【完結】悪意か、善意か、破滅か

野村にれ

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エルム・イン・オルタナキングダム2

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 エルム・レオラッドは、アジェル王国でのエノンの話を聞き、自分もアジェル王国のフォンターナ家の跡地を見たいと思うようになった。

「アジェル王国に、行ってみようかと思うの」
「構わないと思うけど、なぜだい?」
「見てみたいのよ」
「何が見たいんだい?」

 エルムと話しているのは、兄であるジェラルドである。

 二人は仲良く同じ時間を過ごすような兄妹ではないが、何かあればエルムが相談をするのは夫・メイリクスと、両親とジェラルドである。

 メイリクスは私だけでいいではないかと、少々不満に思っているが、エルムにどうして?と言われれば、返す言葉がない。

「フォンターナ家とアニバーサリーの跡地よ」
「アニバーサリーの方は、別の店が入ったと聞いているけど?」

 フォンターナ家の跡地は邸を壊してそのままと聞いているが、アニバーサリーはすぐに今度は私たちが国内トップの商会にと思った貴族が買ったと聞いていた。

「それでもいいの。これきりで、最初で最後に見て来ようかと思って」
「そうか、それで義弟は何と言っているんだ?」

 エルムの希望は、何が何でも叶えるだろうメイリクスではあるが、アジェル王国に行くことはあまりいい顔をしないのではないかと思っている。

 エノンのことも、ジェラルドも腹を立てたが、当事者よりも怒っていたのはメイリクスである。

 二十年の禁固刑では足らないと、だが死罪にしてはエノンも気が悪いだろうと説得して、エノンがあっさりと24歳なのだから、切りよく50歳まで禁固刑にしたらいいのではないかと提案した。

 メイリクスも容赦なく50歳になって出て来ても、王女でもないし、恥を掻くだけでしょうと言うエノンに、何とか怒りを鎮めた。

「一緒に行くと言っているけど、見に行くだけなのよ?」
「エノンも大変なことになったじゃないか」
「そうだけど…」

 エルムも少し大人っぽいかなと思っているエノンだが、まさか24歳の王女に言い寄られるなんて、気持ち悪いと渋い顔をした。おかげで、メイリクスの怒りはさらに増してしまったのである。

「義弟か、父上か母上と一緒に行くのなら、いいんじゃないか」
「皆、過保護ね」
「嫌な思いをして欲しくないんだよ」

 もう傷は癒えていると思うが、エノンがわずかな時間であんな目に遭ったことで、嫌な予感を感じてしまうのも無理はないだろう。

 エルムはオルタナ王国に来て、二週間が経ったくらいでようやく、ジェフやマクローズ伯爵夫妻、バトワス、シャーリン、オリビア、側近たちに辛く憤りを感じたことを、泣きながら吐露したのだ。

 ジェラルドも、両親も、祖父母もその姿を見ているだけで、胸が痛み、苦しくなった。だがきっとエルムはもっと辛い思いをしただろうと、エルムの言葉を皆で噛み締めたのである。

 エルムにはビアターナ男爵家、ソターナ男爵家の者が付いていたが、相手が王太子であったことで、何も出来なかった。

 しかも、エルムに私が話すから言わないでと言われていたことで、黙っていた。

 ゆえに、オズワルドとオルダに呼ばれた際に、ようやく話すことが出来る。こんな王族のいる国は見限ってしまえと思っていたそうである。

 エルムも苦しめばいいと言ったように、謝罪も慰謝料も要らないと、二度と関わることは望まなかった。

「大丈夫よ。丁度ね、新作の寝間着の制作に入ったから、その間に行って来ようと思っているの。あとお兄様の言っていた容器も出来そうよ」
「吸入器か?」
「ええ、吸入器と薬液をセットするようにして、回数表示が出来るようにして、作って貰っているわ」
「回数表示も?それは助かるな」

 ジェラルドは薬については優秀だが、仕入れや容器などはエルムの方が、的確に手に入れ、的確な物を作る。

 吸入器も小型の物が出来ないかと、相談をしていた。

「そうでしょう?」
「行くなら気を付けて行って来い」
「ありがとう」
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