【完結】悪意か、善意か、破滅か

野村にれ

文字の大きさ
106 / 196

子爵夫妻4

しおりを挟む
「夫人、発言の意味を説明をしてくれ」
「ですから、お金に困っていないのですから、そのようなことを求めなかったのではないかと…思い、まして」
「だから、支払わなくていいと思っているということで、合っているか?」
「え…ですから」
「ハッキリ話せ!」

 さすがに渋り続けて、口籠る夫妻にオイスラッドも辟易した。

「っはい、申し訳ございません!」

 そのまま、黙り込んだマレーラにオイスラッドは、このような者たちだったのかと怒りで震えた。

「なぜ、答えることも出来ない?」

 マレーラは下を向き、小刻みに震えていた。

「はあ…前子爵、払いたくないということか?」
「いえ、払えるお金があれば払いたいと思っております」
「1ジェルもないのか?」

 シャーリンは稼いだお金で払って貰うが、ガルッツ子爵家が裕福ではないことは分かっているので、500万は王家で貸し出すつもりであった。

「私たちの生活費で…」
「そうか、ならば払わないと返答して構わないな?」
「…それは」

 オイスラッドもシンバリアのこと、バトワスのことで負い目がある。予算を半分にしただけでは足りないとも思っているのに、どうして自分の子どもの責任すら、父親も母親も取ろうとしないのかが分からない。

「もし、輸入が止まったら、二人に責任を取って、輸入して貰おう」
「っな…なぜですか」

 ガルッツ子爵家に伝手もなく、そもそも絶対にそんなお金は用意が出来ない。

「勿論、王妃にも責任がある、だから王妃は責任を取った。だが、夫妻は当事者であるにも関わらず、責任を取らない。そう報告するしかないだろう?」
「止まる…可能性があるのですか?」

 シンバリアは皆から軽蔑の眼差しで見られていることから、私たちが責任を取らなければ、もっと酷いことになることは分かる。

 だが引退し、天候も一切戻る様子はなく、元々ガルッツ子爵家は豊かではなかったので、それほど被害はなかったが、潤うようなことはなかった。

 それでも贅沢は出来ないが、穏やかな生活をしていたのに、シャーリンの離縁から一気に、求めていた生活ではなくなっていた。

 借金をして、また働き、生きて行くことがどうしても受け入れられなかった。

「あるだろう。他は皆、それぞれに責任を取った。当事者ではなく、賛同しただけの者たちもな。取っていないのはガルッツ子爵家だけだよ。とは言っても、責任は当主ではなく、当時の当主だろう」
「皆、お金があるからで」
「厳しい家もあっただろう、それでも借りてでも支払いに来たさ。娘もだが、親もこれでは…」

 シャーリンも伯爵夫人だったとは思えないほど酷い有様だったが、この両親に育てられたのなら、どっちもどっちである。

「シャーリン・ガルッツが支払うと報告する。もしかしたら、レオラッド大公閣下からも、罰があるかもしれないが、それはあちらが決めることだから、真摯に受け止める様に。もう帰っていい。下がらせろ」

 カッシャーとマレーラは、まだもごもごと言っていたが、追い出された。

 王命として言うことを聞かせることも出来たが、レオラッド大公閣下が望むことではないだろう。隠し立てせず、ありのままを伝えることにした。

 現当主は可哀想だが、覚悟をしていると言っていたことから、爵位をはく奪して、資産を差し押さえるしかない。

 その旨を書いて送るつもりである。

 結局、何もせずに戻ったカッシャーとマレーラは、払いたくない癖に、これからに不安を抱いていた。

 邸に戻ると、陛下に呼ばれたと聞いていたベリックが待ち構えていた。

「どうだった?」
「…シャーリンが支払うことになった」
「支払いを拒否したんだな?」

 陛下と対峙して、支払うというかは五分五分であった。ある意味、国王陛下にも責任を取らないような子爵家は要らないとされるだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

フッてくれてありがとう

nanahi
恋愛
「子どもができたんだ」 ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。 「誰の」 私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。 でも私は知っている。 大学生時代の元カノだ。 「じゃあ。元気で」 彼からは謝罪の一言さえなかった。 下を向き、私はひたすら涙を流した。 それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。 過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

alunam
恋愛
 婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。 既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……  愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……  そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……    これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。 ※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定 それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!

処理中です...