【完結】悪意か、善意か、破滅か

野村にれ

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マクローズ伯爵家2

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「だって、素晴らしいご縁だと思ったの」
「本当に、そんなことを…言ったのか?」
「だって、大公閣下夫人だとは知らなくて」

 大公閣下夫人だとは思わず話してしまったのは良くなかったが、良い縁談を運んで来たのではないかと、ハイリーは受け取っていた。

「結べたら、大公家の一員になれるのよ?フォンターナ夫人は今でも商会をされているそうだから、いい縁談でしょう?だから勧めたのだけど」
「私のしたことを考えれば、受けるわけないだろう!誰が不貞を働いた夫妻の子を嫁に貰いたいと思うんだ!」
「でっ、でも」
「母上なら父上が不貞を犯して離縁して、不貞相手との子どもと、自分が再婚相手との子どもを結婚させたいと思うか?」
「そ、れは…」

 さすがのハイリーも、思わず嫌だと思ってしまった。

「政略結婚にもならない。あちらからしたら何の利益もない相手だからな」
「それは、そんなことないわ」
「そうじゃないか、私の時と同じだろう?マクローズ伯爵家にしか利益なんてなかった!よく結んでくれたものだよ」
「そんなことない!どうしてそんなに卑下するの」
「お金も、商会も、あちらは騎士団長だったのですよ」

 地位もお金も、フォンターナ伯爵家の方が、マクローズ伯爵家よりすべて勝っていた。だからこそ、マクローズ伯爵家は目を付けたのに、ハイリーは事実だとしても認めたくなかった。

「でも、エルムさんは」
「大公閣下夫人だ!」
「っ!大公閣下夫人は、ジェフのことを好きだったじゃない」
「それはないだろう」
「いいえ、エルムさんは」
「大公閣下夫人だと、何度言ったら分かるんだ!誰かに聞かれて、相手は王族だぞ!不敬を問われて、母上に責任が取れるのか!」
「ご、ごめんなさい…」

 ハイリーも、不敬という言葉に怯んだ。

「でもジェフのことが好きだから、何も言わなかったのよ」
「そうだとしても、過去のことだ。しかも、あんな風に邪険にして、婚約破棄して、国からも出て行き、憎まれて当然だろう?」
「でも、一度は好意を持ってくれた相手なら、優しくしてあげたいと思うでしょう」
「はあ…そうではないことは分かっているだろう?呆けたのか?」
「ジェフまでなんて酷いことを言うの!」

 エルムに散々言われて、ハイリーは呆けたのかに過剰に敏感になっていた。

「ディールは、アジェル王国をあなた方のせいで見限ったと言われたのよ!それがショックだったの」

 ハイリーは伏し目がちに、辛そうに吐露した。

「当然だろうな」
「え?ジェフは知っていたの?」
「この前、王太子殿下にお聞きしたよ。ディールが、アジェル王国に商会を置くことは二度とないと」
「でもあちらだって商売なのに」
「商売だからこそ、信頼の出来ない国には出さないということだよ」

 ディールはアニバーサリーを通じて、アジェル王国を見限った。フォンターナ家が出て行ったのだから、当然だろう。

「でも」
「現在、オルタナ王国にあるフォンターナ家の商会はディールの商会で、大公閣下夫人と兄君が経営されている」
「………え」
「あちらに移ったということだよ」
「え、大公閣下夫人が?」
「ああ」
「フォンターナ夫人が…商会をされていると」

 ハイリーはオルダ夫人が今でも商会をされていると聞いて、また融通して貰いたいと強く思った。だから、エルムは関わっていないと考えていた。

「今でも手伝ってらっしゃるのだろう、大公閣下夫人がおっしゃったのならば、経営者の言葉だよ」
「そんな…じゃあ、大公閣下夫人なのに商会を…」
「そう言っているじゃないか」
「じゃあ!アニバーサリーは…お願いしたのに」
「お願い?」
「アニバーサリーだけでも戻してくださらないかと、お願いしたの」
「は?」

 再びジェフは、愚かなハイリーに言葉を失うことになった。
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