなたにおすすめの小説
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢
alunam
恋愛
婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。
既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……
愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……
そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……
これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。
※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定
それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!
婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
フッてくれてありがとう
nanahi
恋愛
「子どもができたんだ」
ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。
「誰の」
私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。
でも私は知っている。
大学生時代の元カノだ。
「じゃあ。元気で」
彼からは謝罪の一言さえなかった。
下を向き、私はひたすら涙を流した。
それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。
過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる