176 / 196
エルム・イン・オルタナキングダム2
しおりを挟む
エルム・レオラッドは、アジェル王国でのエノンの話を聞き、自分もアジェル王国のフォンターナ家の跡地を見たいと思うようになった。
「アジェル王国に、行ってみようかと思うの」
「構わないと思うけど、なぜだい?」
「見てみたいのよ」
「何が見たいんだい?」
エルムと話しているのは、兄であるジェラルドである。
二人は仲良く同じ時間を過ごすような兄妹ではないが、何かあればエルムが相談をするのは夫・メイリクスと、両親とジェラルドである。
メイリクスは私だけでいいではないかと、少々不満に思っているが、エルムにどうして?と言われれば、返す言葉がない。
「フォンターナ家とアニバーサリーの跡地よ」
「アニバーサリーの方は、別の店が入ったと聞いているけど?」
フォンターナ家の跡地は邸を壊してそのままと聞いているが、アニバーサリーはすぐに今度は私たちが国内トップの商会にと思った貴族が買ったと聞いていた。
「それでもいいの。これきりで、最初で最後に見て来ようかと思って」
「そうか、それで義弟は何と言っているんだ?」
エルムの希望は、何が何でも叶えるだろうメイリクスではあるが、アジェル王国に行くことはあまりいい顔をしないのではないかと思っている。
エノンのことも、ジェラルドも腹を立てたが、当事者よりも怒っていたのはメイリクスである。
二十年の禁固刑では足らないと、だが死罪にしてはエノンも気が悪いだろうと説得して、エノンがあっさりと24歳なのだから、切りよく50歳まで禁固刑にしたらいいのではないかと提案した。
メイリクスも容赦なく50歳になって出て来ても、王女でもないし、恥を掻くだけでしょうと言うエノンに、何とか怒りを鎮めた。
「一緒に行くと言っているけど、見に行くだけなのよ?」
「エノンも大変なことになったじゃないか」
「そうだけど…」
エルムも少し大人っぽいかなと思っているエノンだが、まさか24歳の王女に言い寄られるなんて、気持ち悪いと渋い顔をした。おかげで、メイリクスの怒りはさらに増してしまったのである。
「義弟か、父上か母上と一緒に行くのなら、いいんじゃないか」
「皆、過保護ね」
「嫌な思いをして欲しくないんだよ」
もう傷は癒えていると思うが、エノンがわずかな時間であんな目に遭ったことで、嫌な予感を感じてしまうのも無理はないだろう。
エルムはオルタナ王国に来て、二週間が経ったくらいでようやく、ジェフやマクローズ伯爵夫妻、バトワス、シャーリン、オリビア、側近たちに辛く憤りを感じたことを、泣きながら吐露したのだ。
ジェラルドも、両親も、祖父母もその姿を見ているだけで、胸が痛み、苦しくなった。だがきっとエルムはもっと辛い思いをしただろうと、エルムの言葉を皆で噛み締めたのである。
エルムにはビアターナ男爵家、ソターナ男爵家の者が付いていたが、相手が王太子であったことで、何も出来なかった。
しかも、エルムに私が話すから言わないでと言われていたことで、黙っていた。
ゆえに、オズワルドとオルダに呼ばれた際に、ようやく話すことが出来る。こんな王族のいる国は見限ってしまえと思っていたそうである。
エルムも苦しめばいいと言ったように、謝罪も慰謝料も要らないと、二度と関わることは望まなかった。
「大丈夫よ。丁度ね、新作の寝間着の制作に入ったから、その間に行って来ようと思っているの。あとお兄様の言っていた容器も出来そうよ」
「吸入器か?」
「ええ、吸入器と薬液をセットするようにして、回数表示が出来るようにして、作って貰っているわ」
「回数表示も?それは助かるな」
ジェラルドは薬については優秀だが、仕入れや容器などはエルムの方が、的確に手に入れ、的確な物を作る。
吸入器も小型の物が出来ないかと、相談をしていた。
「そうでしょう?」
「行くなら気を付けて行って来い」
「ありがとう」
「アジェル王国に、行ってみようかと思うの」
「構わないと思うけど、なぜだい?」
「見てみたいのよ」
「何が見たいんだい?」
エルムと話しているのは、兄であるジェラルドである。
二人は仲良く同じ時間を過ごすような兄妹ではないが、何かあればエルムが相談をするのは夫・メイリクスと、両親とジェラルドである。
メイリクスは私だけでいいではないかと、少々不満に思っているが、エルムにどうして?と言われれば、返す言葉がない。
「フォンターナ家とアニバーサリーの跡地よ」
「アニバーサリーの方は、別の店が入ったと聞いているけど?」
フォンターナ家の跡地は邸を壊してそのままと聞いているが、アニバーサリーはすぐに今度は私たちが国内トップの商会にと思った貴族が買ったと聞いていた。
「それでもいいの。これきりで、最初で最後に見て来ようかと思って」
「そうか、それで義弟は何と言っているんだ?」
エルムの希望は、何が何でも叶えるだろうメイリクスではあるが、アジェル王国に行くことはあまりいい顔をしないのではないかと思っている。
エノンのことも、ジェラルドも腹を立てたが、当事者よりも怒っていたのはメイリクスである。
二十年の禁固刑では足らないと、だが死罪にしてはエノンも気が悪いだろうと説得して、エノンがあっさりと24歳なのだから、切りよく50歳まで禁固刑にしたらいいのではないかと提案した。
メイリクスも容赦なく50歳になって出て来ても、王女でもないし、恥を掻くだけでしょうと言うエノンに、何とか怒りを鎮めた。
「一緒に行くと言っているけど、見に行くだけなのよ?」
「エノンも大変なことになったじゃないか」
「そうだけど…」
エルムも少し大人っぽいかなと思っているエノンだが、まさか24歳の王女に言い寄られるなんて、気持ち悪いと渋い顔をした。おかげで、メイリクスの怒りはさらに増してしまったのである。
「義弟か、父上か母上と一緒に行くのなら、いいんじゃないか」
「皆、過保護ね」
「嫌な思いをして欲しくないんだよ」
もう傷は癒えていると思うが、エノンがわずかな時間であんな目に遭ったことで、嫌な予感を感じてしまうのも無理はないだろう。
エルムはオルタナ王国に来て、二週間が経ったくらいでようやく、ジェフやマクローズ伯爵夫妻、バトワス、シャーリン、オリビア、側近たちに辛く憤りを感じたことを、泣きながら吐露したのだ。
ジェラルドも、両親も、祖父母もその姿を見ているだけで、胸が痛み、苦しくなった。だがきっとエルムはもっと辛い思いをしただろうと、エルムの言葉を皆で噛み締めたのである。
エルムにはビアターナ男爵家、ソターナ男爵家の者が付いていたが、相手が王太子であったことで、何も出来なかった。
しかも、エルムに私が話すから言わないでと言われていたことで、黙っていた。
ゆえに、オズワルドとオルダに呼ばれた際に、ようやく話すことが出来る。こんな王族のいる国は見限ってしまえと思っていたそうである。
エルムも苦しめばいいと言ったように、謝罪も慰謝料も要らないと、二度と関わることは望まなかった。
「大丈夫よ。丁度ね、新作の寝間着の制作に入ったから、その間に行って来ようと思っているの。あとお兄様の言っていた容器も出来そうよ」
「吸入器か?」
「ええ、吸入器と薬液をセットするようにして、回数表示が出来るようにして、作って貰っているわ」
「回数表示も?それは助かるな」
ジェラルドは薬については優秀だが、仕入れや容器などはエルムの方が、的確に手に入れ、的確な物を作る。
吸入器も小型の物が出来ないかと、相談をしていた。
「そうでしょう?」
「行くなら気を付けて行って来い」
「ありがとう」
3,390
あなたにおすすめの小説
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢
alunam
恋愛
婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。
既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……
愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……
そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……
これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。
※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定
それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!
婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる