【完結】悪意か、善意か、破滅か

野村にれ

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悪あがき1

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「ち、違うわ!」

 いくら不貞行為に耽っていたとはいえ、シャーリンはあくまで奉仕させる側であって、娼婦になりたいわけではなかった。

「カフェとか…給料も高いって聞いたわ」

 工場で働いていた時に、他の工員が話をしていたことを聞いていた。

「雇うなら若い子を雇うのではないか?現実を見なさい」
「っな、お兄様は知らないかもしれないけど、若い子だけじゃないのよ!」

 シャーリンも働き出す前はカフェには何度か行ったことがあり、同じくらいの年の女性も働いていることを知っていた。

「受けてみたいなら、受けてみたらいい。だが、その間も返済日は迫っている。自分で決めるなら一週間だけ猶予をやる、逃げたらもっと厳しい仕事をさせられることになるからな?」
「わ、分かっているわ」

 若い子だけを雇うわけではないとはいえ、見た目も悪くなり、わざわざ礼儀を弁えないシャーリンを雇うとは思えない。

 行動力のないシャーリンも、切羽詰まっていたのか、カフェの仕事をしたいと案内所に行ったようだが、雇ってくれるようなカフェはなかった。

 シャーリンに接客が出来るはずがない、しかも不貞を犯して離縁された者など店の評判にも関わるだろうとベリックは思っていた。

 結局、消去法で清掃の仕事をすることに決まった。だが、今度は寮に入るとは思っていなかったようで、文句を言い始めた。

「どうして寮に!」
「移動に便利だからだ、お前は馬車も持っていないだろう?」

 清掃と言っても、邸を掃除するだけではなく、多岐に渡る。様々なところに派遣されて、清掃を行うことになっているそうだ。

「王宮とか、高位貴族の邸ではないの?」

 シャーリンは伯爵夫人ではあったが、王宮と高位貴族の邸で働くことに子爵令嬢であったために、抵抗はあったが理解もあった。

「そんなところでお前が雇って貰えるわけがないだろう?」
「そんなことないわ」
「はあ…評判の悪いお前には無理だよ」
「評判が悪いなんて」
「不貞を犯したんだ!当たり前だろう!」

 まともな邸では不貞を犯したようなシャーリンを雇うはずがない。王宮は論外だが、高位貴族の邸なら掃除だけではなく、メイドという立場になる。

 しかも国王陛下に呼び出されたことで、妊娠しているのを見た者だっている。ジェフ様が妊娠しているシャーリンを追い出したように思う者もいたが、ジェフ様は自分の子ではないと話している。

 事実なのだから当たり前だ。だからこそ子どもは可哀想かもしれないが、養子に出す以外、あの子がまともな人生を送れる選択肢はなかっただろう。

「っ、でも」
「それとも、お前が不貞を犯すために通っていた評判の悪い邸で、働きたいか?」
「…っ」

 さすがにそのような邸で働きたくはない、しかもシャーリンの友人の邸などで、働くことはさすがにシャーリンも耐えられない。

「大人しく寮に入って、しっかり働きなさい」
「でも、本当に働くしかないの…?私は子どもを養子にまで出したのよ?」
「養子に出したから、なかったことになるとでも思っているのか?ふざけるな!」
「でも、もういないのよ?」

 堕胎すると言っていた女であったことを、嫌でも思い出すことになった。

「ジェフ様が許してくれると思っているのか?」
「ジェフなら話せば分かってくれるわ」
「あり得ない、借金も代理回収業者に頼まれたそうだ。逃げることは出来ないぞ」
「…な、どうして」
「お前の王宮での様子に、そうすることにしたそうだ」

 ベリックもジェフから、まだ助けて貰えると勘違いをしているシャーリンの様子から、借金を代理回収業者に頼んだという報告の手紙を受け取っていた。

「そんな…」
「お前に関わりたくないという意思表示だ!」

 シャーリンには衝撃であった。借金もいずれはジェフがもういいと言ってくれる、子どもたちが助けてくれると今だけだと信じていた。
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